4話 気にしないふり
読みやすさ向上に空白狭めました
その日から、考えないようにした。
見間違いかもしれないし、たまたま話していただけかもしれないし、何か事情があるのかもしれない。そうやって理由をいくつか並べて、そのどれかに当てはめて納得したふりをする。
でも、うまくいかなかった。
スマホを見る回数が増えた。通知が来ていないのに、画面を開く。意味もなくトーク画面を開いて、閉じる。そんなことを何度も繰り返してる自分に気づいて、余計に気分が悪くなる。
――今日はちょっと遅くなる
その日の夕方、美月から来た連絡はそれだけだった。
理由は書いてない。
前なら「バイト長引きそう」とか「課題終わらん」とか、何かしら一言添えていたのに。
――了解
短く返す。少しだけ間があって、既読がつく。でもそれ以上は来ない。
それだけのことなのに、やけに引っかかった。
夜、気づいたら駅の近くにいた。用事があったわけじゃない。ただ、なんとなく足が向いていた。
自分でも分かってた。何をしようとしてるのか。
「やめとけよ」
小さく呟いたけど、足は止まらなかった。
改札の近く、人が多い場所を避けて、少し離れた柱の陰に立つ。意味もなくスマホをいじるふりをしながら、周りを気にしている自分が、ひどく情けなかった。
しばらくして、人混みの向こうに見慣れた髪が見えた。
美月だった。
すぐに分かった。後ろ姿だけで分かるくらいには、見てきたから。
隣には、やっぱり男がいた。
同じやつかどうかは分からない。でも、距離の取り方が昨日と似ていた。近すぎないのに、遠くもない、あの距離。
二人で何か話して、美月が少しだけ肩を揺らして笑う。その仕草が、やけにゆっくり見えた。
声は聞こえないのに、頭の中で再生される。
「ほんま、あほやなあ」
そう言って笑う声。
俺に向けてたものと、同じだった。
男が何か言って、美月が少しだけ俯く。次の瞬間、軽く腕を叩いた。いつもの癖だった。照れたときの、あの動き。
知ってる仕草だった。
全部、知ってるはずだった。
なのに今は、全部が遠く見えた。
そのまま二人は改札を抜けていく。追いかけようとして、足が動かなかった。
追いかけて、どうするんだ。
何を言うつもりなんだ。
そんなこと、分かってるはずなのに。
結局、その場から動けないまま、背中が見えなくなるのを見送った。
しばらくしてから、ようやく息を吐いた。いつの間にか、呼吸が浅くなっていた。
ポケットの中でスマホが震える。
取り出して見ると、美月からだった。
――今日はもう帰るね
画面を見つめたまま、少し笑ってしまった。
さっきまで一緒にいたのに。
何もなかったみたいに。
――うん、お疲れ
それだけ返す。すぐに既読がつく。
少しして、もう一通。
――悠真もちゃんと帰ってな
指が止まる。
いつもと同じ言葉だった。
何も変わっていないはずの言葉。
なのに、どうしてか遠かった。
――帰るよ
送って、画面を閉じる。
駅の外に出ると、夜の空気が少し冷たかった。
歩きながら思う。
見なければよかった。
知らなければよかった。
そうすれば、まだ“いつも通り”でいられたのに。
でも、もう無理だった。
一度見てしまったものは、なかったことにはできない。
それでも。
それでもまだどこかで、思っていた。
勘違いであってほしい、って。
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