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憧れていた異世界転生、転生先はシステムの声!?〜同じく異世界転生した少女とともにこの新世界を生きていく〜  作者: ほさ


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あの時の気絶って…

「ここから5日間の旅路ですわよ! 危険はそんなにないと思うけれど、気をつけないとですわね」

御者を務めるメイド一人、そしてアイリスと鈴音を乗せて、馬車はリンガルドを出発した。目指すは隣の街、ヘインズだ。

昨晩、俺たちは俺自身(ステータス画面)について色々と検証を行っていた。どうやら魔法以外にも、生活に便利なスキルなんかも使えるようだった。ただ、それを引き出す「特定のワード」を俺が口にしないと画面に表示されないし、選択もできないという仕様らしい。

そして、今回のような護衛任務にうってつけのスキルとして見つけたのが【探索】だった。

表示させるワードは「探す」。自分の持ち物を見つける機能や、異世界転生ではお馴染みの【鑑定】なんかも同じ一覧に入っていた。【探索】は鈴音を中心とした半径1キロ以内の探し物をサーチできる優れもので、今回の旅路ではこれを常時発動させておくことにした。

ちなみに、スキル発動中であっても、

『お風呂とトイレの時は、絶対にステータス(視界)を消しますからね!』

と、鈴音から念を押し倒されたのは言うまでもない。

「しかし、まさか【探索】なんて便利なスキルが使えるなんて、鈴音は本当にすごいですわね」

向かい合わせの席で、アイリスが感心したように言う。鈴音が「これがあるから外を警戒して見ておかなくても大丈夫です」と事前に説明していたのだ。

「いやいや、そんなことは〜。……あれ? そういえばアイリスさん、この世界の人にもステータスとかってあるんですか?」

「ステータス? なんのことかしら?」

アイリスはきょとんとした顔をした。

(あれ? じゃあなんで、この世界の人はスキルや魔法の存在を知ってるんだ?)

『ですよね。それとなく聞いてみます』

鈴音は頭の中で俺に同意すると、言葉を続けた。

「えと、スキルとか魔法って、普段どうやって使ってるんですか?」

「え? 鈴音だって使っているじゃない?」

不思議そうに聞き返され、鈴音は「あ、まあそれはそうなんですけど〜」としどろもどろになる。

「自分はなぜか使えるというか、感覚というか〜……あはは……」

「ふふ。おそらく他の人もそうよ。魔法やスキルは感覚的に使うものなの。剣の鍛錬や魔法の修行をしていると、急に頭の中に使い方が入ってくるらしいわ。まあ、私にはその才能がないのだけれど」

アイリスが自嘲気味に微笑む。

「あー、なるほど! そういう仕組みなんですね!」

(じゃあやっぱり、この世界の一般人にはステータス画面なんて見えてないのか。でも、鍛錬で覚えるってなると、レベルとかの概念はあるのか?)

『あ、そういえばレベルなら私にもありますよ?』

(は!? なんで今まで言ってないんだよ!)

『あ、なんか当たり前すぎて……。詠太さんの画面の端っこに、常に表示されてますよ?』

(ま、マジか……。ちなみに今はどうなってるんだ? というか、ステータスに表示されている内容、全部頭の中で教えてくれ!)

『えと、【見沢鈴音 17歳 レベル3】……あとは五角形のレーダーチャートみたいなのがあって、真ん中にちっちゃい〇になってますね』

(チャート? それの項目の名前は何になってるんだ?)

『項目ですか? えっと……体力、知力、瞬発力、忍耐力、判断力、ですね』

(……あんなに強いのに、基礎ステータスは全然ダメなのか。どういうことだ?)

