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性能しか見ていない鍛冶師、左遷先でなぜかバズる~性能特化で赤字子会社を立て直す~  作者: Masaki


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第16話 一条クオリティ

配信当日。

作業場には、鋳造に必要な道具が並べられていた。

中央には今回作った片手剣の型が置かれている。

その周りに茜、桃、葵が立ち、少し離れた位置に俺が立つ。


浮遊カメラが俺たちの前をゆっくりと動いた。


「こんにちは!モモちゃ…」


桃がカメラに向かって手を振る。


「……じゃなかった。桜坂魔装製作所公式チャンネルをご覧の皆さん、こんにちは!」


絶対わざとだろ。


『モモちゃんねる始まった』

『公式を乗っ取るな』

『言い慣れてるな』


「間違えちゃいました」


桃は笑っている。

間違えた人間の顔ではない。


「本日の司会は、第一製作課の桃が担当します!」


桃が自分を指したあと、隣に立つ二人へ手を向ける。


「そして、一緒に新しい片手剣を製作する茜さんと葵さんです!」

「よろしくお願いします」

「よろしく」


茜は少し硬い。

葵はいつも通りだ。


「さらに第一製作課主任、一条翠さんにも来てもらっています!」


『一条きた』

『本当に鍛冶師だったんだ』

『今日は戦わないの?』


戦うわけがない。

作業場だぞ。


「今回は、この型を使って新しい片手剣を鋳造します」


桃が型を示した。


「主任、鋳造について説明をお願いします」

「剣の製法を説明するなら、まず古代の――」

「あ、短めですよ!」


長いと決めつけるなよ。


「‥鋳造は、溶かした金属を型に流し込み、魔力を使って固める製法だ」


『普通に説明してる』

『鍛冶師っぽい』


最初から鍛冶師だ。


「今回は三人が設計し作った型を使う。形状は一般的な両刃の片手剣。魔力回路は切れ味を六、耐久性を四の割合で組んでいる」

「初心者から中堅者まで、幅広く使える剣を目指しました」

「魔力回路の合成が難しかった」


茜、葵が付け加える。


『魔力回路って合成できるの?』

『鋳造で両方の特性を入れられるとは』

『普通はどっちか一つじゃないの?』


桃がコメントを確認し、こちらを向いた。


「主任、魔力回路って合成できるんですかって質問が来てますよ」


教えたんだからそのまま答えればいいのに。


「合成はそんなに難しくない。それぞれの回路を、効果の割合を考えて繋ぎ合わせるだけだ。その時に、魔力の流れに無理がないように気を付ければいい」

「いちじょー基準」

「私たちは、主任に教えてもらいながら三日かかりましたけど」


二人がじっとこちらを見る。

三日でできたんだからいいだろ。


桃が苦笑しながら進める。


「それでは、さっそく作っていきましょう!」


桃の声に合わせて、三人が動き始めた。


最初に型の状態を確認する。

三人で何度も確認していたため、大きな問題はない。


茜が型を固定し、葵が炉の温度を確認する。

桃は金属の状態を見ながら、カメラにも説明していた。


「今から金属を型に流します。かなり熱いので、皆さんは絶対に真似しないでくださいね」


『家に炉はない』

『真似できない』

『まず型がない』


当然だ。


「温度は?」

「問題ありません」

「型も固定した」

「じゃあ、流します」


三人が息を合わせて、溶けた金属を型へ流し込む。

桃の表情から笑みが消えた。

茜も葵も、型だけを見ている。

作業中まで配信を意識する余裕はないらしい。


金属が型に行き渡ったところで、三人がそれぞれ手をかざした。

淡い光が型を包む。


「ここから魔力を流して固めます」


桃がカメラに向かって説明する。


「一度始めたら、完成するまで止めるな」

「はい」

「魔力量も変えるな。一定に保て」


鋳造で重要なのは、完成するまで同じ魔力量を維持することだ。

途中で増減すれば、金属の密度にムラができる。

少しなら性能が落ちる程度で済むが大きく乱れれば、使い物にならない。


『どれくらいかかるの?』


コメントを見た桃がこちらを向く。


「主任、完成までどれくらいかかるか質問がきてます」

「流す魔力量で変わる。多ければ早く、少なければ遅い。3人だと一時間半ってところか」

「分かっていますけど、この時間が大変です」


始めて数分だぞ。


「もも、しゃべるとぶれる」

「黙ります」


葵に注意され、桃が型へ視線を戻した。


『司会が黙った』

『放送事故』

『頑張れ桃』


作業が始まってからしばらくは、俺が代わりに説明を続けた。

基本的な魔力回路の種類やアレンジ、三人が作った魔力回路について。

コメントは思っていたより真面目だった。


「疲れてきました」

「魔力は?」

「大丈夫です」

「最後まで頑張れ。ここで気を抜くと失敗するぞ」


一時間半ほど経ったところで、型を包んでいた光が弱くなった。


「もう魔力を止めていい」


三人が同時に手を下ろす。

桃は大きく息を吐いた。


「終わった……」

「疲れました」

「腕、重い」


三人とも、その場で座り込みそうになっている。

