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性能しか見ていない鍛冶師、左遷先でなぜかバズる~性能特化で赤字子会社を立て直す~  作者: Masaki


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第1話 性能を落とすのはアホのやること

「却下だ」

会議室に、岩田課長の声が落ちた。

俺は正面の大型モニターに映った設計図を見ながら、数秒だけ黙った。

却下。

その言葉自体は、もう聞き慣れている。だが、理由はいまだに分からない。


天城魔装工業株式会社。

海外では、A.M.I.の名で知られる国内最大手の魔装具メーカーだ。

そこに入社して二年目の俺、一条翠は、魔装具開発部に所属している。

仕事は、魔装具の設計と試作。

簡単に言えば、武器を作る側だ。


今回の試作品は悪くない。

いや、悪くないどころではない。

現時点で俺が作れるものとしては、かなり完成形に近い。

刃は長く、片刃。反りは抑え、鍔は最小限。

余計な装飾はない。

魔力回路は刃に沿って一直線に通し、伝導の乱れを極限まで減らしている。

切るための形。

扱うための重さ。

壊れにくい厚み。

手入れのしやすさ。

すべて、必要なところに収めた。

だから分からない。


「岩田課長、確認してもよろしいですか」

「何だ」

「不採用の理由は、性能ではなく外観という認識で合っていますか」

「そうだ」

「外観が、性能評価を上回る理由が分かりません」


会議室の端から、小さく笑う声がした。

西園寺蓮だ。

同期入社の魔装具鍛冶師で、俺と同じ魔装具開発部に所属している。

探索者には人気があるらしい。

性能はそこそこなのに。

解せぬ。


「一条、それさ」


西園寺は笑いをこらえながら言った。


「剣じゃなくて、魚を捌くやつに見えるんだよ」


俺はもう一度、モニターを見る。

長い刃。

片刃。

手入れしやすい形。

確かに、そう見えなくもない。


「切断を目的にした形状としては、むしろ完成されている」

「包丁としてはな」

「包丁に限った話じゃない。切るための道具として、無駄が少ないと言ってる」

「それを魔装剣として売ろうとしてるのが問題なんだよ」

「切るための道具を、切るための道具として設計しただけだ」

「だから、そこだって」


西園寺は呆れたように笑った。


「一条はさ、使う人間がそれを見てどう思うかを、まったく考えてないだろ」

「使えば性能は分かる」

「使う前に選ばれないんだよ」


意味が分からない。

武器は使うための道具だ。

使えば分かるなら、それで十分だ。


岩田課長が、モニターに映る試作品を指さした。


「それに、一条。この包丁を一本仕上げるのに、どれくらいかかる?」

「包丁ではありませんが、私なら一日一本です」

「君ならな」


岩田課長は、そこで言葉を切った。


「ほかの鍛冶師では無理だ。このスペックまで鍛え上げるには、魔力の精密制御が追いつかない。月に一本仕上がればいい方だろう」

「なら、工程を見直すべきですね」

「……何?」

「鍛冶師側の魔力制御に依存しすぎています。回路の下処理と素材の均質化を先に済ませれば、仕上げの負担は減らせます」


岩田課長が、わずかに眉を寄せた。


「そう簡単に言うな」

「簡単とは言っていません。ただ、性能を落とすよりは合理的です」

「会社は商品を作っている。量産できなければ意味がない」

「だから量産できる工程に変えるべきです」

「それをやるなら、製造ラインから見直しだ。素材管理も、下処理も、検査工程も変える必要がある」

「はい」

「はい、じゃない。それは新作一本の話ではなくなる」

「必要なら変えるべきです」

「だから、お前は商品開発に向いていないんだ」


向いていない。

それも、何度か言われた言葉だ。

だが、商品開発とは、より良い商品を作る仕事のはずだ。

より良い武器を作るために必要な工程があるなら、変える。それの何が問題なのか、やはり分からない。


西園寺が椅子の背にもたれた。


「それにさ、一条。もう少し単純な話をしよう」

