帰郷294
『ドドチュ!!!!』
腹を突かれたミノタウロスは苦悶の表情を浮かべるが、それでも素早い二連撃の突きを仕掛けると、袋が破けるように腹に穴が空いて、血と一緒に臓器が溢れ出る。
『ブゥ……ブゥモォ……』
「…………」
か細く泣くミノタウロス……鳴くではなく「泣く」ミノタウロスは、自分の体が壊される苦しみに耐えられない。
核露は、泣いているミノタウロスを気の毒に思っていた。
どんな生き物だって苦痛を覚えれば、体を慰めるための動きをする。
物陰に隠れて体が癒えるのを待つ者もいれば、傷を舐めて痛みを堪える者もいる……人間ならば「手当て」という言葉があるように、傷を手で押さえて苦しみに耐える物だが、ミノタウロスは……
『ブゥ……ブゥ……』
丸鋸の回転は止まってはいるが、傷を押さえるには不適切な形状、腹に空いた傷を押さえるために、止む無く腕でお腹を押さえている。
「…………」
もうそれは防御ではない……ミノタウロスも、それが分かっているから泣いている。
(可哀そうに……)
目の前の生物は戦う為に創られたばかりに、他の事は何も考えられていない。
丸鋸の手があろうと、キャタピラの足があろうと、傷を負った時に手当てが出来ないというのは、戦意を奪ってしまう。
『ガシッ!!!!』
『ブモ……!?』
戦う意思を無くしたミノタウロスの手首を掴んで、抵抗出来無いようにすると、核露は迷わずミノタウロスの首に噛み付く。
それは核露の最大限の介錯。
自然界で、捕らえた生物が暴れないようにする為の息の根を止める行為だが、それが結果として捕食で肉を喰らわれる苦しみから解放することになる。
喉を爪で突き刺して引き千切れば、それでも勝てるのだが、それでは息が絶え絶えで長く苦しむ。
『…………』
息が出来ない苦しみはあるが、それでも脳に回る酸素が遮断されれば意識を失う。
ミノタウロスが気を失って、胴体が前のめりになった瞬間、
『ブチブチブチブチブチ!!!!』
介錯の嚙みつきから、命を喰らう為の嚙みつきに変えて、喉を引き千切る。




