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憧れていた異世界転生、転生先はシステムの声!?〜同じく異世界転生した少女とともにこの新世界を生きていく〜  作者: ほさ


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10/15

煌びやかな街の裏側

「もう少しで森を抜けますわよ。そしたらすぐヘインズですわ」

馬車の窓から外を眺めながら、アイリスが言った。

俺たちはリンガルドを出発してからちょうど5日目を迎えていた。奇しくもそこは、俺と鈴音がこの世界で最初に目覚めたあの森を抜ける手前だった。

「ここからはヘインズの領地ですから、気を引き締めるのですわよ」

「……はい!」

鈴音がシートの上で拳を握り、気合を入れる。

この5日間の旅路では、道中に多少のゴブリンと遭遇して鈴音がサクッと片付けたものの、それ以外は目立ったトラブルもなく非常にスムーズな進行だった。

移動中の馬車内では、主にアイリスからこの世界の情勢について色々と教えてもらった。

この世界……というより、俺たちが今いる国は「ルシア王国」という大国らしい。そしてルシア王国には無数の街があり、その街一つ一つがまるで独立した国家のような役割を果たしているのだという。だからこそ領主の権限は中央の法律が霞むほどに絶大で、街ごとに法律がかなり異なるのだそうだ。

その中でもこれから向かうヘインズは、貴族階級や大富豪が多く集まる反面、内部での権力争いや足の引っ張り合いが絶えない、曰く付きの街なのだとか。

「そういえば、アイリスさんは明日、ヘインズの領主と何を話し合うんですか?」

鈴音が素朴な疑問を口にすると、アイリスはふっと目を伏せた。

「話し合うと言うか、表向きはただの親睦の会食なのよ。でも……おそらくは、最初から私に危害を加えようとして誘い出した、と考えるのが妥当だと思いますわ」

「え? そんな危険がわかってて行くんですか!?」

鈴音が目を見開く。

「ええ……。危険だとわかっていても、お父様の、ひいては我が領の顔に泥を塗るわけにはいきませんもの。それに……今は鈴音がついていてくれますわ」

アイリスはそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。

「え? いや! 私がいるからといって、そんな……!」

弱気になる鈴音をよそに、アイリスは平然と続ける。

「大丈夫ですわ。おそらくヘインズの領主は、森での襲撃で私が殺されなかったことに相当腹を立てていることでしょう。こうして私がのこのこと現れれば、次は何をしてくるかわかりませんわね」

「いや、全然大丈夫じゃないですよっ!」

(さすがにアイリスは肝が据わりすぎだな……修羅場をくぐり抜けてきたオーラがある)

『これがこの世界の17歳ですか!? 日本の高校生と精神年齢が違いすぎておかしいんですけどっ!』

鈴音が頭の中で頭を抱えて絶叫していると、御者席から「お嬢様、鈴音様、ヘインズが見えてきました」とメイドさんの声が響いた。

鈴音は慌てて窓から大きく身を乗り出した。

「おおー! これは……!」

(え? どうした鈴音! 俺にも見せてみろ!)

森の木々が開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは、見渡す限りに広がる広大な黄金の砂漠だった。そしてその遙か先、陽炎の向こうに、そびえ立つ巨大な城壁と大都市が鎮座していた。

街並みは豪華な装飾が施され、まるで地球の『アラビアンナイト』に出てくるような、ドーム状の屋根を持つ美しい建造物が建ち並んでいる。

(なんか……めちゃくちゃ金持ってそうな街だな)

『ある意味、すごく綺麗ですね……』

「どうかしら? リンガルドとはまた雰囲気が違いますでしょう? 夜になると魔法の灯火でもっと煌びやかになりますのよ」

アイリスが自慢げに胸を張る。

「へえ〜! ぜひ見てみたいです!」

「ふふっ。今日の夜は、街をすこし探索してみましょ」

「やった〜!」

馬車はそのまま砂漠の街道を進み、やがてヘインズを囲む巨大な城門の前へと到着した。

「止まれぃ!」

鋭い声と共に、門番が立ち塞がる。全身を強い日差しから守る布で覆い、長い槍を手にした門番たちが馬車に近づいてきた。

メイドさんが無言でリンガルド領の紋章が入った書状を提示する。

「ん? ……し、失礼いたしましたっ! リンガルドのアイリス様ですね! 門を開けろぉ!」

門番は慌てて居住まいを正すと、後方に向かって怒鳴り声を上げた。

馬車を降り、門が開くのを待つ3人。ガタガタガタと重々しい音を立てて格子状の門が上がっていく。

しかし、門をくぐった先の世界は、外から見た煌びやかさとは少し様子が違っていた。

通りには無数の露店がひしめき合っていたが、そこにいるのは、お世辞にも裕福そうとは言えない、ボロボロの衣服をまとった人々ばかりだった。

(……なんか、思ったより金持ってなさそうな住人が多いな)