「単純な話?」

「同じ値段で、見た目のいいロングソードと、魚を捌くやつみたいな剣が並んでいたら、探索者はどっちを買うと思う?」

「性能が同じなら、ロングソードだろうな」

「分かってるじゃん」

「だが、性能は同じじゃない」


西園寺の笑みが、少し止まった。


「この形の方が、切断効率は上だ。魔力伝導の乱れも少ない。耐久性も確保できている。なら、比較条件として不適切だ」


岩田課長が息を吐いた。


「客はそこまで見ない」

「自分の命を懸ける道具ですよ? 性能を第一に考えるべきです」

「その正しさだけで売れるなら、苦労はしない」

「正しいものを選ばない方に問題があります」

「その考え方が、商品開発に向いていないと言っているんだ」


会議室の空気が重くなる。

俺は黙った。

納得はしていない。

だが、このまま話しても、同じところを回るだけだろう。


岩田課長は資料を閉じた。


「今回の試作品は不採用だ。設計案は差し戻し。各自、次回会議までに修正案を出してくれ」


その言葉で、会議は終わった。

参加していた社員たちが、資料を片づけながら席を立っていく。

西園寺も立ち上がり、俺の横を通り過ぎる時に足を止めた。


「一条」

「何だ」

「次は、せめて魚市場じゃなくて武器屋に置けるものを作りなよ」

「用途に合った形状を作っている」

「うん。そういうところだよ」


西園寺は笑って、会議室を出ていった。

扉が閉まる。

会議室には、俺と岩田課長だけが残った。


「一条。少し話がある」

「はい」


机の上に置いていた白い封筒をこちらへ滑らせる。


「来週から、桜坂魔装製作所へ出向してもらう」

「桜坂魔装製作所、ですか」


名前は知っている。

去年、A.M.I.が買収した赤字の会社だ。

自社製品も出しているが、今はA.M.I.向けの部品製造でどうにか持っているらしい。


「桜坂は製造ラインの見直しが急務だ。お前には主任として、現場の改善に入ってもらう」

「主任、ですか」

「そうだ。中に辞令が入ってる」


俺は封筒を開き、辞令に目を通す。

桜坂魔装製作所、第一製作課主任。

役職だけ見れば、確かに上がっている。

待遇欄に目を落とす。

基本給は変わらない。

だが、本社勤務手当と開発特別手当が消えていた。

総支給は下がる。


「……なるほど」


昇格。

主任。

技術支援。

現場改善。

言葉だけは整っている。

だが、要するに左遷だ。


「不服か」

「不服です」


自分でも、思ったより早く答えていた。

岩田課長は驚かなかった。

ただ、静かに俺を見ている。


「本社の商品開発部で、私は間違ったものを作ったつもりはありません」

「そうだろうな」

「性能を落とさず、使う人間が生き残るための武器を作ったつもりです。それを外観と商品性で否定されて、地方の子会社へ出向となるなら、不服です」


言い終えてから、喉の奥が詰まった。

怒っているのか。

悔しいのか。

たぶん、どちらもだ。


「一条」


岩田課長の声は、思ったより穏やかだった。


「向こうで少し落ち着け」

「……落ち着く、ですか」

「本社にいると、お前も周りも意地になる。いったん離れた方がいい」

「私は、意地で提案しているわけではありません」

「分かっている」


岩田課長は、そこで少しだけ息を吐いた。


「だが、正しいことを言えば通る、という場所でもない」

「正しくないものを通す場所なんですか」

「そういう言い方だ」


まただ。

言い方。

会議でも何度も言われた。

だが、正しくないものを正しくないと言って、何が悪いのか。


俺には分からない。


「少し休め。本社から離れて、考えろ」

「休むための出向ですか」

「辞令上は現場改善だ」


それで十分だった。


俺は辞令を見下ろした。

紙一枚で、人は簡単に場所を変えられるらしい。

便利な仕組みだ。


「分かりました」


納得したわけではない。

ただ、拒否できないことだけは分かった。


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