第99話 文化祭 ― 後編 ―
文化祭後編。
アニメ同好会の展示と上映会を楽しんだルミエールたちは、最後のプログラムが行われる体育館へ向かいます。
コンピューター占いの教室を出たルミエールたちは、アニメ同好会の展示コーナーへ向かった。
教室の前には、部員たちが描いたキャラクターが並ぶ、大きな看板が飾られている。
三人が中へ入ると、壁いっぱいにイラストや設定画が展示されていた。
ノアールが描いた、可愛らしい黒猫の絵。
ルミエールの描いた絵。
ソレイユの描いた、明るく華やかな絵。
そのほかにも、部員たちが文化祭のために仕上げた作品が並んでいる。
「こんなにたくさん完成したんだね」
ルミエールが、教室の中を見渡した。
「みんな、頑張ってたからね」
ソレイユも嬉しそうに作品を眺める。
教室の奥には、短編アニメを上映するためのスペースが作られていた。
窓には暗幕がかけられ、前方には大きなスクリーンが置かれている。
ちょうど上映が始まるところだったため、三人は並んで席に座った。
最初に流れたのは、桐谷くんが作ったロボットアニメだった。
ロボットの細かな動きや変形、戦闘場面まで丁寧に作り込まれている。
続いて、悠斗が作ったヒーローアニメ。
悪者から人々を守るヒーローが、派手な必殺技を放つたびに、見ていた子どもたちから歓声が上がった。
ソレイユが作ったのは、恋愛アニメ。
出会った二人が少しずつ距離を縮めていく、明るく可愛らしい物語だった。
「ソレイユらしいね」
ノアールが小さな声で言う。
「そう?」
ソレイユは少し照れながら、スクリーンを見つめていた。
ルミエールが作ったのは、宇宙や未来を舞台にしたSFアニメだった。
星々の間を進む宇宙船と、遠い場所を目指す主人公の姿が映し出される。
そして、ノアールの作品が始まった。
画面の端から、可愛らしい黒猫が歩いてくる。
黒猫は尻尾を揺らしながら蝶を追いかけ、途中で転びそうになりながらも、最後にはこちらを向いて座った。
教室のあちこちから声が上がる。
「かわいい!」
「黒猫の動きがいいね」
ノアールは少し恥ずかしそうに画面を見ていた。
「時間があまりなかったから、簡単なものしか作れなかったけど……」
「でも、すごく可愛かったよ」
ルミエールが言う。
ソレイユも大きく頷いた。
「短くても、ノアールらしい作品だったよ」
そのあとも、ほかの部員たちが作ったアニメが順番に上映された。
上映が終わると、教室の中に拍手が響いた。
三人は席を立ち、もう一度、壁に飾られた作品を見て回った。
たくさんの作品を眺めながら、ノアールが少し申し訳なさそうに言った。
「私のために作ってもらった部活なのに、結局あまり来られなかったね」
ドラマの撮影。
ライブの準備。
そして、Cat Starとしての芸能活動。
ノアールは忙しくなり、思うように部活へ参加できない日が増えていた。
「そんなことないよ」
ルミエールがすぐに答えた。
「ノアールがいたから、この部活が始まったんだよ」
ソレイユも頷く。
「それに、今はみんな楽しそうに活動してるじゃない」
「ノアールが毎回来られなくても、ちゃんと意味はあったよ」
ノアールは、壁いっぱいに並んだ作品を見つめた。
自分のために生まれた場所が、いつの間にか、たくさんの人の居場所になっていた。
そのとき、教室のドアが開いた。
コンピューター占いの担当を終えた桐谷くんと悠斗が、アニメ同好会へ戻ってきた。
「俺たちのアニメ、もう見てくれた?」
悠斗が尋ねる。
「うん。すごかった」
ノアールが答えた。
「桐谷くんのロボット、本当に細かく動いていたね」
ルミエールが言う。
「悠斗のヒーローも、戦う場面がかっこよかった」
ソレイユも続けた。
桐谷くんと悠斗は、少し得意そうに笑った。
「でしょ?」
「三人が来られない日も、地道に作ってたからな」
「文化祭までには絶対に完成させたかったんだ」
ルミエールは、二人を見てやわらかく笑った。
「桐谷くん、悠斗くん。ありがとう」
