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憧れていた異世界転生、転生先はシステムの声!?〜同じく異世界転生した少女とともにこの新世界を生きていく〜  作者: ほさ


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ヘインズの領主と鑑定不可の男

「こ……これは……」

長旅の汗を流し、宿に用意されていた衣装に着替えた二人。その姿が視界に飛び込んできた瞬間、俺の思考は一時停止した。

煌びやかな刺繍や細かな装飾が施された、異国情緒あふれる豪華なドレス。布地は薄くしなやかで、二人の健康的な若さをこれでもかと引き立てている。

『……なんですか? 詠太さん、また変なこと考えてないですか……?』

(そ、そんなことないぞ!? 17歳の美少女たちが、異国の綺麗な衣装に身を包んでるのがこんなに目の保養になるとか、素晴らしい眼福だとか、そんなこと微塵も思ってないからな!?)

『……えっち』

(おいおい! 健全な男子(中身は30代サラリーマン)に向かってなんてことを!)

「どうしました? 鈴音。顔が赤くってよ?」

頭の中で俺と小競り合いをしていた鈴音の顔を、アイリスが覗き込んできた。

「あっ! いや、なんでもないです! えへへ……」

鈴音は引きつった笑みで慌てて誤魔化す。

今夜の目的はヘインズの夜の街の探索だ。

「あれ? そういえば、メイドさんは一緒に行かないんですか?」

「ええ、彼女には他に情報収集などの仕事がありますの。今夜は私たちだけで楽しみましょ!」

「わかりました! では、私の後ろに!」

鈴音はアイリスの前に一歩踏み出し、腕を組んで周囲をギロリと見回すSPのような動きをしてみせた。

「ぷっ! クスクス……そんなに身構えなくていいですわよ。いくらヘインズ卿でも、さすがにこんな大衆の面前で仕掛けてくるほど愚かじゃないですわ」

「は、はい、そうですよね……」

鈴音は照れくさそうに頭を掻いた。

(アイリスの言う通り、さすがに公道で襲撃はないだろうけど……念のため警戒は切らすなよ、鈴音)

『そうですね。昼間の、あの街のドロドロした空気もありますし』

俺たちはそうして、活気づき始めた夜の街へと繰り出した。

一歩大通りに出ると、昼間は閑静だった高級住宅街の周辺に、先が見えないほどの数の露店が出店していた。色とりどりの魔導具の灯りが通りを照らし、お祭りのような賑わいを見せている。

「えっ!? なんですかこれ、お祭りですか!?」

「ふふ、ヘインズでは毎夜こういう感じよ。安心して良いですわ、街の入り口にあったスラムの露店とは違う、正規の出店証を得ている安全なお店ばかりですから」

「へえ〜……。ん? クンクン……なんだか凄く良い匂いが……」

ある露店の前で、鈴音の足がピタッと止まった。店頭では、巨大な肉の塊が回転しながらジューシーに焼かれている。

「あら? 良いところに目を付けるわね。それは【ババブ】といって、ヘインズの名物料理ですわ。肉を薄く削ぎ落として重ねて焼き、お野菜と一緒に平たいパンで挟んで、特製のソースをかけて食べるのですの」

「へ、へえ……」

(どう見てもケバブだな)

『完全にケバブですね。……あ』

――ぐーギュルギュルギュル……。

静かな通りに、鈴音の立派な腹の虫の音が響き渡った。

「あれ? お腹が空きましたの? ……店員さん、ババブを一ついただけます?」

アイリスがクスリと笑い、すぐに店員へ声をかけた。

「えっ、あ、待ってください!」

「はいよ! お嬢ちゃん、味付け(ソース)はどうするい?」

気前の良さそうな店員が包丁を片手に聞いてくる。アイリスに笑顔で促され、鈴音はおずおずと口を開いた。

「あ、えーと……じゃあ、中辛で」

「あいよ! ババブの中辛一つ! 4000ベルだ!」

「よ、4000ベル!?」

鈴音の目が飛び出さんばかりに丸くなった。

この世界の通貨単位は「ベル」。これまでの道中で分かったことだが、物価の感覚的には【1ベル=約1円】と考えていい。

(ケバブひとつで4000円だと!? たけえな……おい、観光地価格にも程があるだろ!)

