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憧れていた異世界転生、転生先はシステムの声!?〜同じく異世界転生した少女とともにこの新世界を生きていく〜  作者: ほさ


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教団の秘密

ルシアニアに到着した最初の夜。

日中の大移動と、聖女イリーナとの隠密デート(+慣れない嘘の連発)で心身ともに限界を迎えていた鈴音は、宿のベッドに倒れ込むなり、泥のように眠ってしまった。

鈴音の健やかな寝息が響く中――。

同じ時刻、ルシアニアの中央大聖堂では、取り返しのつかない事態が静かに進行していた。

大聖堂の最奥、厳かな月光が差し込む「祈りの大広間」。

誰もいないはずのその場所に、青髪の聖女イリーナは一人、床に膝をついて両手を合わせ、神への祈りを捧げていた。

「……なんだか、今日の祈りには随分と邪念が見えますね、聖女様」

静まり返った大広間に、低くしわがれた老人の声が不気味に響き渡った。

「……ガリアーノ」

イリーナは頭を下げて祈りの姿勢を崩さないまま、不快感を露わに声を硬くした。

「なぜここに? 深夜の祈祷の時間は、何人たりとも立ち入り禁止のはずです。それは……総司教であるあなたであっても、例外ではないはずですが」

「ふふふ。実は、もうそうも言ってられない状況になりましてねぇ」

ドレイクは音もなくイリーナの背後へと歩み寄る。

ピクッと、イリーナの華奢な肩が微動だに揺れた。

「……何? どういう意味ですか」

ドレイクはその問いを完全に無視し、口元に邪悪な笑みを浮かべながら、掠れた声で何事かを低く呟いた。

「――『   』」

「かっ……!? あ、が……っ……!?」

次の瞬間、イリーナの身体に目に見えない激痛か衝撃が走った。

まるで高圧の雷に打たれたかのように、彼女の身体はビクンと跳ね上がり、両手両脚を無理やり開かされるようにして強硬に硬直する。

「が、ガリ……アー、ノ……! あなた、は……何を……!」

苦痛に顔を歪め、脂汗を流しながら、イリーナはなんとかそれだけの声を絞り出した。

ドレイクはゆっくりと、身動きの取れないイリーナの正面へと回り込んでいく。その目は、信仰の徒のそれではなく、獲物を追い詰めた狂信者の爛々とした輝きを帯びていた。

「いやはや、さすがは聖女様。まさか、我々が血眼で捜していた『碧い星の使者』を、こうも簡単に見つけ出してくださるとは……。おかげで手間が省けました。本当に、本当に僥倖でございますよ」

「あ、あお……の……し、しゃ……? 何を、言って……」

イリーナは呼吸すらままならない様子で、必死にドレイクを睨みつける。

「おっと、これ以上はあなたに教える必要はありませんね。……なに、心配せずとも、あなたには明日一日だけ、大人しく眠っていて貰えばいいのです」

ドレイクは冷酷な目でイリーナを見下ろし、短く吐き捨てた。

「――『眠れ(スリープ)』」

その言葉が響いた瞬間、イリーナの瞳から完全に光が消え失せた。

ドサリ、と糸の切れた人形のように床へ崩れ落ち、ピクリとも動かなくなる聖女。

「ついに……、ついにこの時が来た! 我らが教団の、いや、一族の宿願が……明日、ついに叶うのだ……!!」

暗黒の大広間に、ドレイクの狂気的な歓喜の呟きだけが虚しく響き渡っていた。


「――ちょっと! 起きてください詠太さん!!!」

鼓膜を突き破らんばかりの鈴音の大絶叫が、宿の一室に響き渡った。

(ん……? ぁあ……。うるせえな、おはよう鈴音……)

「おはよう……じゃないんですよ! 今、何時だと思ってるんですか!?」

鈴音は髪を振り乱し、般若のような顔で俺のいる画面ステータスを指差している。

(んん……? 時間? えーっと、俺の体内時計システムクロックによると……現在、午前11時ちょうどだな)

「そうですよ!! なんで起こしてくれなかったんですか!? イリーナ様のお披露目(大聖祭)は、12時からなんですよ!? あと1時間しかないじゃないですか!」

(いや、それを言うならお前が自分で起きろよ……。昨日の夜、ベッドに入るなり秒で爆睡したの誰だよ)

「何のための詠太さん(システム)なんですかっ! ちゃんと高機能な目覚まし時計としての役割を果たしてくださいよ!」

鈴音は自分の朝寝坊を棚に上げ、ものすごい理不尽な怒りをぶつけてくる。

(おい! いつから俺はお前の専属目覚まし時計になったんだ!? 17歳にもなって自分で起きられないのを俺のせいにするな!)

