第14話 三人で設計してみろ
「配信するかどうかはともかく、午後から設計を始めるか」
「いよいよですね。久しぶりなので、うまくできるかどうか……」
茜が少し不安そうにしている。
「大丈夫だ。俺も確認する。商品として失敗することはない」
「いちじょー、自信満々」
鋳造の型で失敗する方が難しい。
「それに、三人で一つのものを設計してもらう。予算もないしな」
「みんなでわいわいやるの、楽しそうですね!」
意見が食い違って、ギスギスすることは考えないのか。
「配信については、どうしますか?」
詩が聞いてきた。
「設計は見せられない。配信するとしても、鋳造しているところからだが、それでいいのか?」
「大丈夫ですよ。一条さんの鍛冶師らしいところが見られれば」
「鋳造も三人にやってもらう予定なんだが」
詩が黙った。
「いちじょー、何もしない?」
「監督だな。短剣も作れているから、問題はないと思うが」
「えー、一条さん鍛冶しないんですか」
詩は少し考えたあと、手帳を閉じた。
「一度広報で相談してきます。決まったら連絡しますね」
「そうしてくれ」
詩はそう言って、部屋を出ていった。
「問題がないのなら、一条さんも一緒にやればいいのでは?」
「俺は鍛冶師で、ここの主任だ。武器を作ることと、お前たちの技術を上げるのが仕事だ。配信者ではない」
「でも、前は出てましたよね」
「会社の利益になるなら考える。だが、積極的に出るつもりはないな」
「技術を上げる……。じゃあ私たちは、失敗しないように頑張ればいいんですね」
「なんでそうなる」
三人を見る。
「初めから完璧にできるやつなんて、ほとんどいない。失敗して学べばいい」
「失敗してもいいんですか?」
「商品にする前ならな。鍛冶の世界は奥深い。本当の楽しさを知るために、失敗を重ねて成長しろ」
三人が真剣な顔でうなずく。
俺は失敗したことはないけどな。
昼休憩を終え、作業場に集まると、机の上にはすでに必要な道具が用意されていた。
茜だな。
相変わらず面倒見がいい。
「それじゃあ、始めるぞ」
「本当に私たちだけで考えるんですね」
桃が椅子に座りながら言った。
「三人で相談していいと言っただろ」
「一条さんは?」
「見ている」
「いちじょー、やっぱり何もしない」
葵が俺を見る。
「分からないところがあれば教える」
「分からないところが分からなかったら?」
「基礎からやり直しだな」
「それは嫌」
葵はすぐに紙へ目を戻した。
素直でいい。
「始める前に確認する。片手剣を設計するときに考えることは?」
三人が黙った。
桃が茜を見る。
茜は葵を見る。
葵は紙を見ている。
「忘れたのか?」
「ちょっと待ってください。思い出してます」
桃が慌てて答えた。
しばらくして、茜が口を開く。
「長さと重さ、それから重心ですか?」
「ほかには?」
「使う人」
葵が答えた。
「どのくらいの人が使うかで、持ちやすさも変わります」
茜が続ける。
「あと、使う場所もですね。狭い場所なら、長すぎると扱いにくいです」
桃もようやく思い出したらしい。
これなら、最初から俺が教える必要はない。
「とりあえず、三人で設計してみろ」
「それだけですか?」
「何か必要か?」
「片手剣のコンセプトとか……」
「片手で扱える剣だ」
「それは分かってますよ」
桃が不満そうな顔をする。
冗談が通じなかったらしい。
「初心者でも使いやすくて、鋳造に向いているもの。それ以外は三人で決めていい」
「自由すぎませんか?」
「設計するんだから、自分たちで決めろ」
俺が条件を決めすぎれば、三人はその通りに描くだけになる。
それでは設計とは言えない。
「まず、どんな形にしますか?」
茜が紙の中央に線を引く。
「普通の剣でいいんじゃないですか?」
「普通?」
「こういう感じの」
桃が紙に剣を描く。
真っ直ぐな刃に、簡単な柄がついている。