『うーん、なんでですかね。身体能力の数値と、スキルによる補正は別枠ってことですかね? でも魔法も使えてますし……』

(まだまだ検証のしがいがありそうだな。……あ、おい鈴音、アイリスがこっちを睨んでるぞ)

『えっ!?』

「――ですか? 鈴音、話をきいていますか!?」

珍しく声を荒らげるアイリスに、鈴音は飛び上がって現実に戻った。

「えっ!? ああ、ごめんなさい! 少し考え事をしていて……!」

「もう、まあいいですわ。ちょっと馬車の外をご覧になって」

アイリスが窓の外を指差した。鈴音は俺にも見えるように気を遣いながら、窓から身を乗り出して外を見る。

アイリスの指差す遥か先、草原の一角から、黒い煙と共に大きな炎が巻き上がっていた。


「なんですかあれ!」

「おそらく、あの先で火事か何かが起きているものと思われます」

御者席のメイドさんが、手綱を握りながら声を張り上げた。

「あそこに向かってちょうだい!」

アイリスの指示に、「……わかりました!」とメイドさんが馬車を急がせる。

(なんだなんだ、こんな何もない草原に家でもあるのか?)

『わかりませんね。魔物……でしょうか?』

(探索には!? 何か引っかかってないか!?)

『それが、まだ距離があって圏外みたいで……。あ! 今引っかかりました! 人らしき反応が2人、と……人じゃなさそうな反応が4、5人あります!』

(マジか、やばいな……。アイリスに知らせろ!)

「アイリスさん! おそらくあの炎のある場所で、魔物に人が襲われています!」

「っ……! わかりましたわ! 急いで!」

馬車が全速力で草原を駆け抜ける。近づくにつれ、炎はその勢いを増し、周囲の乾燥した草にまで燃え広がっているのが見えた。

「すごいですわね……」

「お嬢様! 危ないですから、馬車はこれ以上は近づけられません!」

メイドさんが馬車を止めた。

「私が行ってきます!」

鈴音がシートを蹴って立ち上がると、アイリスは無言で力強く頷いた。

馬車から飛び出すと、炎の全容がはっきりと見えた。

草原にぽつんと立っていたであろうこぢんまりとした一軒家が、激しく炎を上げて燃え盛っている。

(おい! あそこを見ろ!)

家の前、迫り来る火の手に囲まれ、一組の老夫婦が身動きを失って抱き合っていた。そしてその周囲を取り囲むように、アニメや漫画で見るような、緑色の醜悪な魔物――ゴブリンが「ギィィ!」と耳障りな野次を飛ばしてナイフを掲げている。

『ゴ、ゴブリン!?』

(ああ、間違いない。それよりあの老夫婦がやばい、火に巻かれるぞ!)

『どうしましょうか!?』

(とりあえず、前に使ったあの水魔法なら火も消せるしゴブリンも倒せるだろ! 今度は絶対に自分に当てるなよ!)

『わかってますよ!』

鈴音は気配を殺し、ゴブリンたちの背後へと素早く回り込んだ。そして、前方の広範囲をターゲットに定めて叫ぶ。

「……ハイドロレイン!」

突如、激しい炎の上空に、もの凄い水圧を持った巨大な水の塊がいくつも出現し、勢いよく降り注いだ。

凄まじい質量兵器となった雨が直撃し、ゴブリンたちは「ギィ!? ギィャァァ!」と悲鳴を上げて次々と地面に圧殺されていく。同時に、家を包んでいた激しい火の手も、鈴音の大魔法によって一瞬で鎮火された。

「こ、これは一体……!?」

助かった老夫婦が呆然と周囲を見回す。

しかし、その奇跡を起こした張本人は――。

「……ハア、……ハア……」

激しく肩を上下させ、荒い息を吐いていた。

(おい、鈴音!? 大丈夫か?)

『ええ……なんだか、急に、体が……』

鈴音は掠れた声でそう言うと、そのまま糸が切れたようにその場に膝をついてしまった。

「鈴音――!」

そこへ、アイリスとメイドさんが息を切らせて走ってきた。

「大丈夫ですか!?」

アイリスが慌てて鈴音の体を支える。

「……はい、なんとか……ハア、ハア……。でも、なんだか体がもの凄く重くて……」

鈴音の様子を見たアイリスは、少し考え込むような顔をした後、納得したように頷いた。

「おそらく……魔力切れが近い状態ですわ。魔法使いは魔力切れが近づくと、体が鉛のように重くなり、完全に切れたときには意識を失ってしまうそうですもの」

(!? それって……)

