第65話 実践
ポータルを抜け、15階層に出る。
「行きましょう!」
桃が片手剣と盾を確認しながら歩き出す。
「新しい武器、早く使いたいです!」
「私も楽しみです」
茜も腰に下げた二本のワンドへ手を添える。
葵はもうモーニングスターを握っている。
分かりやすいな。
「今日は魔装金属の採取が仕事だからな」
「分かってますよー」
本当か?
16階層。
複数の足音が近づいてくる。
来たか。
「来ました!」
桃が盾を構える。
「六体」
葵もモーニングスターを握り直す。
「三人でいけるか?」
「大丈夫です!」
「いけます」
葵は無言で前へ出た。
問題なさそうだ。
桃が攻撃を受け止めながら前線を維持し、その横から葵の鉄球が飛ぶ。
後方から茜の魔法が続き、残ったモンスターも次々と倒れていった。
しばらくして、最後の一体が消える。
「どうだ?」
「かなり使いやすいです! 前より動きやすいですね」
桃が片手剣を軽く振る。
「私も二本の違いが思ったより分かりやすいです。持ち替えはもう少し慣れたいですけど」
葵はモーニングスターを持ち上げる。
「軽い」
三人とも問題はなさそうだ。
床には六つの魔石が残っている。
葵が一つに近づいた。
「待て。それ会社のだろ」
ぴたりと止まる。
「あ」
桃も魔石を見る。
17階層までの往復分は提出しないとな。
「じゃあ壊せないですね」
「今はな」
葵が不満そうにこっちを見る。
「いつ?」
「魔装金属のノルマが終わってからだ」
「終わったら?」
「時間作る。その時に試せばいい」
葵は素直に魔石を収納袋へ入れる。
納得したか。
「じゃあ早く行きましょう!」
「採取が本来の仕事だからな」
「分かってますって」
さっきから信用できない。
17階層に入り、俺の案内で進行ルートを外れる。
「こんなところにあるんですね」
桃が周囲を見回す。
「ああ。前に来た時に見つけた」
しばらく進み、岩壁の前で足を止める。
「探すぞ」
「壁に魔力を流して、光るところを探すんですよね」
桃が壁を見る。
「ああ」
「いちじょーよろしく」
葵が一歩下がる。
「当然みたいに言うな」
「できないから」
まあ、今の魔力量じゃ無理か
壁へ手を当て、魔力を流す。
少しすると、岩の奥に青白い光が浮かび上がった。
「あ、ありました!」
「こっちにもあるな」
場所をずらしながら探していく。
思ったより多い。
「結構ありそうですね」
「これなら必要な分は取れそうです」
「じゃあ掘るぞ」
工具袋から採掘道具を取り出す。
光の位置を確認し、先端を岩壁へ打ち込む。
柄から魔力を一気に送り込んだ。
バキッ。
亀裂が走り、岩が崩れ落ちる。
「取ってくれ」
「はーい!」
露出した魔装金属を桃と茜が回収し、収納袋へ入れていく。
葵もすぐに動いた。
……速いな。
よく見ると身体強化まで使ってる。
無駄に魔力使うなよ。
「いちじょー、次」
「早いな」
「待ってる」
「分かったって」
次の場所を探す。
見つける。
掘る。
三人が回収する。
俺が場所を移るたび、葵もすぐについてくる。
完全に早く終わらせる気だな。
まあ、作業が早いのは助かる。
そのまま採掘を続けていると、いつの間にか昼を過ぎていた。
「こんなもんか」
収納袋の中を確認する。
「終わり?」
葵がすぐに顔を上げる。
「ああ」
その瞬間、通路の奥へ視線を向けた。
「戻るぞ」
「え?」
「まだ時間ありますよ?」
桃も時計を見る。
「魔石壊す時間作ってくれるって言いましたよね」
「言った」
「じゃあ、この辺でモンスター探しましょうよ」
「いいからついてこい」
「えー」
葵も通路の奥と俺を交互に見る。
「大丈夫だ。戻るぞ」
「……分かった」
15階層。
「ポータル行かないんですか?」
「こっちだ」
そのまま別の通路へ進む。
「ここって……」
そろそろ気づくか。
