第40話 相談解決
目の前に立ったのは、眼鏡をかけた若い男だった。
長身で細身。
さっきから落ち着かない様子で、何度も眼鏡の位置を直している。
「よ、よろしくお願いします」
「お願いします」
どう見ても緊張してるな。
「じゃあ、魔力を動かしてください」
「はい」
男が目を閉じる。
ゆっくりだが、魔力はちゃんと全身を巡っている。
そこに俺の魔力を流す。
すぐに反応が出た。
身体の内側に魔力が留まり、全身へ広がっていく。
身体強化型。
それもかなり筋力に寄ってるな。
「身体強化型。筋力寄りですね」
「…………」
男が目を開けた。
「え?」
「筋力寄りです」
「僕がですか?」
「はい」
男が自分の腕を見る。
細いな。
「身体強化型ですか……」
五十嵐さんも少し意外そうに男を見る。
「また見た目とは逆ですね」
「見た目は関係ないですよ」
「……そうでしたね」
さっき確認したばかりだろ。
「でも僕、力とか全然ないですよ?」
「今までは因子が活性化してなかったからですよ」
「今までは?」
「さっき俺の魔力を取り込んだので、今は活性化してます」
男がもう一度、自分の腕を見る。
「じゃあ……今は?」
「試してみれば分かりますよ」
俺は周りを見る。
「何か重いものあります?」
「重いものですか?」
五十嵐さんも辺りを見回す。
「いちじょー」
葵が指を差した。
「あれ」
視線の先には、さっき最初に判定した大男がいる。
「人を指差すな」
「重そう」
「人を重量物みたいに言うな」
「ははは!」
大男が笑いながらこちらへ来る。
「俺でいいなら試してみるか?」
「えっ!?」
眼鏡の男が慌てて首を振った。
「む、無理ですよ!」
「やってみないと分からないだろ」
「いやいや、この人ですよ!?」
気持ちは分かる。
見た目だけなら、持ち上げる側と持ち上げられる側が完全に逆だ。
「身体強化ってどうやるんですか?」
「魔力を身体に回して、そのまま力を入れればいいです」
「それだけ?」
「それだけです」
男は不安そうに大男を見る。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。無理そうならすぐ下ろせばいい」
「……分かりました」
「こちらでも支えられるようにしておきます」
五十嵐さんが大男の横に立つ。
「お願いします……」
少し安心したらしい。
「じゃ、じゃあ……」
男がおそるおそる大男の前に立つ。
「ど、どうやって持てば?」
「好きにしていいぞ」
「好きに……」
困った顔をしながら、大男の腰に両腕を回す。
「いきます」
「おう」
男が身体に魔力を巡らせる。
さっきまでとは明らかに違う。
活性化した強化因子が、身体に魔力を定着させている。
「せーのっ!」
男が力を入れた。
「うおっ!?」
大男の身体が浮いた。
「え?」
本人が一番驚いている。
「上がってます! 上がってますよ!」
桃が騒ぐ。
「すごいです!」
茜も目を丸くしている。
「筋肉ないのに」
葵が感心したように頷く。
筋肉好きすぎだろ。
「……本当に持ち上げましたね」
五十嵐さんも驚いたように見ている。
「ちょ、ちょっと待って!」
男が慌てて大男を下ろした。
「俺、本当に持ち上げた……?」
「ああ」
大男が笑う。
「ちゃんと持ち上がってたぞ」
「嘘……」
男は自分の両手を見つめている。
「これが身体強化……」
「そうです」
「今まで全然できなかったのに……」
「因子が活性化してなかったからな」
男はしばらく自分の手を握ったり開いたりしていた。
五十嵐さんはその様子を確認しながら、手元の資料に書き込んでいる。
その横で、桃が満足そうに頷いている。
「一条さん」
「なんだ?」
「これ、もう相談解決じゃないですか?」
「相談内容、まだ聞いてないぞ」
「あれ?」
桃が固まる。
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてない」
「……言ってないかも」
「おい」
ここまで引っ張って、それかよ。
「あの、僕から話します」
男が申し訳なさそうに手を挙げた。
「お願いします」
「僕、今のパーティでは魔法職をやってるんです」
「魔法職?」
身体強化型なのに?
「はい。幼馴染がリーダーをやってるんですけど、最初に役割を決める時に『お前は魔法の適性が高そうだから魔法職な』って言われて」
「高そう?」
「はい。なんとなく向いてそうって……」
男が眼鏡を押し上げる。
「眼鏡で?」
「いや、さすがにそれだけじゃないと思います」
「他に?」
「雰囲気とか……」
ほぼ眼鏡だな。
「他の人も同じように決めたんですか?」
茜が聞く。
「はい。身体が大きいやつは盾役で、運動神経がいいやつが前衛。女の子は回復役になりました」
「雑」
葵が一言で片づけた。
「今思えば、そうですね……」
今思わなくても雑だと思うぞ。
「ただ、適性が分かる前なら珍しい話ではありません」
五十嵐さんが言う。
「そうなんですか?」
「最初は判断材料がほとんどありませんから。得意そうな役割から始める方は多いです」
なるほど。
「それで、最初はみんな初心者だったので、特に気にしてなかったんです」
男が続ける。
「でも、探索を続けていくうちに、みんな少しずつ変わってきて」
「変わった?」
「盾役のやつは身体強化が上手くなって打たれ強くなりました。前衛もどんどん動きが速くなって、回復役の子も魔法が使いやすくなったって」
「なるほど」
「でも、僕だけ何も変わらなかったんです」
男が少し俯く。
「魔法もずっと練習しました。でも、他のみんなみたいに上手くならなくて……」
「それで、私のところに相談が来たんです」
桃が横から言う。
「ちょうどモモちゃんねるで、一条さんが私たちの適性を調べた配信を見てくれたみたいで」
「はい」
男が頷く。
「自分も適性を調べてもらえたら、何か分かるんじゃないかと思って」
「それで今回の募集を教えたのか」
「そうです!」
桃が胸を張る。
「私の情報、ちゃんと役に立ったじゃないですか」
「募集を教えただけだろ」
「それが大事なんですよ!」
「でも……」
男が自分の腕を見る。
「じゃあ、僕は魔法職じゃなかったんですね」
「適性はな」
「……もっと早く知りたかったです」
まあ、それはそうだろう。
少なくとも、眼鏡で魔法職を決めるのはやめた方がいい。




