第15話 出演料払います!
その後、数日かけて三人は魔力回路の設計を続けた。
書いては消し、つなぎ直しては俺に見せる。
最初は流れが途中で詰まっていたり、切れ味の回路に魔力が偏りすぎていたりと、問題が多かった。
そのたびに修正点を伝え、三人に書き直させた。
「これでどうでしょう?」
茜から設計図を受け取る。
回路の流れに無理はない。
切れ味と耐久性の配分も、狙っていた六対四に収まっている。
初めてにしては、いい出来だ。
「問題ない。これで魔力回路は完成だな」
「本当ですか?」
「少なくとも、短剣よりはいい魔力回路だと思う」
「やった!」
桃が両手を上げた。
「長かったですね」
「疲れた」
葵は机に頬をつけた。
「まだ設計が終わっただけだぞ」
「終わったことに変わりはないです!」
「次は、この設計をもとに型を作る」
桃の手が下がった。
「まだあるんですね」
「当たり前だろ。設計図だけ売るつもりか?」
「売れない?」
「性能のいい剣の設計図だ。売った方が損する」
葵は紙を見つめてる。
何を期待していたんだ。
「型が完成したら、実際に鋳造する。それで問題がなければ量産に入れる」
「やっと武器になりますね」
「ここからが本番だ」
そのとき、部屋の扉が開いた。
「失礼します」
入ってきたのは詩だった。
手には以前と同じ手帳を持っている。
「配信の話か?」
「はい。今回は、皆さんが鋳造している様子を公式チャンネルで配信したいと思っているのですが、どうですか?」
桃の表情が明るくなる。
「私たちが出るんですか?」
「はい。三人が新しい武器を作っている様子も、桜坂魔装製作所のPRになると判断しました」
「ちゃんと世界デビュー」
「前にも配信に出てただろ」
「前は声だけ。次は顔」
出たことに変わりはないと思うが。
とりあえず、嫌ではないようだ。
「私は何をすればいいんでしょうか」
茜が少し緊張した様子で聞く。
「普段通りに鋳造してもらえれば大丈夫です。作業の邪魔にならないように撮影します」
「普段通り……」
「緊張してる」
「葵は平気なの?」
「映るだけ」
葵は平常運転だ。
「一条さんには、指導役として参加してもらいます」
「俺も出るのか?」
「三人だけで鋳造するより、一条さんが監督している方が視聴者も食いつくと思います」
「変わらんと思うけどな」
「一条さんが本当に鍛冶師なのか疑っている人も多いので。監督として指示を出せば疑いも晴れると思います」
「疑われるようなことをした覚えはないんだが」
「魔法でホブゴブリンを倒したからです」
あれはいきなりだったからだ。
「いちじょー、鍛冶師を証明する」
「最初から鍛冶師だ」
「視聴者はそう思ってない」
解せぬ。
桃がこちらを見る。
「でも、一条さんがいるなら安心ですね」
「何がだ?」
「私たちがミスしてもフォローしてくれそうです」
「主任だからな。売れないものを作らせるわけにはいかない」
「責任を取ってくださいね」
「どういう理屈だ」
「いちじょー、責任重大」
葵まで乗ってきた。
茜も否定する様子はない。
「配信はいつでもいいのか? まだ型ができてないのだが」
「できれば早い方がいいです。前回から日が空いているので。必要なものはこちらで準備します」
「分かった。じゃあ金曜日だな」
「明後日ですね。分かりました。では、よろしくお願いします」
詩は手帳に何かを書き込み、部屋を出ていった。
桃はすでに楽しそうにしている。
「何人くらい見に来ますかね?」
「一万人」
「前回と同じなら、それくらいですよね!」
「もっと増えるかも」
「やめて。緊張してきた」
茜が額を押さえる。
嫌がってはいないが、意識すると駄目らしい。
「そういえば、桃」
「なんですか?」
「最近、配信はしてるの?」
「してますよー。一条さんの話ばっかりになっちゃうので、回数は減りましたけど」
人のせいにするな。
「視聴者さんが聞くんですよ。『一条さんは今日いますか』とか、『次はいつ配信に出ますか』とか」
「人気者」
「私の配信なんだけどね?」
桃は苦笑したあと、こちらを見た。
「じゃあ、一条さん。また出ませんか?」
「なんでだ」
「今回の公式配信の宣伝も兼ねて、雑談配信しましょうよ」
「俺が出る理由になってない」
「ちゃんと宣伝になりますよ。今度、片手剣を鋳造しますって話をするだけです」
「広報の仕事だろ」
「私も桜坂の社員です」
「そうだな」
「じゃあ、出てくれます?」
「出ない」
「出演料も払いますよ!」
「いらん」
「広告収益も分けます」
「いらん」
「高いお昼ご飯もおごります!」
「いらん」
桃の表情が少しずつ曇っていく。
「全部断られた……」
「出る理由がない」
「宣伝ですよ?」
「公式配信でやれば十分だろ」
「いちじょー、いじわる」
「そこが一条さんですよね」
茜は納得したようにうなずいている。
何に納得したんだ。
「配信のことを考えるのは後だ」
三人を見る。
「まずは型を作る。失敗したら配信どころじゃないからな」
「失敗してもいいって言ってませんでした?」
「納期が決まったからな。失敗したら残業になる」
「残業は嫌」
好きなやつなんていない。
桃が設計図を持ち上げた。
「じゃあ、さっそく取り組みましょう!」
「やる気があるのはいいが、冷静にな」
「分かってます!」
やる気は、ないよりあった方がいい。