「あれ?」
桃が首を傾げる。
「ボス部屋ですね」
葵の視線が扉へ向く。
「ああ」
「もしかして、ここで魔石壊すんですか?」
「普通のモンスターを探して回るより、ボスを倒した方が効率いい」
「あー!」
桃も分かったらしい。
「ボスの方が魔力の素が多いんですね」
「そういうことだ。正確には分からんが、普通のモンスター数十体分はある」
「そんなにですか!?」
葵が扉を見る。
「周回できる?」
「そのために来た」
「やる」
急に機嫌よくなったな。
「全力でいきましょう!」
桃が盾を構える。
「気持ちは分かりますけど、無理して怪我しないように気をつけましょう」
茜だけが冷静だな。
三人がボス部屋へ入る。
ミノタウロスが咆哮を上げ、地響きとともに突進する。
桃が真正面から盾を構え、受け止めた。
「重い……けどっ」
それでも踏みとどまり、攻撃を弾く。
体勢を崩したミノタウロスの側面へ、葵が踏み込んだ。
モーニングスターが横腹を捉え、巨体が大きく傾ぐ。
すかさず茜の魔法が追撃する。
よろめいたところへ桃が斬り込んだ。
いい感じだ。
程なくして、ミノタウロスの身体が崩れ、そのまま消えた。
「倒したー!」
桃が大きく息を吐く。
「前より早かったですね」
茜が時計を見る。
「8分ぐらいか」
「武器が変わったのも大きそうですね」
「私も前より動きやすかったです!」
床には大きな魔石。
葵がすぐにそっちを見る。
「今度は壊していいぞ」
返事より先にモーニングスターを構えた。
「魔力を回すの忘れるなよ」
「分かってる」
三人が全身に魔力を巡らせる。
葵がモーニングスターを振り下ろした。
魔石が砕ける。
散った破片は、そのまま消えていった。
「……」
三人が自分の身体を確認する。
「どうだ?」
「……何も分かりません」
桃が首を傾げる。
「私も特には」
「分からない」
「そりゃそうだ」
「え?」
「効率がいいだけで、一回で違いが分かるくらい増えるわけじゃない」
「ボスでもですか?」
「ああ」
そんな簡単に増えるなら苦労しない。
「でも増えてる?」
「増えてる」
葵が再びボス部屋を見る。
「じゃあ、もう一回」
「何回やります?」
桃が聞く。
「限界まで」
葵が即答した。
倒されるミノタウロスが可哀想だ。
「私もやります!」
「新しい武器の練習にもなりますし、私も大丈夫です」
三人とも本気か。
「じゃあ俺は先に戻るぞ」
「ダメです」
桃が即答した。
「なんでだよ」
「四人で会社を出たのに、一条さんだけ先に戻ったら変じゃないですか」
「別にいいだろ」
「三人はどうしたって聞かれますよ」
「ボス倒してる」
「なんで?」
「……」
「ほら」
何がほらだ。
「一緒に戻った方が自然です」
「私たちだけ残るのも説明しにくいですし」
茜まで乗ってきた。
葵がこっちを見る。
「いちじょーも残る」
「俺、何もすることないんだけど」
「何かあったら困る」
「……分かったよ」
「やったー!」
桃が嬉しそうに声を上げる。
葵はもう次のボス戦に備えていた。
再出現までは十分ほどあるのに、もうモーニングスターを握っている。
気が早いな。
◇
ミノタウロスを倒す。
魔石を壊す。
また戦う。
また壊す。
それを何度も繰り返す。
「まだいけます!」
「私も大丈夫です」
葵は何も言わず、もうモーニングスターを構えている。
少しは落ち着け。
回数を重ねるうちに、新しい武器にもかなり慣れてきたらしい。
最初は8分ほどかかっていた討伐時間も、少しずつ縮んでいった。
そして。
「もう五時だぞ」
「えー」
「もうそんな時間ですか」
葵だけは名残惜しそうにボス部屋を見る。
「あと一回」
「帰るぞ」
「……残念」
まあ、来た意味はあったか。
ただ……
まさか四時間、同じボスを倒すところを見続けることになるとは思わなかった。