「あーもう! 口喧嘩してる時間はありません! とにかく行きますよ!」

鈴音は速攻で身支度を整えると、宿の扉を勢いよく飛び出した。

外に出ると、ルシアニアの街は昨日とは打って変わって、鮮やかな一色のお祭りムードに包まれていた。

大通りには所狭しと露店が並び、色とりどりの花やリボンが建物を飾り立てている。

(へえ、すごい活気だな。さすが大国の宗教都市のお祭りだわ)

「詠太さん、見てください! イリーナ様そっくりの可愛い木彫りの人形が売ってますよ!」

鈴音はさっきまでの怒りをどこへやら、ミーハーな子供のように目を輝かせて露店に駆け寄る。

(ふーん、こんなグッズまで作られてるのか。聖女様、本当にこの国じゃ大人気なんだな)

「あら? お嬢ちゃんも聖女様を見にきたのかい?」

人形を並べていた露店のおばちゃんが、鈴音に向かって親しみやすく微笑みかけた。

「聖女様は本当に素晴らしいお方だよ。気高くて、美しくて、慈悲深くて……あんなに完璧な女性は、この世界に二人といないわぁ」

「完璧……ですか」

鈴音は、昨日のデートで口いっぱいにパンケーキを詰め込み、「うみゃーい!」と叫んでいたイリーナの姿を思い浮かべ、微妙な表情を浮かべる。

「ああ、そうさ。聖女様は女神様の遣い、歩く奇跡そのものだからね!」

おばちゃんはうっとりと胸に手を当てて語る。

(あのイリーナがなぁ……。まあ、やっぱ普段は大聖堂の中で、聖女としての完璧な仮面を被ってちゃんとしてるんだろうな)

『ですね。なんだか昨日の無邪気な感じからは、全く想像がつきませんけど……』

俺たちは買い食いをする余裕もなく、押し寄せる人の波に流されるようにして、イリーナがお披露目されるという大聖堂前の巨大な中央広場へと向かった。

しかし、広場に到着した時点で、そこは文字通り「立錐の余地もない」状態だった。

集まった群衆の熱気と興奮が渦巻き、身動きを取ることすら困難だ。

(こりゃあ、前の方どころか近くに行くことすら無理だな。人の頭しか見えん)

『ですね……。あーあ、せっかくならもっと近くで綺麗なドレス姿を見たかったのに……』

(だから、お前がちゃんと朝起きていればな?)

『……もう、その件については静かにしててください』

(はいはい、悪かったよ)

そうして、広場の時計塔の針が正午――12時を指そうとした、その瞬間だった。


――バッ!!!

何の前触れもなく、広場を埋め尽くしていた数万人の群衆が一斉に、示し合わせたようにその場に跪いた。

それと同時に、厳かで、どこか不気味な響きを持つ笛の音が、大聖堂のバルコニーから鳴り響く。

「え? あっ、え!?」

鈴音は突然の周囲の動きに慌ててキョロキョロと辺りを見回し、大急ぎで周囲に合わせて地面に膝をついた。

笛の音がピタリと鳴り終わると、最前列にいた教会の白ローブの一人が、拡声の魔法を使って広場全体に鋭く叫ぶ。

「聖女様がお見えになられる! 全員、合図があるまで決して頭を上げるなッ!」

ギギィ……、バタンッ!

重厚な大聖堂の巨大な両開きの扉が、ゆっくりと左右に開かれた。

静まり返った広場に、コツン、コツンと、床を叩く足音が響く。ゆっくりと歩み出てくるのは、教会の権威を象徴する豪華な黒い法衣ローブ――。

鈴音を含め、広場にいる全員が頭を下げて地面を見つめている。

だが、鈴音の上空からの視点を持つ俺だけが、その致命的な『異常事態』に気づいた。

(おい……鈴音。絶対に顔を上げず、動かずに俺の話を聞け。……出てきたのはイリーナじゃない。総司教のドレイクだ)

『えっ!? あの、おじいちゃん総司教ですか? ……でも、どうして? イリーナ様に何かあったんでしょうか……』

(さあな、嫌な予感しかしない。とにかく様子がおかしい、いつでもスキルを使えるように用心しろよ)

