私たちやっぱりチートでした?
「ちょ、ちょっと! 鈴音! どうしたんだ!」
俺が焦って声をかけると、鈴音はハッ!と我に返った。
「詠太さん! 私……いや、私たち、最強かもしれません!」
「……お、おう。というか周り見えてる? 火がやばいけど……?」
嬉しそうに胸を張る鈴音に周囲を促すと、彼女は一瞬で青ざめた。
「……え? うわっ! 熱っ! え? やばい! ちょっと詠太さん魔法! 魔法!」
「え? いや、いま鈴音が勝手に使ってたじゃん! むしろどうやったの!?」
「いや、あの、いきなり詠太さん(ステータス画面)のログに使える魔法一覧がずらっと出てきて……。あれ? ない! なくなってる!」
「ちょ! え!? 消えてるの!? どうしよう! ふっ! ……出た?」
焦る俺を余所に、鈴音は熱さでぴょんぴょんと踊るように跳ね回る。
「いやいやいやいや! 出てないです! 熱っ! やばい! 火がもうそばまで!」
「なんで!? なんで『魔法』が使えなくなったんだ!」
「そんなのわかりませんよ! もしかして私が使った魔法って、一回でMP全消費みたいな燃費の悪いやつだったのか……も……?」
いきなり何かに気づいたように、鈴音の動きが止まった。
「ん? どうした? おーい」
「出ました……」
ぽつりと、鈴音が呟く。
「え? 出た? なにが?」
「魔法です! 魔法一覧がさっきみたいに表示されてます! ええと、水、水の魔法は……!」
鈴音は荒々しく俺の視界を指でなぞり始めた。
「うお! これ気持ち悪いな!」
「そんなこと言ってないで、詠太さんも何かピックアップするとかしてくださいよ!」
「んっ! んん。え、えと、水の……!」
「あっ! うぉー……たー……? 水の魔法っぽいやつの一覧になりました!」
「本当か!? よし! この一面の火が消えそうなやつを! 急いで!」
「わかってますよ! えーと、ああもう! こういうのは一番下が一番強い!」
鈴音はぐあっと一気に指を滑らせた。
「あっ、あった! えと、ハイドロレイン!」
バッチャーン!!!
その瞬間、俺の視界にいた鈴音の頭上から、凄まじい水圧の水が落ちてきた。それと同時に、周囲の森にも巨大な雨が降り注ぐ。
一瞬にして辺り一面の火が鎮火されていく中、直撃を食らった鈴音は白目を剥き、泡を吹いてぶっ倒れていた。
「鈴音っ!」
俺が叫んだその時――突如、俺の視界にジジジとノイズのような横線が入り始める。
「鈴音! 鈴音! なんかやばい! 視界が!」
ブクブクブク……と泡を吹いたまま、鈴音は微動だにしない。
――ジジジ……プチュン。
嫌な音と共に、俺の視界は真っ暗になった。
「あ、あ、あれ? 何も見えない。鈴音ー!? 聞いてるのか!?」
叫べど叫べど、返事はない。
何分経っただろうか。俺は鈴音の名前を呼ぶのをやめ、真っ暗な視界の中で一人、思考を巡らせていた。
鈴音が倒れてから、急に視界が暗くなった。つまり、鈴音と俺は一心同体も等しいってことか……。
あれ? てことは、鈴音が起き上がらないと俺は一生このまま!?
やばい! せっかく異世界転生したのに(ステータス画面だけど)、このままじゃ、俺の素晴らしいなろうライフが……。
そんな絶望に囚われかけた、その時だった。
「……ステータスオープン!」
懐かしい鈴音の声が響き渡る。
パッと視界が明るくなった。
目の前には、全身びしょびしょで泣きそうな鈴音が体育座りをしていた。
「ご、ごめんなさい! まさか私にも魔法が直撃するとは……」
開口一番に謝ってくる鈴音に、俺は心底安堵した。
「鈴音! 無事だったのか! ……いや、生きてたんだから問題ない! よかった!」
「はい。よかったです……。詠太さんは無事だったんですか?」
「無事……というか、鈴音が倒れた瞬間に俺の視界が真っ暗になった。意識はあったけどな」
「やっぱり、私がステータスを開けない間は、詠太さんも何も見えなくなるみたいですね」
「だろうな。とりあえず生きててよかったよ」
「そりゃあ、新しい人生こんなとこで死ねません! ここがハードモード系の異世界じゃなければ、ですけど」
「ははは、そうだな。よし、まずは服を乾かそうか」
その言葉にハッとして、鈴音は自分の服を見下ろした。
大量の水を被ってびしょびしょになった服は、下着のラインをうっすらと透けさせている。
バッと両手で胸を隠し、鈴音は顔を真っ赤にして睨んできた。
「みっ! 見ましたか!?」
「あ、いや、大丈夫……(ピンクかあ)」
「よかった……。それで、乾かすってどうやってですか?」
「それはもちろん『魔法』で!」
「あー!」
鈴音が俺(の画面)をビシッと指差す。
「出た? やっぱり出た?」
「はい! 魔法一覧のログが出ました!」
「やっぱりな! さっき視界が暗くなった時、いろいろ考えてたんだ。たぶん、俺が発した『言葉』に反応して、その一覧とやらが出てるのかもって」
「さ、さすがです! じゃあさっそく……」
鈴音が画面に向かって手を伸ばしてくる。
「あっ、んんっ……」
「ちょっとー、変な声出さないでくれます?」
「あ、ごめんごめん。触られると変な感覚がな……。それで、風魔法とかあった?」
俺がそう言った直後、鈴音の顔が「ん?」と不思議そうに歪んだ。
「……詠太さん、一回『火魔法』とか言ってもらっていいですか?」
「え? ひ、火魔法……?」
「あー! やっぱり! さっきの水魔法もそうでしたけど、詠太さんが口にした属性の魔法がピックアップされてます!」
「ええ? じゃあさっき焦って言った水魔法も、俺の言葉に反応してたんだな!」
「はい! あ、また水魔法が出てきました!」
「よし! じゃあ風魔法!」
「おお! 風魔法〜。結構種類が多いですね」
「気をつけてくれよ? さっきみたいにやばい広範囲魔法だと、最悪死ぬかもしれないからな」
「わかってますよ〜、……でもどれがいいんだろ」
「うーん、『服を乾かす魔法』ってなんだろうな」
俺が何気なく呟くと、鈴音は「ん? あっ!」と声を上げた。
「え? 今度はなんだ?」
「出ました! たぶん、詠太さんが言った『服を乾かす魔法』という用途に反応したみたいです!」
「おおー! じゃあ早速それだ!」
「はい! えーと、フレッシュウィンド!」
鈴音が呪文を唱えると、彼女の体の周りをまとわりつくように、小さな竜巻のような微風が巻き起こった。
「うわっ! 大丈夫か!」
「あ、大丈夫でーす! ほら!」
やがて風が収まり、鈴音が服を見せてくる。さっきまでびしょびしょだった布地は、すっかりカラリと乾いていた。
「すげえ!」
「ふふーん! 詠太さんのおかげです! ありがとう!」
「いやいや、お互い様だよ。よかった。じゃあ今度こそ……」
「……はい! お約束の最初の村か、ゴブリンの巣ですね!」
こうして、異世界転生のお約束イベントを発生させるため、一人と一枚(?)の奇妙な旅が始まった。




