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溺愛彼女が浮気してたのでとりあえず真相詰めます  作者: les.


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7/10

嘘でもええから

大学を出てから、どこを歩いたのかあまり覚えていない。


気づけば川沿いにいた。


夕方の風が冷たかった。


ベンチに座って、ぼんやり水面を見る。スマホは何度も震えていた。でも見る気になれなかった。


見なくても分かる。


美月だ。


こんなときでも、俺はそれを期待してしまっている。


情けなかった。


しばらくして、諦めたみたいにスマホを取り出す。


通知は七件。


全部、美月だった。


――ごめん

――ちゃんと話したい

――今どこおるん

――電話出て

――お願い

――悠真

――ほんまに、ごめん


最後の一文を見た瞬間、胸の奥がまた痛くなる。


謝るくらいなら最初からするなよ。


そう思うのに、完全には嫌いになれない。


むしろ、好きだから苦しかった。


スマホを握ったまま、しばらく悩む。


それから、通話ボタンを押した。


数回のコール音。


すぐに繋がる。


『……もしもし』


声が震えていた。


泣いてるのが分かった。


それだけで、心が揺れる自分が嫌になる。


「何」


自分でも驚くくらい冷たい声だった。


向こうで少し息を呑む音がする。


『ごめん』


またそれだった。


謝罪ばっかりだ。


「だから何に対して」


『……』


「俺、なんか間違ってる?」


沈黙。


それが何より苦しい。


「違うなら違うって言えばいいだろ」


『悠真……』


「家に男いたよな」


『……』


「大学でも一緒だった」


返事はない。


聞こえるのは小さな呼吸音だけ。


その沈黙が、全部認めてるみたいだった。


「なんで」


声が掠れる。


「なんで急にこんなんなったんだよ」


本当は怒鳴りたかった。


責めたかった。


でも実際に出てきたのは、情けない声だった。


『……ごめんな』


「それしか言えないの?」


『……』


「俺のこともう好きじゃない?」


長い沈黙のあと、美月が小さく息を吐く。


その呼吸だけで、胸が締め付けられる。


『……分からへん』


また同じ答えだった。


川の音がやけにうるさい。


耳鳴りみたいに響く。


「分からへんって何だよ」


少しだけ声が荒くなる。


「好きか嫌いかくらい分かるだろ」


『……ごめん』


「謝んなって!」


気づけば叫んでいた。


通りかかった人がこっちを見る。


でももうどうでもよかった。


「俺、何した?」


『してへん』


「じゃあ何で」


『……』


「なあ、美月」


喉が痛かった。


「ちゃんと言ってくれよ」


頼むから。


そう言いそうになる。


でも言えなかった。


情けなさすぎて。


『悠真は悪くない』


「じゃあ誰が悪いんだよ」


その瞬間、電話の向こうで何か物音がした。


ドアの開く音。


男の声。


一瞬だった。


でも、はっきり聞こえた。


頭の中が真っ白になる。


「……今、一緒にいるのか」


美月が息を止める気配。


その反応だけで十分だった。


『違……』


「違わないだろ」


自分でも分かるくらい声が冷えていく。


「電話できないって、そいつといたから?」


『ちゃうねん』


「何が」


『話、聞いて』


「じゃあ説明してよ」


怒りより先に、苦しさが来る。


どうしてこんな簡単なことができないんだ。


違うなら違うって言えばいいだけなのに。


「俺、お前のこと信じたかったんだけど」


沈黙。


また沈黙。


そのたびに心が削れる。


『……嫌いになってくれてええから』


その言葉に、呼吸が止まった。


「は?」


『うちのこと、もう忘れて』


何を言われてるのか、一瞬理解できなかった。


「……何それ」


『もう無理やねん』


「何が」


『全部』


震える声だった。


泣いてるのも分かる。


なのに意味が分からない。


「意味分かんないんだけど」


『分からんままでええ』


「よくねえよ!」


また声が大きくなる。


周りなんてもう見えてなかった。


「ふざけんなよ……」


悔しかった。


悲しかった。


何より、置いていかれる感じがした。


昨日まで普通だったのに。


好きだって言ってくれてたのに。


急に終わるなんて、納得できるわけがなかった。


『悠真』


美月が、小さく名前を呼ぶ。


昔みたいな優しい声だった。


だから余計にきつかった。


『……幸せになってな』


その瞬間、頭の中で何かが切れた。


「勝手に終わらせんなよ」


声が震える。


怒りなのか涙なのか分からなかった。


「俺まだ何も聞いてない」


『……』


「逃げんなよ」


電話の向こうで、美月が泣いていた。


嗚咽を堪えるみたいな呼吸。


でも、俺はもう優しくできなかった。


「なあ」


最後に、できるだけ静かに聞く。


「そいつのこと、好きなの」


長い沈黙。


それから。


『……うん』


世界が止まったみたいだった。


川の音も、人の声も、全部遠くなる。


頭の中が真っ白になる。


嘘だ、と思った。


でも、美月は否定しない。


それが全部だった。


「……そっか」


声が、自分でもびっくりするくらい静かだった。


『悠真、ごめ』


通話を切った。


それ以上聞けなかった。


スマホを下ろして、俯く。


息がうまく吸えない。


胸が痛い。


苦しい。


視界が滲む。


でも泣きたくなかった。


泣いたら、本当に終わる気がした。


美月の最後の「うん」が、頭の中で何度も繰り返される。


好き。


あいつが、誰かに向けて言った言葉。


それだけで、全部崩れた。


……はずだった。


なのに。


それでもまだ、心のどこかで思っていた。


あの「うん」は、嘘なんじゃないかって。

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