『ですね……。外から見た綺麗さとのギャップがすごいです……』

鈴音が怪訝そうな顔をしていると、アイリスが少し悲しげに目を伏せて囁いた。

「あれ? って思ったでしょ? ヘインズは貧富の差がルシア王国で一番激しいと言われていますの。だから、街の中心部から離れた外縁部ほど、こうした貧困層が多いんですのよ」

(なるほどな。格差社会か……創作物でもよくあるっちゃある問題だな)

その時、「馬車の方! このお花、買ってくれませんか!?」と、薄汚れた服を着た小さな少女が、枯れかけた花を手にこちらへトボトボと近寄ってきた。

「え? お花……?」

鈴音が思わず足を止めようとした瞬間、アイリスが鈴音の腕を強引に引っ張り、前へと歩かせた。

「あ、え? どどど、どうしたんですかアイリスさん!?」

困惑する鈴音を引きずりながら、アイリスは前を向いたまま小声で告げた。

「ここら辺の声掛けに、安易に応じてはいけませんのよ。可哀想だけれど、少しでも立ち止まりでもしたら、瞬く間に周囲の仲間にスリに遭いますわ」

「スリ……」

鈴音は息を呑んだ。

俺は、前を見据えたまま、悔しそうにギュッと唇を噛み締めているアイリスの横顔を見逃さなかった。きっと、領主の娘として思うところがあるのだろう。


街の中心部へと進んでいくと、先ほどの喧騒と貧困が嘘のように消え失せ、打って変わって静かで美しい高級住宅街へと景色が変わった。

『急に変わりすぎですね……』

(だな。しっかし、どの建物も一軒一軒がめちゃくちゃデカいな……)

「えーと、たしか……あっ! あそこですわね!」

アイリスは何かの地図を頼りに、メイドと共に鈴音を先導していく。

「な、なんですかここ……?」

アイリスが足を止めた場所を見上げて、鈴音は口をポカーンと開けた。

そこに建っていたのは、この世界の中世風な世界観にはおよそ似つかわしくない、近代的なホテルのような綺麗さを持つ5階建ての豪華なビルだった。

「ここが、本日の私たちの宿ですわ」

「ここ……が?」

あまりの場違いな豪華さに圧倒される鈴音。すると、アイリスが周囲を警戒するように見回しながら耳打ちしてきた。

「あ、そうだわ。鈴音、万が一のために、このホテルに何か『異常』がないか確認してもらっていいかしら?」

「あ、そうですね! 任せてください!」

鈴音はすぐさま頭の中で俺に呼びかける。

『詠太さん、異常ってどうやったら見つかりますかね? 流石に【探索】で落とし物を探すのとは違いますよね……』

(そうだな……敵の待ち伏せとか、暗殺者の気配を探すようなスキルはなかったっけ? ステータス画面の「探す」項目をもう一度見てみてくれ)

『えーと……あ! 【敵意感知】ってやつならありますね! とりあえずこれを使ってみます!』

鈴音は慣れた手つきで、俺の視界(画面)の該当スキルをタップした。

鈴音の意識が集中し、数秒の静寂が訪れる。

「むむむ……。だい……じょうぶですね。ここは安全です、アイリスさん」

「よかったですわ! さすが鈴音ね」

アイリスがほっと胸を撫で下ろす。だが、画面を共有している俺は、鈴音の精神が少し微振動するように緊張しているのを感じ取っていた。

(……鈴音、本当に大丈夫なのか? 顔色が悪いぞ)

『……はい。あくまで、このホテルの敷地内は、ですけど。……うまく一点に感知はできませんでしたが、このヘインズという街全体から、どす黒い敵意がぶわぁって溢れてるのが伝わってきて……』

(マジか……。明日の会食、やっぱり相当警戒しておかないとな……)

『そうですね。いざとなったら、このホテルごとぶっ壊してアイリスさんを担いで逃げましょうか!』

(いや、それは最終手段だろ……)

頭の中でそんな脳筋気味な作戦会議をしていると、いつの間にかメイドさんとアイリスがホテルの大きな扉を開けて中に入りかけていた。

「鈴音、何を突っ立っていますの!?」

アイリスに呼ばれ、鈴音はハッと我に返った。

「あ、今行きます!」

慌てて走って二人の後を追う。

こうして、何やら不穏な空気が渦巻く大都市ヘインズへと到着した俺たちは、明日の決戦(会食)を控え、ひとまずはこの豪華な街での夜を楽しむことにするのだった。

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