俺たちが脳内で緊迫した念話を取り交わしている間に、ドレイクは広場の正面に設置された高い壇上へと、ゆっくりと歩を進めていった。

「――皆の者、顔を上げなさい」

ドレイクの低く冷徹な声が、魔法によって広場全体に響き渡る。

人々は戸惑い、ざわつきながらも、促されるままに顔を上げていった。

「え? なんで総司教様が……?」

「イリーナ様は!? なぜドレイク様が壇上に立たれているんだ……?」

不審の念が群衆の間に広がり、騒がしくなり始めたその時。

壇上のドレイクが、冷酷な笑みを浮かべて再び口を開いた。

「――『止まれ(ストップ)』、皆の者」

ドレイクがそう呟いた瞬間。

世界からすべての『音』と『動き』が消滅した。

数万人の群衆、ざわめいていた市民、門の前に整列していた白ローブの神官たちに至るまで、全員がまるで時間が凍りついたかのように、不自然な姿勢のままピタリと動きを止めてしまったのだ。

(な、なんだこれ!? おい鈴音! ヤバいぞ、街の奴らが全員フリーズしてやがる!)

しかし、鈴音からの返答はない。彼女もまた、不自然に目を見開いたまま、ピクリとも動かなくなっていた。

(おい! 鈴音!! 何してんだ、冗談だろ!?)

『え、詠太さん……! 体が……! 指一本、ビクとも動きません……!』

(クソ、意識はあるんだな!?)

『はい……! でも、魔力も身体も、完全に何かに縛り付けられてるみたいで……!』

(なんだこの魔法……!? 範囲も効果も異常すぎるだろ!)

「ふふふ。急に身体が動かなくなって、さぞ驚いたでしょう?」

いつの間にか、壇上にいたはずのドレイクが、音もなく鈴音の真ん前まで移動してきていた。凍りついた群衆の隙間を縫うように歩くその姿は、あまりにも異様だ。

「これが私のユニークスキル――【聖言ロゴス】。私の紡ぐ言葉は、この領域エリアにいるすべての存在への絶対の命令となるのです。……さて、鈴音さん。あなたは、我が教団がずっと捜し求めていた『碧い星の使者』ですね?」

(なっ……!? 『碧い星の使者』だと!? こいつ、最初から鈴音を狙って……!)

『わ、分かりません……! 碧い星って何なんですか! 離してください!』

鈴音は脳内で必死に叫ぶが、現実の彼女の唇は、固く閉ざされたままだ。

「あー、そうでした。口も動かせないように命令していましたね。……まあ、心配せずとも、このままあなたに喋る機会など二度と訪れませんから、安心してください」

ドレイクは邪悪な目を細め、鈴音の顔を凝視する。

(はぁ!? こいつ何言ってんだクソジジイ! おい鈴音、どうにかして抗え! 固有魔力を全開にしろ、動かせないのか!?)

『無理です! 魔力の流れ自体が、彼の言葉にロックされてて……! どうしようもなくて……!』

「では、こちらへ。――『歩け(ウォーク)』」

ドレイクが背を向け、大聖堂の奥へと歩き出す。

すると、鈴音の身体が彼女の意志を完全に無視して、カクカクと糸に操られる人形のようなぎこちない動作で、ドレイクの後を追って歩き始めてしまった。

『ちょっと! 体が! 勝手に動いて歩いちゃうんですけど!!』

(クソっ、なんだよこのスキル……! 命令一つで全自動人形化とか、チートにも程があるだろ!)

『詠太さん、私たちどこに連れて行かれるんでしょう!?』

(分からねえ……! だが、あの大聖堂の奥にロクなもんがないことだけは確かだ!)