しばらく待ってから、三人が型を開く。

中から現れた片手剣を見て、桃が目を輝かせた。


「できてる!」


茜が剣を持ち上げ、全体を確認する。


「形も問題なさそうです」

「回路もつながってる」


葵が刀身に刻まれた魔力回路を指で追う。

初めて作ったものとしては十分だ。


「成功だな」

「やりました!」


桃が剣を持った茜の隣に並ぶ。

浮遊カメラが完成した片手剣を映した。


『おお』

『ちゃんと剣だ』

『一時間見てたから感動する』

『三人ともお疲れ』

『次は一条が作って』


最後のコメントをきっかけに、同じ内容が増え始めた。


『一条の鋳造も見たい』

『監督だけ?』

『本職を見せて』

『一条もやって』


桃がコメントを確認して、こちらを見る。


「主任にも作ってほしいというコメントが多いですね」

「今日は三人が作る配信だろ?」

「でも、視聴者さんは主任が作るところも見たいみたいです」

「何でだよ」


『見たい』

『一本だけ』

『本当に鍛冶師なのか証明して』


まだ疑ってるやつがいる。


「いちじょー、人気」

「面倒なだけだ」

「せっかく材料も残っていますし、一条さんも一本だけどうですか?」


茜まで乗ってきた。


「私も見たい」


葵もか。

断り続けるのも面倒だな。


「しょうがない。よく見ておけよ」

「ありがとうございます!」


桃がすぐに型を準備し始めた。


どうせやるなら、普通に作っても意味がない。


「鋳造品にも、出来の差があるのは知ってるか?」


桃の手が止まる。


「同じ型で作ってもですか?」

「基本は同じだけどな。鍛造の武器で、刀身が青みがかったものを見たことは?」

「写真ならあります」


茜が答えた。


「かなり高価な剣ですよね」

「かなりレア」

「私も見たことないです」

「青みがかった武器は、普通のものより性能が高い。一般にはほとんど出ないか」


『青い剣ってあれか』

『博物館にあるやつ?』

『オークションでとんでもない値段になる』


「鋳造でも、まれに青みがかったものができる」


桃が目を見開いた。


「鋳造でもできるんですか?」


『聞いたことない』

『本当に?』

『都市伝説じゃないのか』


「ああ。条件は単純なんだが」


コメントの流れが止まった。

三人もこちらを見ている。


「鋳造では、魔力量を一定に保つ必要がある。これはさっき説明したな」

「はい」

「普通は失敗しないように、無理なく維持できる量を流す」


俺は型の前に立った。


「青くするなら、一定以上の魔力を完成まで流し続ければいい」


桃が首を傾げる。


「大量に流すということですか?」

「大量に流すだけなら意味はない。一瞬だけ多くても、途中で減れば失敗する」


魔力量が多いほど、完成までの時間は短くなる。

だが、その間一切ぶらさずに流し続けなければならない。

量が増えるほど、維持するのは難しくなる。


「最初から最後まで、大量の魔力を一定で流す。それだけだ」


『それだけ?』

『無理だろ』

『本当だとしても途中で絶対ぶれる』

『だからレアなのか』


「始めるぞ」


溶けた金属を型へ流し込む。

全体に行き渡った瞬間、魔力を流した。

型を包む光が強くなる。


「明るい」


葵が一歩下がった。

桃たちの時の倍以上だ。

やがて十分も経たず、光が消えた。


「終わりだ」

「早くないですか?」

「魔力量が多ければ、その分早く固まるからな」


茜が型を見つめている。


「これが一条さんの全力ですか。凄まじいですね」


全力とは言ってない。

まあ訂正する理由もないからこのままでいいか。


型が冷えるのを待ち、蓋を開く。

完成した片手剣を持ち上げると、刀身が光を受けて青く輝いていた。


「青い……」

「本当に青みがかっています」

「レア」


『青い!』

『嘘だろ』

『鋳造だぞ?』

『狙って作ったの?』

『一条すげえ』

『これ売るの?』


桃が興奮した様子でこちらを見る。


「これ、どれくらい性能が上がっているんですか?」

「二割増しくらいだ」

「二割もですか?」

「その程度だ」

「その程度?」


三人の声が重なった。


「大量の魔力を安定させる手間を考えれば、鍛造した方がいい」


鋳造品が二割強くなっても、鋳造品であることに変わりはない。

最初から鍛造で作った方が、性能は高くなる。


「だから、普通はやらない」


『できること自体がおかしい』

『二割をその程度って言うな』

『一条クオリティ』


コメントの流れが速い。

最後のはどういう意味だ。


「ということで、新しい片手剣の鋳造は無事に成功しました!」


桃が青みがかった剣の隣に、三人で作った剣を並べた。


「今後、調整を行ったうえで量産する予定です。発売時期などは、決まり次第公式チャンネルでお知らせします!」


桃がカメラに手を振る。


「それでは、モモちゃんねるも見てくださいねー」


自分の宣伝をするな。



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切れ味と耐久性の割合2話前と逆になってない?
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