「はい、4000ベルちょうどですわ」

アイリスは何の躊躇もなく、財布からすっと硬貨を取り出して支払い、ババブを受け取った。

「おう! 毎度あり!」

「ちょ、ちょっとアイリスさん! さすがに高すぎませんか!?」

露店から少し離れたところで、鈴音は声を潜めて詰め寄った。

「しょうがないですわ。ヘインズでは貧民街以外の物価が、もの凄く高く設定されているの。ここの出店たちも、観光に来た他領のお金持ちから外貨を巻き上げるために、街(領主)が主導で出しているお店なのですわよ」

「そ、そんな……。というか、そんな高級なものを私に……」

「安心して良いですわよ。護衛の報酬はこれとは別に出しますわ」

「いや、そういうことじゃなくて……むぐっ!?」

「大丈夫ですわよ! ほら!」

遠慮する鈴音の口に、アイリスがババブを無理やり突っ込んだ。

モグモグと動かしていた鈴音の表情が、一瞬で至福のそれへと変わる。

「ん……うまっ! めちゃくちゃ美味しいです!」

「公営の出店ですからね、味だけはピカイチなのですわ」

アイリスは満足そうに微笑んだ。

(なんだか、本当に嫌な意味で『金持ちのための街』なんだな、ここは……)

「うーん、美味しかった〜! ごちそうさまでした!」

あっという間に完食した鈴音が、アイリスに深々と頭を下げる。

「お腹はもう大丈夫かしら? なら、次は鈴音に見せたい場所がありますわ! こちらへ!」

アイリスにぐいっと手を引かれ、鈴音は「うわっ、は、はい!」とついて行った。


出店が広がる賑やかな通路を横に抜け、しばらく歩くと、背の低い石の塀に囲まれた広大な池が現れた。夜の闇の中、多くの人々がその池を囲むようにして集まっている。

(なんだここ? 噴水か? やけに人が多いな)

『確かに、噴水っぽいですね』

「ここは一体どこですか?」

「ここはヘインズの中央噴水ですわ。半径100メートルほどある巨大な噴水ですのよ。あと少ししたら、夜の噴水ショーが行われますの」

「噴水ショー……?」

「ええ。魔法を使って噴水の水を様々な形に変化させたり、専用の楽団が生演奏を披露するのよ」

「へえ、パレードみたいなやつですか」

鈴音は周囲を見回した。しかし、噴水の周りには街灯などの明かりが少なく、楽団の姿も見当たらない。その割には人混みだけが熱を帯びて待機していた。

「でも、そんな華やかなものが今から始まるなんて、ちょっと想像できない暗さですけど……」

「いいえ、そろそろですわ」

アイリスが手元の懐中時計を見つめる。

その時だった。

――パァンッ!!!

凄まじい轟音とともに、夜空に色鮮やかな花火が打ち上がった。

それを合図にするかのように、真っ暗だった噴水が妖しい赤色にライトアップされ、激しく湧き立つ。そして、中央の巨大な水の柱が天高く舞い上がり、刻一刻とその色を変えていった。

水柱は意志を持つかのように形を変え、獅子や鳥、大蛇といった様々な動物の姿へと変貌していく。同時に夜空には次々と花火が咲き乱れ、いつの間にか噴水を取り囲むように、豪奢な衣装を着た楽団が忽然と姿を現して美しい音楽を奏で始めていた。

「えっ? え? なにこれ、いきなり人が出てきた!?」

「【隠遁ハイド】の魔法ですわね。あの噴水の色変化や、空の花火もすべて魔法による演出ですわ」

「はええ……すごい。魔法って、こんなに器用な使い方もできるんですね……!」

鈴音は目を輝かせてその光景に見入っている。

『詠太さん凄いです! まるでデズネーランドのエレクトリカルなパレードみたいです!』

(確かになぁ。デズネーランドといえば、昔俺が学生の頃にデートで行った時にさ――)

『あ、その思い出話は今いいです。ちょっとショーに集中したいんで』

(……こ、これがZ世代の塩対応……。おじさん、ちょっと悲しい……)

気を取り直して、鈴音がアイリスに尋ねた。

「これって、たまたま今日が特別なお祭りだからやってるんですか?」

「え? いいえ、これは毎日行われていますわよ」

「なっ……これが毎日!?」

「ええ。ヘインズは各地から著名な魔法使いを大金で雇っては、こういう見せ物に使っているらしいですわ。周囲が砂漠で資源が乏しい分、観光業に力を入れているのですわね」

「そうなんですね……。魔法使いか……なんか、もっと凄いバトル特化の人とかがいたら面白そうですね」

「ふん。ここにいる魔法使いなんて、実力はあっても金に靡くような、所詮は三流の集まりですわよ」

アイリスがふっと鼻で笑う。

(手厳しいな、アイリスお嬢様……。まあ、プライドの高い本物の魔法使いは、見せ物小屋の芸人みたいな真似はしないってことか)

やがて、盛大な拍手と共にきらびやかなショーが幕を閉じた。

「じゃあ、時間も遅いですし、もう宿へ帰って寝るとしましょうか」

「はい、そうですね。では……――アイリスさんっ!!」

鈴音が突然、何かに気づいたように鋭い悲鳴を上げた。


(どうした、鈴音!?)