抵抗する術を持たないまま、俺たちはそのまま、静まり返った大聖堂の内部へと連行されていった。

大聖堂の中は、外の広場よりもさらに異質な光景が広がっていた。ドレイクの身内であるはずの、白いフードを被った教団の信者たちが、そこかしこの床でバタバタと意識を失って倒れていたのだ。

ドレイクは彼らには目もくれず、大聖堂の入ってすぐの開けた中央広間で足を止めた。

鈴音の身体も、彼の真横でガチリと強制停止させられる。

「――『開け(オープン)』」

ドレイクが床に向かってそう呟いた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

地響きと共に、大聖堂全体が激しく揺れ始めた。

『な、何ですかこれ!? 地震!?』

(……鈴音。今まで短い付き合いだったけど、楽しかったよ。お前の分まで俺はシステムとして生き抜くからな……)

『ちょっと!! 何をこの期に及んで綺麗に諦めてるんですか! ふざけてる場合じゃないですよ!!』

そんな緊迫感ゼロの脳内漫才を繰り広げている間にも、ドレイクと鈴音が立っている場所の、半径2メートルほどの円状の床が、エレベーターのように凄まじい勢いで下方へと沈み込んでいく。

深く、暗い地下へ。

およそ20メートルほど垂直に降下したところで、ゴオン!と重い音を立てて足場が停止した。

ドレイクが円柱状になった地下の壁に手を当てる。

「――『開け(オープン)』」

ゴゴゴゴゴ……!

壁の一部がスライドし、見たこともない巨大な隠し扉が出現した。

(な、なんだこれ……。大聖堂の地下に、こんな隠し通路みたいな遺跡があったのかよ……)

「不思議ですか? ここはかつて、最初の聖女がこの世界へ降ろされた始まりの場所。……まあ、今となっては歴史の闇に埋もれた、ただの遺跡のようなものですがね」

ドレイクはそう言いながら、出現した扉をゆっくりと押し開いた。

扉の向こうには、気の遠くなるほど広大な地下空間が広がっていた。


その場所は、人工的に作られた大聖堂の上部とは異なり、天然の洞窟のようなゴツゴツとした岩肌が剥き出しになった空間だった。

だが、何より異様だったのは、その周囲の壁一面に、年月を経て所々薄れてはいるものの、大量の【不気味な絵】がびっしりと描かれていることだった。

(……おい、鈴音。あの壁画、見ろよ。なんだか、見覚えがあるなんてレベルじゃねえぞ……)

絵の中央に描かれていたのは、大陸の形まで克明に模写された、美しい青い輝きを放つ球体――。

そしてその球体の側には、背中に天使のような白い羽を生やした、一人の人物が描かれている。

しかし、その美しき球体の下部には、地獄の業火に包まれて激しく燃え盛る街並みと、絶望して逃げ惑う大量の人々の姿が、おぞましいタッチで生々しく描写されていた。

『何ですか、この気持ち悪い絵……。でも、あの青い星、なんか……私たちのいた『地球』に、ものすごく似てませんか……?』

(ああ、似てるどころじゃねえ。日本列島の形までハッキリ描かれてやがる。間違いなく地球だ……)

ゴツゴツとした空間に、ドレイクの歓喜に震える声が響く。

「ここに描かれているものこそ、我が教団が崇める『初代聖女』の姿でございます。そして、あの絵に描かれた美しき星こそが、我ら選ばれし者が行き着くべき約束の地、エデン……。――またの名を『碧い星(地球)』と呼びます」

ドレイクは狂信的な目で壁画を見上げ、恍惚の表情を浮かべる。

「女神とは、あのエデンに住まう至高の存在であり、聖女とは、そこから直接大いなる力を授かった人間に他なりません。教団の極秘の言い伝えによると……初代聖女様は、この世界の住人にはない『黒い髪』と『黒い目』を持っていたとされています。顔立ちは、遥か東の果ての街の者に酷似していた、と」

ドレイクはゆっくりと首を回し、身動きの取れない鈴音の黒髪と黒い瞳を、じっと舐めるように見つめた。

「そして、初代聖女様の本名は……『ショウコ』と言ったらしいのですよ。……黒い髪、黒い瞳、その顔立ち、そして名前の響き。……ねえ、鈴音さん。あなたに、あまりにも酷似していると思いませんか?」

『これって……、つまり……』

(ああ……。間違いない。何百年か前の初代聖女『ショウコ』って奴は、お前と同じように日本からこの異世界に転生してきた、ただの『日本人』だ……!)

(そして、その事実を完全に把握しているこの狂信者のジジイに、お前が『同郷の転生者』だってことが完全にバレちまった。……クソ、これはマジで笑えないレベルでヤバすぎるぞ……!)

『詠太さん……!! 私たち、これから一体どうなっちゃうんですか――!?』

自由を奪われた鈴音の脳裏に、かつてないほどの恐怖と絶望が過る。

ドレイクの真の目的、そして壁画に描かれた「燃え盛る地球」の意味とは一体何なのか!?

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