第31話 初勝利
三人とも、自分の適性が分かったことが嬉しいようだ。
桃はコメントを読みながら笑い、葵は何度も軽く跳ねている。茜も手のひらから漏れる魔力を興味深そうに眺めていた。
だが、そろそろ時間が惜しい。
「そろそろ行くぞ。これ以上やってたら、時間がいくらあっても足りない」
「あ、そうですね。それでは早速行きましょう!」
桃が浮遊カメラへ向かって手を上げる。
「適性も分かったところで、いよいよダンジョン探索開始です!」
『やっと出発w』
『適性検査だけで配信終わるかと思った』
『監督が急かしてる』
『桃ちゃん置いていかれるぞ』
「置いていかれません!」
遅いなら置いていくけどな。
俺たちはダンジョンの入口を通り、中へ入った。
入ってすぐ右側に、ポータルが置かれた部屋がある。
ポータルは5階層ごとに登録でき、一度到達した場所へ移動できる。
毎回1階層から歩く必要がないため、探索者ならまず利用する設備だ。
俺がポータルの部屋へ入ると、桃が不思議そうについてきた。
「どこに行くんです?」
「ん? 5階層だが」
「1階層からじゃないんですか?」
「前に5階層のボス戦をした時、全員登録してるだろ」
三人の動きが止まった。
「していますけど……」
茜が困ったように盾を抱える。
「今回は私たちが戦うんですよね?」
「そうだな」
「それなら、いきなり6階層からは無茶じゃないですか?」
桃も慌てて口を挟む。
「そうですよ! 私も5階層までしか行ったことないですし、茜さんと葵ちゃんは戦うのも初めてなんですよ?」
『初心者を6階層へ連れていく監督』
『スパルタw』
『1階層からじゃないの!?』
『茜さんの顔が不安そう』
「大丈夫だ。怪我をする前には助ける」
「怪我する前提みたいに聞こえます!」
「それに、三人とも魔力の扱いは下手じゃない。今のままでも10階層までは問題ない」
桃と茜が顔を見合わせる。
「本当にですか?」
「ああ。適性も分かったし、それに合わせて動けばいいだけだ。数は多いが、連携する敵はいないからな」
葵がじっと俺を見る。
「いちじょー、8階層に行きたいだけ」
「・・・・・・・・」
「やっぱり!」
桃がすぐに反応した。
「初心者講習より素材が目的じゃないですか!」
「最初から素材を取りに行くと言ってただろ」
俺はポータルを起動する。
「だから荷物持ち、よろしく」
「そこだけは忘れてないんですね!?」
『本音出たw』
『桃ちゃん荷物持ち確定』
『監督ぶれない』
『素材優先で草』
光が広がり、五階層へ続くポータルが開いた。
「行くぞ」
「もう少し初心者を気遣ってください!」
桃の抗議を聞き流し、俺はポータルへ足を踏み入れた。
6階層から10階層までは洞窟型のダンジョンだ。
天井からは雫が落ち、薄暗い通路が奥へと続いている。
出現するモンスターはスライムとゴブリンが中心。
運が悪いと、ホブゴブリンが現れることもある。
俺は三人を振り返った。
「ここから戦闘になる。その前に、基本だけ決めておくぞ」
茜が小さくうなずく。
「基本ですか?」
「そうだ」
俺は桃を見る。
「経験者のお前ならどう戦う?」
急に振られた桃は少し考え込む。
「えっと……基本は牽制しながら、囲まれないように気を付けて、一体ずつ倒す……ですか?」
「正解だ」
俺は三人を見回す。
「茜は魔法で牽制。桃は盾で前に立って攻撃を受ける。葵が仕留める。魔法の威力が上がってきたらまた考えよう」
葵はこくりとうなずく。
「切り刻む」
怖い。
桃は苦笑しながら盾を見つめた。
「ゴブリンやスライムなら大丈夫だと思いますけど……ホブゴブリンの攻撃は受け止められませんよ?」
「大丈夫だ」
俺は桃の盾を軽く叩く。
「自分で作った盾を信じろ」
桃は困ったように笑う。
「そんなこと言われても、不安なものは不安ですよ……」
茜も前へ出る。
「私もサポートします」
「切り刻む」
一人だけ物騒なやつがいるな。
桃が葵を見る。
「葵ちゃん、怖いよ」
「だめ?」
コメント欄も一気に流れる。
『切り刻むw』
『物騒w』
『葵ちゃん怖い』
『一番バーサーカーなの草』
俺は小さく息を吐いた。
「……とりあえず、一度戦ってみよう。修正があればその都度対応する」
洞窟を進み始めて数分。
足音が聞こえる。
「来るぞ」
俺がそう言った直後だった。
物陰から5体のゴブリンが姿を現した。
「ご、5体!?」
桃の声が裏返る。
「いきなり多くないですか!?」
「6階層だからな。これが普通だ」
『普通なの!?』
『初心者には多いだろw』
『桃ちゃん頑張れ!』
ゴブリンたちは棍棒を振り上げ、一斉に走り出した。
「茜!」
「はい!」
茜は前へ手をかざす。
魔力が手のひらへ集まり、小さな火球が生まれる。
「えっと……いけ!」
火球は最前のゴブリンへ飛び、肩に命中した。
大きなダメージではない。
それでもゴブリンの足が止まる。
「今です!」
桃が盾を構え、一歩踏み出した。
後ろから飛び込んできたゴブリンの棍棒が盾へ叩きつけられる。
ガンッ!
「わっ!」
桃は衝撃に驚いて一歩下がったが、すぐに盾を構え直した。
「思ったより衝撃きますね!」
「盾は無事だ。落ち着け」
「はい!」
桃の表情から少しだけ緊張が消える。
「葵!」
「うん」
葵が地面を蹴った。
一瞬でゴブリンとの距離を詰める。
「速っ!」
桃が思わず叫ぶ。
片手剣が一閃。
一体。
さらに返す刃でもう一体。
ゴブリンが続けて倒れる。
「切り刻む」
本人は満足そうだった。
『葵ちゃん速すぎ』
『見えなかった』
『切り刻んだw』
残る三体が一斉に葵へ向かう。
「囲まれる!」
桃が声を上げる。
「落ち着け。茜、もう一度だ」
「はい!」
今度は火球が二体の間へ着弾する。
爆発した炎に驚き、ゴブリンたちの動きが止まった。
「桃」
「はい!」
「押せ」
「え?」
「盾で押すだけだ」
「は、はい!」
桃は思い切って盾ごと体当たりした。
「えいっ!」
バランスを崩したゴブリンが尻もちをつく。
桃はそのまま片手剣を振り下ろした。
動きが止まった2体は葵の餌食になっていた。
葵の姿が消える。
一閃。
二閃。
2体が倒れた。
静寂が戻る。
「終わった……」
桃はその場にへたり込む。
「思ったより何とかなりましたね」
茜も息を整えながら苦笑した。
葵は剣についた血を払い、短く言う。
「切り刻んだ」
一人だけ満足度がおかしい。
『初戦勝利!』
『葵ちゃん強いw』
『桃ちゃん盾役できてた!』
『茜さんナイスサポート!』
三人を見る。
初戦にしては上出来だ。
少なくとも10階層までは問題なさそうだ。




