第41話 究極
「一条さん」
男が自分の腕を見ながら口を開いた。
「身体強化型でも、魔法は使えるんですよね?」
「使えますよ」
男の表情が少し明るくなる。
「じゃあ、このまま魔法職を続けることもできますか?」
「できます」
「本当ですか?」
「ただ、効率は悪いですね」
「……やっぱり」
すぐに戻った。
「魔法が使えないわけじゃないです。でも、魔法型と比べればどうしても差は出ます。深い階層を目指すなら、厳しくなると思います」
「そうですか……」
男が俯く。
「今のパーティ、僕が魔法職だから入ってるんです」
「魔法職じゃなくなったら駄目なんですか?」
茜が聞く。
「前衛と盾役と回復役はもういるので……たぶん、僕が身体強化型だって分かったら必要なくなると思います」
「まだそう決まったわけじゃないですよ」
「そうなんですけど……」
男はしばらく黙っていた。
「探索者を始めたのも、幼馴染に誘われたからなんです」
「はい」
「最初は付き合いのつもりでした。でも、みんなが成長していくのに、自分だけ何も変わらないのがずっと気になって」
男が自分の手を見る。
「魔法を練習したり、動画を見たり、桃さんに相談したりして……」
「結構頑張ってたんですね」
茜が言う。
「はい。だから……」
男が少し笑った。
「そこまで気にしてたってことは、僕、探索者にはまってたんですね」
「そうみたいですね」
桃も笑う。
「……決めました」
「何をですか?」
「今のパーティを抜けます」
桃が目を丸くした。
「いいんですか?」
「はい。幼馴染にはちゃんと話します」
男が自分の腕を見る。
「せっかく適性が分かったので、今度は自分に合ったやり方でやってみたいです」
「なら、うちに来るか?」
低い声がした。
振り返る。
さっき持ち上げられていた大男だった。
「え?」
「うち、盾役がいないんだよ」
「盾役じゃない?」
葵が大男を見る。
「俺は魔法職だ。見た目で決めるなって話だっただろ」
大男が笑う。
「でも、盾役がいないんですか?」
「ああ。うちはアタッカーと斥候と俺だけでな」
「じゃあ、今は誰が攻撃を受けてるんですか?」
「斥候だ」
「斥候?」
「攻撃は避け続ければいいからな」
それは盾役なのか?
大男が仲間の一人を指差した。
「あいつだ」
でかい。
しかも、かなり筋肉ムキムキだ。
「あの人が斥候?」
「そうだ」
「斥候がそんなに目立っていいのか?」
「隠れるだけが斥候じゃないからな!」
偵察がバレたら意味ないだろ。
「今はあいつが回避盾もやってるんだが、やっぱりちゃんとした盾役が欲しくてな」
大男が男を見る。
「筋力寄りの身体強化型ならちょうどいい」
「でも僕、身体強化を使ったの今日が初めてですよ?」
「知ってるよ。見てたからな」
「今から練習しないといけないですし……迷惑じゃないですか?」
「別にいいだろ」
大男が笑う。
「その間、一緒に筋トレしてればいい」
「筋トレ……」
「いいじゃないですか」
茜が笑う。
「教えてくれる人がいるなら心強いですよ」
「……そうですね」
男は少し考えてから、大男を見る。
「じゃあ……お願いします」
「おう!」
大男が嬉しそうに男の肩を叩く。
「歓迎するぞ!」
「ありがとうございます」
男も少し笑った。
「あ、そういえばパーティ名を聞いてなかったです」
「ああ!」
大男が胸を張る。
「俺たちは究極筋肉――アルティメットマッスルだ!」
「カッコイイ」
「…………」
葵が小さく頷く。
男の笑顔が止まった。
……今さら断れないな。
「では、そろそろよろしいですか?」
五十嵐さんが声をかけてきた。
「あ、はい」
そういえば、まだ仕事中だった。
五十嵐さんが手元の資料を確認する。
「今回の検証で、一条さんの方法が他の探索者にも使えることは確認できました」
「はい」
「それに、必要な魔力量さえ確保できれば、一条さん以外でも因子を活性化できることも分かりました」
「そうですね」
「5人必要でしたけど」
桃が言う。
「そこは今後の課題ですね……」
五十嵐さんが少し遠い目をする。
5人ともかなり疲れてたからな。
「協会としても、非常に有意義な検証になりました。あと…疑うような態度をとってしまい申し訳ありませんでした」
五十嵐さんが俺を見る。
「大丈夫ですよ。気にしていませんから」
「ありがとうございます。今後も何かあれば、ご協力をお願いすることがあるかもしれません」
「会社を通してもらえれば」
「もちろんです」
勝手に仕事を増やされても困る。
「それと」
五十嵐さんが少し笑う。
「桜坂さんの初心者向け装備にも期待しています」
「片手剣と盾ですか?」
「はい。短剣も含めて、初心者が選べる装備が増えてきていますから」
五十嵐さんが周りの探索者たちを見る。
「協会としても、これから探索を始める人が使いやすい装備が増えるのはありがたいです」
「分かりました」
「今後の商品も楽しみにしています」
まだ作るものは結構ある。
帰ったら、続きを考えるか。
「では、本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺が頭を下げると、桃たちも続いた。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
「おつかれー」
さて、帰るか。




