5話 違和感②
それから、しばらく美月とは会っていない。
会おうと思えば会えたはずだった。連絡すればいいだけだ。でも、しなかった。
いや、できなかった。
会ってしまったら、全部はっきりしてしまう気がした。
曖昧なままなら、まだ言い訳ができる。
見間違いかもしれない。偶然かもしれない。ただの知り合いかもしれない。
そうやって、自分を守れる。
でも会えば、逃げ場がなくなる。
だから、連絡は短くなっていった。
――おはよう
――おはよ
――今日寒いな
――せやね
それだけのやり取り。
前は、もっと続いていた。
どうでもいい話を無理やり伸ばして、それでも楽しかったのに。
今は、続かない。
続けようとしても、どこかで止まる。
その違和感を、美月も感じているはずなのに、何も言ってこなかった。
それが逆に怖かった。
ある日の夜。
講義が終わって、家に帰る途中だった。
ふと、足が止まる。
美月の家に続く道だった。
何度も通った道。迷うことなんてない。
少し歩けば、あいつの家がある。
「……行くか」
小さく呟く。
理由なんてなかった。
ただ、確かめたかった。
何を、とは言えないけど。
そのまま歩き出す。
街灯の少ない道は、夜になるとやけに静かだった。
足音だけが響く。
心臓の音が、少しうるさい。
家の前まで来て、立ち止まる。
電気はついていた。
カーテンの隙間から、明かりが漏れている。
当たり前の光景だった。
何もおかしくない。
何も——
そのとき、笑い声が聞こえた。
一瞬、耳を疑った。
でも確かに聞こえた。
美月の声だった。
間違えるはずがない。
何度も聞いてきた声だった。
そのあと、もう一つ声が重なる。
男の声だった。
身体が固まる。
頭の中が、一瞬だけ真っ白になる。
何も考えられなくなる。
でも、耳だけが妙に鮮明だった。
ドアの向こうで、誰かが笑っている。
その中心に、美月がいる。
俺じゃない誰かと。
しばらく、その場から動けなかった。
時間の感覚もよく分からなかった。
ただ、そこに立っていた。
やがて笑い声が途切れる。
足音がして、何かが動く気配がする。
反射的に、身体が後ろに下がった。
見つかりたくない、と思った。
理由は分からない。
でも、そう思った。
数歩だけ下がって、暗がりに身を寄せる。
ドアは開かなかった。
中の気配も、少しずつ静かになる。
それでも、もう十分だった。
確かめるまでもなかった。
全部、揃っていた。
その場を離れる。
足取りは軽くも重くもなかった。
ただ、感覚が薄かった。
ポケットの中でスマホが震える。
取り出す。
美月からだった。
――今日ちょっと早めに寝るわ
画面を見て、少しだけ息が漏れる。
笑ったのかもしれない。
自分でもよく分からなかった。
――そっか、おやすみ
送る。
すぐに既読がつく。
そして返信が来る。
――おやすみ、悠真
その一文だけが、やけに綺麗だった。
何も知らなければ、いつも通りだった。
何も知らなければ。
スマホを閉じて、空を見上げる。
星は出ていなかった。
ただ暗いだけの空だった。
そのとき、やっと思った。
ああ、
もう無理だな、って。
評価とか、、、、感想とか、、、、ほしいなー




