第60話 茜モデル
「一条さん、少しいいですか?」
今度は茜か。
「どうした?」
茜が向かいに座り、持っていた紙を机に置く。
……白紙だな。
「まだ決まってないのか?」
「一応、考えてはいるんですけど……」
茜が困ったように笑う。
「いざ自分のモデルとなると難しいですね」
「好きなの作ればいいだろ」
「桃ちゃんにも同じこと言ってましたよね」
「自分がモデルだからな」
「でも、それが一番難しいんですよ」
「そういうものか?」
真面目だな。
「何も決まってないわけじゃないんです」
「どこまで決まってる?」
「入れたい回路です」
「魔力制御と魔法威力か」
「そうなんですよ」
茜が頷く。
「自分が使うなら何が欲しいかなって考えたら、結局その二つになって」
「使いやすいからな」
「はい。攻撃にも回復にも使えますし」
初心者シリーズのロッドも、その二つを組み合わせている。
扱いやすさを考えれば、無難な組み合わせだ。
「でも、それだと初心者シリーズと変わらないですよね。それなら、わざわざ茜モデルとして出さなくてもいいんじゃないかと」
「ダメ。4人で出す」
葵が口を挟んだ。
4人にこだわるな。
「桃の盾も形を変えるだけらしいぞ」
「そうなんですね……」
茜が少し考える。
「別にいいじゃないですか」
少し離れたところから桃が口を挟む。
「性能が同じでも、その人に合わせて見た目を変えるのって普通ですよ」
「そうなのか?」
「モデルってそういうものですよ?」
「性能が一緒なら、どっちでもよくないか?」
「よくないです」
ダメか。
「桃ちゃんの言うことも分かるんですけど……性能が同じで、形だけ変えるのはちょっと……」
「あ、茜さんにダメ出しされたー」
「ち、違うの、桃ちゃん」
茜が慌てて振り返る。
「桃ちゃんは片手剣をちゃんと新しく考えてるでしょ?」
「盾は?」
「盾は今のままでも、片手剣と合わせて桃モデルになるじゃない」
「ほうほう」
「私の場合、今考えてるままだと武器そのものが初心者シリーズとほとんど同じになっちゃうから、それが気になってるの」
「なるほど。それなら許します」
「よかった」
何の許可だよ。
「だったら、候補に上がってたワンドにしたらいいんじゃないか?」
「ワンドですか?」
「ああ。回路が同じでも、ロッドじゃなくてワンドにすれば違いは出る」
「確かにそうですね」
ロッドより短い分、取り回しも良くなる。
「それに、ワンドにするなら二つ作ることも考えられる」
「二つですか?」
「ああ。ワンドなら短いし、一つは腰につけておける。それぞれ回路を一つにして特化させてもいい」
特化した武器は強いからな。
「……魔力制御と魔法威力を分けるんですね」
「ああ」
「なるほど。戦闘中に切り替えるんですね」
口で言うほど簡単ではないと思うがな。
「それなら、普段使う方は魔力制御にしたいです。扱いやすくして、魔法を連続で使いやすくします」
普段の戦闘ならそっちの方がバランスがいい。
「もう一つは魔法威力ですね。強い魔法を使いたい時や、回復量を上げたい時に持ち替えます」
「とどめ用だな」
「はい。普段は制御特化で、必要な時だけ威力特化に切り替える感じです」
普段は制御特化。
必要な時だけ威力特化。
二本を状況に合わせて使い分ける判断力が必要になる。
状況判断が上手い茜に合っているな。
「回路を一つにするなら、それだけでも初心者シリーズより性能は上がりますよね?」
「ああ」
合成回路は便利だが、その分、一つ一つの性能は特化型より落ちるからな。
「でも、せっかく特化させるなら、そこで終わるのはもったいない」
「まだ何かするんですか?」
「合成しない分、他の回路とのバランスを気にする必要がないだろ?」
「はい」
「なら、もっと細かく組める」
「さらに性能を上げるんですか?」
「ああ」
せっかく一つに絞るなら、できるだけ性能を引き出した方がいい。
「どれくらい細かくすればいいですか?」
「そうだな……4倍くらいだな」
「桃ちゃんにも言ってましたけど、無理です」
なんでだよ。
「やってみないと分からないだろ」
「桃ちゃんにも同じこと言ってましたよね?」
「ああ」
「一条さん、4倍って簡単に言っていい数字じゃないと思います」
「3倍ならいいのか?」
「そういう話じゃないんです」
難しいな。
「じゃあ、できるところまで細かくすればいい」
「それなら頑張ります」
「できるだけな」
「分かってます」
まぁ、問題なく組めるだろう。
茜が白紙だった紙に二本のワンドを書き込んでいく。
「制御特化と、威力特化……」
「決まりか?」
「はい。これなら私も使ってみたいです」
「いいんじゃないか」
「ありがとうございます」
さっきまで白紙だった紙に、二本のワンドが並んでいる。
「茜さんも二つになったんですね」
桃が紙を覗き込む。
「そうなるね」
「私と一緒じゃないですか!」
「桃ちゃんは剣と盾でしょ?」
「二つは二つです!」
「仲間」
葵まで混ざってきた。
「葵ちゃんは一つでしょ」
「増やす?」
「増やさなくていいです」
茜が即答した。
モーニングスターの二刀流はダメだな。




