第13話 鍛冶師?
三人が倉庫へ向かうのを見送ったあと、俺は作業場へ向かった。
次に作るのは片手剣。
そう決めたが、新しく設計する前に確認しておきたいものがある。
以前、桜坂で使っていた片手剣の型だ。
作業場の奥に並んでいる棚を順番に見ていく。
短剣、斧、槍。
それぞれの型に札が付いていたため、目的のものはすぐに見つかった。
「これか」
棚から型を取り出し、作業台に置く。
形は普通だ。
長さも一般的な片手剣と変わらない。
問題は魔力回路。
型に刻まれた回路を目で追っていく。
途中で何度も折れ曲がっている。
同じ場所を通っている部分もある。
必要のないところにまで回路が伸びていた。
「やっぱり無駄が多いな」
短剣の型と同じだ。
これを修正するだけでも、性能は上がるだろう。
だが、今回は使わない。
どうせなら、最初から設計した方がいい。
それに、三人にも設計を覚えてもらう必要がある。
型を棚に戻し、デスク部屋へ戻った。
自分の席に座り、新商品開発の申請書を開く。
開発するのは鋳造の片手剣。
必要な項目を入力して、総務へ送信する。
これで申請は終わりだ。
桃に任せると、配信について余計なことまで書きかねない。
申請くらいは自分でやった方が早い。
そのまま片手剣の資料を確認していると、デスク部屋の扉が開いた。
「一条さん、戻りました!」
桃たちが倉庫から戻ってきた。
茜、桃、葵。
その後ろに、見覚えのない女がいる。
誰だ?
「あ、この子は広報の詩さんです」
桃が女を前に出す。
「初めまして。二宮詩です。桃とは入社同期なんですよ」
「よろしく」
桃の同期なのは分かった。
その同期が、なぜここにいる?
「いちじょーにお願いがあってきた」
葵はそれだけ言うと、自分の席へ戻っていった。
説明を最後までしてくれ。
「お願い?」
二宮が一歩前に出る。
「新しい武器を作るって聞きました」
早いな。
片手剣を作ると決めたのは、ついさっきだぞ。
「もしよかったら、製作している様子を配信しませんか?」
「配信?」
「はい。前回の配信も反応がよかったので、次は武器が完成するまでの様子を紹介できたらと思っています」
完成品を紹介するなら分かる。
だが、製作途中を見せる必要があるのか?
「まだ申請を出したばかりだぞ」
「通るんですよね?」
桃が聞いてくる。
「ああ。通らない理由はない」
「じゃあ、問題ないですね」
「問題はない」
「じゃあ、いいんですね!」
桃が笑顔になる。
話を最後まで聞け。
「だが、配信する理由もない」
笑顔が消えた。
桃が二宮を見る。
二宮も桃を見る。
何を確認しているんだ?
二宮はすぐにこちらへ向き直った。
「理由は、会社のPRです」
「会社の?」
「はい。前回の配信で、一条さんはかなり注目されました」
「短剣じゃなくてな」
「そうですね」
そこは否定しないのか。
「でも、コメントを見る限り、一条さんが鍛冶師だとはほとんど思われていません」
確かに、鍛冶師なのか疑っているコメントは多かった。
戦い方についてのコメントばかりで、短剣の話は少なかった。
何のための配信だったんだ。
「一条さんが鍛冶でも一流だと分かれば、絶対にバズります!」
二宮が両手を握って言い切った。
「目的が俺になってないか?」
「一条さんを通して、桜坂魔装製作所を知ってもらうんです」
「同じことだろ」
「違います」
二宮は一度言葉を止めた。
「たぶん」
「たぶんなのか?」
二宮が目を逸らす。
広報として来た割に、最後が曖昧だな。
「でも、前回の配信を見た人は、一条さんが何者なのか気になっているんですよ」
桃が会話に入ってくる。
「探索者なのか、鍛冶師なのか、魔法使いなのかって、コメントでもすごかったんです」
「鍛冶師だ」
「だから、それを見せるんです!」
桃が俺を指差す。
人を指差すな。
「製作しているところを配信すれば、一条さんが鍛冶師だって分かります。それに、新しい武器の宣伝にもなります」
「俺は今回は作らないぞ」
二人の動きが止まった。
「え?」
桃が口を開けたまま固まっている。
「三人に設計させる。俺は指導するだけだ」
桃が少し首を傾げた。
「一条さんは設計しないんですか?」
「ああ」
「一緒に作ると思ってました」
「俺が作ったら、お前たちが設計する意味がないだろ」
茜が小さくうなずく。
「今回は、私たちだけで設計するんですね」
「分からないところは教える。ただし、最初から答えは出さない」
「久しぶりなので、かなり時間がかかるかもしれませんよ」
「そのための指導だ」
茜は少し不安そうだったが、反対はしなかった。
葵は自分の席に座りながら、こちらを見る。
「いちじょー、見てるだけ?」
「指導すると言っただろ」
「口だけ」
「確認も修正もする」
「やっぱり口」
こいつは指導が始まる前から失礼だな。
二宮は少し考えたあと、再び俺を見る。
「それでも大丈夫です」
「俺が作らないのにか?」
「はい。一条さんが三人に教えているところを撮ればいいです」
「指導しているところが面白いのか?」
「一条さんが、どうやって武器を設計するのか分かるだけでも十分です」
「俺は設計しないぞ」
「でも、三人の設計を見て、問題があればすぐに分かるんですよね?」
「当然だ」
二宮の表情が明るくなる。
「それなら、一条さんが鍛冶師として一流だと伝わります」
桃も何度もうなずく。
「いいと思います。私たちが設計して、一条さんが直すところを見せれば、ちゃんと製作してる配信になりますよ」
「直される前提なんですね」
茜が苦笑する。
「久しぶりなんだから、多少は仕方ないよ」
「多少で済むといいけど」
葵がぼそっと言った。
「葵ちゃんまで不安にさせないでよ」
三人とも、自信があるわけではなさそうだ。
それでも設計してもらう。
そのために、俺がいる。




