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性能しか見ていない鍛冶師、左遷先でなぜかバズる~性能特化で赤字子会社を立て直す~  作者: Masaki


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第2話 本社のすごい人が来た

「ねえ、聞いた? 本社から出向してくる人の話」


朝の第一製作課で、桜庭桃が身を乗り出した。


桃たちがいるのは、作業場の隣にあるデスク部屋だった。

教室ほどの広さの部屋に、机だけが妙に多い。

昔はもっと人がいたらしいが、今は空いた席の方が目立っている。


「聞いたよ。今日から来るんでしょ」


三枝茜が、手元の資料から顔を上げる。

年齢は三人の中で一番上で、自然と皆を見ていることが多い。

困ったことがあると、だいたい茜のところに話が集まる。

本人はそれを偉そうにするでもなく、いつものことのように受け止めていた。


「若いんだってね。しかも本社の商品開発部にいた人」


桃の声は明るい。

人と話すのがうまく、初対面でもすぐに距離を詰められる。

鍛冶師なのに、取引先への説明や見学者の案内も、なぜか桃に回ってくることが多い。

本人も、それを嫌がっていない。


「本社の商品開発部」


早瀬葵が、ぽつりと繰り返した。

作業台の端に座り、昨日仕上げた短剣の魔力回路を眺めている。

ひょうひょうとしていて、何を考えているのか分かりにくい。

口数も少ない。

ただ、技術の話になると目が少しだけ鋭くなる。


「すごい人」

「たぶんね」


茜が頷く。


桜坂魔装製作所は、去年A.M.I.に買収された赤字の会社だ。

今はA.M.I.向けの部品製造や探索用の消耗品の販売でどうにか持っている。


悪いものを作っているつもりはない。

けれど、自社の武器製品は売れていない。


だから、本社から人が来るという話に、期待がなかったと言えば嘘になる。


「これで、うちの商品も少しは売れるかな」


桃が両手で頬杖をつく。


「一条主任だっけ。若くて優秀なら、何かこう、すごい改善案とか出してくれたり」

「いきなり期待を背負わせすぎ」


茜が苦笑した。


「でも、ちょっと期待する」

「するんだ」

「するよ。うち、ずっと苦しいし。本社の人なら、何か変えてくれるかもしれないし」


桃はそこで、少しだけ声を落とした。


「あと、優しい人がいいなー」

「急に人柄」

「大事でしょ。本社の人って、なんか怖そうじゃない?」

「偏見」

「でも分かる」


葵が短剣から顔を上げる。


「分かるんだ」

「すごい人、だいたい細かい」

「それはあるかも」

「あと、早口」

「それは偏見」

「でも分かる」


桃が笑う。

空いた席の多いデスク部屋に、明るい声が戻った。


本社から、かなり優秀な主任が来るらしい。

それだけで、今より何かが変わるかもしれないと思えた。


その時、ドアがノックされた。


三人が、ほぼ同時に音の方を見る。

先に顔を出したのは、総務の職員だった。


「三枝さん。一条さん、到着されました」

「はい」


茜が立ち上がる。

桃も慌てて姿勢を正し、葵は短剣を作業台に置いた。


総務の職員に案内されて、俺は部屋に入った。


中にいたのは三人。


落ち着いた雰囲気の女性。

よく笑いそうな女性。

眠そうな顔でこちらを見る若い女性。


全員、こちらを見ている。


落ち着かない。


「本日より出向となりました。一条翠です」


軽く頭を下げる。


「三枝茜です。よろしくお願いします」

「桜庭桃です。よろしくお願いします!」

「早瀬葵。よろしく」


三人が順に名乗った。


「よろしく」

「一条主任って、私たちとあまり年が変わらないですよね?」

「二十四だ」

「若っ」


葵の目が少しだけ開いた。


「君も若いだろ」

「私は若い」

「なら、驚くところか?」

「主任はもっと年上だと思った」

「同感です」


桃が何度も頷く。


「勝手に、すごく渋い人を想像してました。こう、腕組みして、若造が、みたいな」

「俺も若造だと思うが」

「自分で言うんですね」

「事実だ」


桃が笑った。

よく分からないが、空気は悪くない。


「一条主任、先に席を案内しますね」

「一条でいい」

「え、でも主任ですよね?」

「年もそんなに変わらない。呼びにくいだろ」


桃が困ったように茜を見る。

葵も同じように視線を向けた。


茜は少し考えてから口を開く。


「じゃあ、一条さんで」

「それでいい」

「いちじょー」


葵がすぐに呼び方を崩した。


「葵ちゃん、それは近くない?」

「本人がいいって言った」

「そこまで崩していいとは言ってないと思う」

「呼びにくくない」

「基準そこなんだ」


別に困らない。


「好きに呼べ」

「じゃあ、いちじょー」

「葵ちゃん……」


桃が困ったように笑い、茜も横で苦笑している。

呼び方でそこまで悩む理由が分からない。


「では、一条さん。席はこちらです」


茜が、少し離れた奥の机を示す。


「いちじょーは茜の隣」


葵が三枝の隣の空席を指さした。


「え、私の隣?」

「仲間はずれはかわいそう」

「確かに、せっかく来てもらったのに一人だけ離れてるのは寂しいかもですね」


桃まで賛成する。


「俺は気にしない」

「私が気にする」

「そうか」


なら、それでいい。


「じゃあ、一条さん。こちらでもいいですか?」

「どこでも構わない」

「じゃあ、ここで」


茜の隣の空席が、俺の席になった。

ビジネスバッグを机の横に置く。


「じゃあ、次は作業場ですね」


桃が手を叩いた。


茜が隣の扉へ向かう。

扉が開くと、金属と油の匂いが強くなった。


作業場には、魔力炉と作業台が並んでいる。

壁際には、見本の短剣や盾、鋳造用の型などが並んでいた。

工具は古いが、手入れはされている。


雑な現場ではない。


「ここが作業場です。自社製品の武器の製作や調整を、ここで行っています」

「なるほど」


作業場を見回す。


配置は悪い。

ただ、荒れてはいない。


直せる範囲だ。


「見てるね」


桃が声を潜める。


「見てる」

「すごい人っぽい」

「目が怖い」

「そこは言わない」


聞こえている。

まあ、いい。


俺は壁際の短剣に目を止めた。


「これは?」

「あ、それはうちの主力商品の短剣です」


桃がすぐに近づいてくる。


「初心者向けの自社製品で、扱いやすさ重視です」

「見てもいいか」

「どうぞ」


短剣を手に取る。


刃。

柄。

重心。

魔力回路。


悪くない。


だが、無駄が多い。


魔力が逃げる線がある。

詰まる箇所もある。


初心者向けだから、あえてやっているのか。

労力を上げてまで質を下げる必要はないと思うが。


理由があるなら、聞いておくべきだ。


俺は短剣を作業台に置いた。




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