『……たぶん、詠太さんが考えてることは合ってますね』

前回、同じ魔法を使った後に鈴音が気絶したのは、跳ね返った水が直撃したからではなく、単なる「魔力切れ」だったのだ。

『……かもしれません。さすがに無制限に撃てたらチートすぎますもんね……』

(なるほどな。じゃあ、あの頼りないレベルやステータスの概念も、この世界では魔力量の限界値としてわりかし大事になってくるのかもな)


「あのう、助けてくださり、本当にありがとうございます」

怯えながらも、老夫婦の夫が話しかけてきた。

「いえ、たまたま通りかかって良かったですわ。あの火事はゴブリンの仕業ですの?」

アイリスが尋ねると、老夫はがっくりと肩を落とした。

「はい。いつもは罠を家の周りに張っていたのですが、今回は罠の材料を切らしてしまっていて……そこを狙われました」

「わかりましたわ。とりあえず、私が救援の信号弾を打ちますから、ここで少しの間待っていてくださればリンガルドから救助が来ますわ。幸い、まだ領地から遠く離れてはいませんもの」

「本当に、本当にありがとうございます……!」

老夫婦が深々と頭を下げる。

「では、私たちは先を急ぎますのでこれで失礼しますわね。もし今後の生活で困ったことがあれば、私の父(領主)の館へ報告に行ってくださいな。手を貸すよう伝えておきますわ」

「……まさか、アイリス様ですか?」

老夫婦が顔を見合わせた。

「ええ。でも、今回あなたたちを救ったのは、ここにいる冒険者の鈴音よ」

アイリスが誇らしげに鈴音を示すと、老夫婦は鈴音の手を握りしめた。

「ありがとうございます、鈴音さん……!」

「え、ええ……。お二人が無事で、本当に良かったです……」

息も絶え絶えになりながらも、鈴音はへにゃりと笑った。

その様子を見た老夫婦の妻の方が、ハッとした表情になる。

「ちょっと待ってください!」

お婆さんはそう言うと、まだ煙の上がる焦げた家の中へとドタドタと入っていった。

「あっ、奥様! まだ危ないですわ!」

アイリスが止めるのも聞かず、お婆さんは何かを必死に探し回る。そして、嬉しそうな声を上げて戻ってきた。

「あっ、ありました! これをどうぞ!」

お婆さんの煤けた手には、小さなガラスの小瓶が握られていた。

「燃えてなくて良かったです。これは【マナポーション】です。魔力切れの体に効きますから、どうかこれをお飲みになってください!」

「マナ……ポーション……?」

(お、ゲームの定番アイテムじゃん! 魔力切れに効く薬か?)

「良かったですわね鈴音! これを飲めば魔力切れの気怠さは治ると思いますわ!」

アイリスに促され、鈴音は小瓶の栓を抜いた。

「で、では……ゴクッ、ゴクッ……」

一気に喉に流し込んだ瞬間、鈴音の目が丸くなった。

(え? どうした鈴音? そんなに変な味なのか!?)

『詠太さん! これ! めっちゃ美味しいです! なぜかコーラみたいな味がします!』

(えええ! いいな〜! 炭酸のコーラ味なのか、羨ましい……!)

鈴音は最後の一滴まで一気に飲み干すと、「ぷはぁ〜っ! ごちそうさまでしたっ!」と、さっきまでの重労働が嘘のように元気よく叫んだ。

「おや、もう元気になった。良かったです」

老夫婦が顔を見合わせて微笑む。

「本当にありがとうございました!」

「いえいえ、命を救っていただいたのです、こんなものでは返しきれませんよ」

「いいんですよ! とってもありがたかったです!」

鈴音の屈託のない笑顔に、老夫婦は救われたような表情を浮かべていた。

「さっ! 時間がなくなってしまいますので、私たちは先へ急ぎますわよ」

アイリスの号令がかかる。

「そうですね! じゃあお爺ちゃん、お婆ちゃん! また今度です!」

すっかり魔力が回復し、足取りも軽く馬車へと歩き出す鈴音。

こうして、また一つ見事な手際で命を救った鈴音(と俺)の旅路は、まだまだ始まったばかりだった。

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