子どもが描く剣と大して変わらない。
「桃、絵が下手」
「形が分かればいいの!」
「刃が曲がってる」
「線が曲がっただけだよ」
「曲剣?」
「違う!」
設計が始まって一分も経っていない。
すでに意見が食い違っている。
わいわいやるのが楽しそうだと言っていたが、桃が想像していたのはこれで合っているのだろうか。
「片刃と両刃がありますね。今回はどっちにしようか?」
そこで迷うか。
条件を忘れてるな。
「今回は両刃だ」
「片刃じゃ駄目なんですか?」
「片刃にすると、バランスが変わる。量産品でコツが必要な武器を作る必要はない」
「なるほど。両刃は対称だから扱いやすいんですね」
「一点物なら片刃も選択肢に入る。だが、今回は誰でも使える両刃一択だ」
「いちじょー、ちゃんと考えてる」
「考えない方がおかしいだろ」
三人で刃の長さと幅を決め、紙に書き込んでいく。
細かい違いはあるが、形としては普通の片手剣だ。
量産品なら、それでいい。
「次は魔力回路ですね」
桃が型に刻まれた回路を見る。
「魔力回路は、どっちを選びますか?」
「初心者向けなら、耐久性を上げる方が無難じゃないかな」
「でも、攻撃力がないなら切れ味」
「んー、迷いますね」
「なぜ、その二択なんだ」
三人が俺を見る。
「割合を変えればいいだろ」
「割合?」
「切れ味と耐久性の回路を組み合わせるんだ。どちらの回路を多く使うかで割合を変えられる」
「魔力回路って、変えられるんですか?」
「何を言っているんだ。変えられるに決まっているだろ」
三人の反応が鈍い。
「耐久性も切れ味も強化された武器は売っているだろ?」
「そうですけど、それは特別な技術というか、鍛造だけだと思ってました」
確かに鍛造の方が細かい調整ができる分、配分を変えやすい。
「魔力回路を一から書いたことは?」
「ないです。学校では、鋳造は既存の回路を使い回すって習いましたよ」
……学校が悪かったか。
「そんなに難しい技術じゃない。回路全体で扱う魔力量が変わらないように、途中で切ってつなぎ替えるだけだ」
紙に描かれた回路を指でなぞる。
「回路の流れを意識して、窮屈にならないように配置すれば、大抵は成功する」
「失敗したらどうなるんですか?」
「効果が大きく落ちるだけだ。短剣もそうだっただろ。まああれは切れ味だけの回路だったが」
三人が作業場に置かれた短剣の型を見る。
「既存の回路でも、うまく彫れなければ性能は出ない」
「切れ味と耐久性は、どれくらいにしますか?」
「それを考えるのがお前たちの仕事だ」
「また考える」
葵が紙を見つめる。
「初心者向けなら、壊れにくい方がいいと思います」
「でも、切れなかったら武器として困りますよね」
「じゃあ、切れ味を少し多めにしますか?」
「切れ味が六で、耐久性が四くらい?」
「悪くない」
三人が一斉に俺を見る。
「それで決定ですか?」
「まだだ。実際に回路を書いて、無理なく収まるか確認が必要だな」
「一条さんが書くんじゃないんですか?」
「お前たちの設計だろ」
「魔力回路を書いたことないです」
「今から覚えればいい」
三人が黙った。
「失敗してもいいって、さっき言いましたよね?」
「商品にする前ならな」
「失敗する前提」
「初めてなら当然だ」
俺は新しい紙を三人の前に置いた。
「まず、切れ味の回路と耐久性の回路を書け。それから、魔力総量が変わらないようにつなぎ替える」
「えー、できる気がしませんよ」
「俺が確認する。好きに書いてみろ」
三人は顔を見合わせたあと、紙に向き直った。
茜が最初の線を引き、桃がその隣から回路を伸ばす。
葵は二人の手元を見ながら、空いている場所を指さした。
「そこ、窮屈」
「まだ何も書いてないよ?」
「これから窮屈になる」
「じゃあ、少し広げようか」
思っていたより、悪くない。
少なくとも、古い型に刻まれていた回路よりはまともになりそうだ。