「どうしました!? 鈴音!」

アイリスが驚いて身構える。鈴音はアイリスを背中に庇うようにして、鋭い視線で周囲の闇をキョロキョロと油断なく探り始めた。

『詠太さん! 念のために【探索】と【敵意感知】を常時発動させてたんですけど、今、すぐ近くからもの凄いドロドロした敵意が飛んできました!』

(何!? 周りにはそれっぽい奴は……)

「おっとぉ、これはこれは……奇遇ですなぁ、アイリス嬢」

人混みの奥から、鼓膜にへばりつくような粘り気のある、嫌味な男の声が聞こえてきた。

バッと声のした方向を振り向く。

「――ヘインズ卿!」

アイリスの表情が一瞬で凍りついた。

そこにいたのは、金髪の縦ロールのような髪型に、同じく不自然にカールした髭を蓄えた、見るからに強欲そうな肥満体の男だった。その左右には、槍を構えた重装の兵士が2人。

そして――男の真後ろに、深いフードを頭からすっぽりと被り、一切の気配を消した不気味な人物が佇んでいた。

(おい鈴音! すかさずあいつらを【鑑定】しろ!)

『わかりました!』

鈴音はヘインズたちを睨み据えたまま、視界の端の画面を器用にタップする。

『あそこの真ん中のデブが【ヘインズ七世】です。……って、えっ!?』

(どうした!? 何が見えた!?)

『あの……後ろのフードの人……【鑑定】の文字がバグってて、内容が何も読めません! 鑑定不可能です!』

(何だと……!? おそらく、圧倒的なレベル差のせいか、あるいは鑑定を阻害する魔道具でも持ってるな……!)

こちらの動揺を知る由もなく、ヘインズ七世は品性のない笑みを浮かべて首を傾げた。

「ここまでの道中、ご無事で何よりでございます。森には危険な魔物も多いと聞きますが、いやはや、リンガルドの守護は素晴らしい」

「ええ。鈴音のおかげで、とっても楽しい道のりでしたわ」

アイリスは一歩も引かず、冷徹な笑みを浮かべてヘインズ卿の視線を受け止める。

「それは……重畳。……では、また明日の会食を楽しみにしておりますよ。ふふふ……」

ヘインズ七世はそれだけ言うと、身を翻して去っていった。

――その刹那。

すれ違いざま、後ろのフードの男が、チラリと鈴音の方を視線だけで見下ろした。

フードの奥の暗闇から、冷酷な二つの瞳が妖しく光る。

その瞬間、鈴音の身体の震えを通して、俺の意識にまで心臓を素手で掴まれたような、凄まじい悪寒が伝わってきた。

(なっ……! なんだあいつ……!!)

『わかりません……。でも、絶対にやばい奴ですよ、あいつ……!』

ヘインズたちの一行の姿が完全に闇に消えると、アイリスは「ふう……」と大きく一息ついて、肩の力を抜いた。

「まさか、会食の前日である今日、わざわざ直々に会いに来るとは思いませんでしたわね」

「あの人が、この街の領主……」

「ええ。あんな悪趣味ななりをしていますけれど、お金儲けと権謀術数に関しては天才的だと、お父様もおっしゃっていましたわ」

アイリスが忌々しげに呟く。

(あいつ自身もそうだが、あの後ろにいたフードの奴……。明日は徹底的に用心しとかなきゃな、鈴音)

『はい……! これが私たちの、異世界生活最初の正念場ってやつですね!』

鈴音は怖気震いながらも、頭の中で不敵に笑ってみせた。

(だな。頼んだぞ、相棒)

俺は、鈴音のこういう土壇場での図太さと、少しの能天気さに、どこか救われるような気持ちを感じていた。

明日の会食が、血で血を洗う戦いになるかもしれないとも知らずに、俺たちは決意を胸に宿へと引き返すのだった。

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