「私たちがいない間も、部活を引っ張っていってくれて」
二人は少し照れたように顔を見合わせた。
「俺たちも作るのが楽しかったし」
「今は、ほかの部員たちもいるからね」
そのとき、上映を担当していた部員が声を上げた。
「間もなく、三回目の上映を始めます!」
教室にいた来場者たちが、再びスクリーンの前へ集まり始める。
「せっかくだから、もう一回見ようよ」
ソレイユが言った。
「うん」
三人は桐谷くんと悠斗と一緒に、並んで席へ座った。
三回目の上映が終わった頃。
ルミエールが時計を確認した。
「そろそろ行かないと」
「次は、私たちの番だね」
ソレイユが立ち上がる。
文化祭最後のプログラム。
体育館で行われる、LUMISORAのライブが始まろうとしていた。
体育館は、大勢の観客で満員になっていた。
高等部の生徒だけではない。
初等部や中等部の生徒、保護者や先生たちも、ステージが始まるのを待っている。
ステージの後方には、いつもの三体の猫型ロボットが並んでいた。
黒い猫型ロボットはドラム。
ピンクの猫型ロボットはベース。
白い猫型ロボットはDJを担当する。
照明が落ちると、体育館いっぱいに歓声が響いた。
「LUMISORA!」
「ノアール!」
「ルミエール!」
「ソレイユ!」
ライトがつき、三人がステージへ姿を現した。
ルミエールはマイクを持つと、満員の客席を見渡した。
「私とソレイユは、昨年この学校へ転校してきました」
「そしてノアールと友達になり、三人でLUMISORAというアイドルグループを作りました」
ルミエールは、隣に立つノアールとソレイユを見る。
「私たちの原点は、この学校です」
「ノアールと私は三年生なので、これが最後の文化祭になります」
「思い出に残るステージにしたいので、みなさん、聴いてください」
客席から、大きな拍手が上がった。
「それでは最初の曲です」
「『銀河の片隅で、秘密の恋を』」
ドラムの音が響き、ベースが重なる。
DJのロボットが音をつなぎ、体育館に未来的な音が広がった。
三人の歌声が重なり、体育館いっぱいに響いていく。
一曲目が終わると、大きな拍手と歓声が上がった。
次にマイクを持ったのは、ソレイユだった。
「今から歌う曲は、歌って踊れる曲です!」
ソレイユは、客席へ向かって明るく呼びかける。
「体育館は満員なので、一緒に踊るのは難しいかもしれませんが、リズムに乗って手拍子をしたり、ペンライトを振ったりして楽しんでください!」
「それでは聴いてください!」
「『Moon & Sun Night Party』!」
軽快なリズムが流れ始めた。
ソレイユが中心となり、三人は息の合ったダンスを披露する。
客席から手拍子が起こり、色とりどりのペンライトが揺れた。
初等部や中等部の子どもたちも、座席から楽しそうに手を振っている。
曲が進むにつれて、体育館全体がひとつのダンスフロアのように盛り上がっていった。
二曲目が終わると、体育館いっぱいに歓声が響いた。
最後にマイクを持ったのは、ノアールだった。
ノアールは少し緊張した表情で、客席を見渡した。
「私はずっと体調が悪くて、学校を休みがちでした」
体育館が静かになる。
「そんな私を支えてくれたのは、ルミエールとソレイユ」
「そして、ネコノミヤ学院のみんなと先生方です」
ノアールは、ゆっくりと息を吸った。
「あと数か月で、私はこの高等部を卒業します」
「これが高校生活最後の文化祭ですが、みんなと一緒に、たくさんの思い出を作ることができて、本当によかったです」
客席のあちこちから、温かい拍手が上がった。
「最後の曲です」
「いつか、それぞれ違う道へ進んでも、ここで出会えたことを忘れないように歌います」
「聴いてください」
「『それぞれの空へ』」
静かな音から、曲が始まった。
三人は顔を見合わせる。
そして、一緒に過ごしてきた時間を確かめるように歌った。
この学校で出会ったこと。
一緒に笑い、悩み、少しずつ成長してきたこと。
いつか別々の道へ進んでも、ここで生まれた絆は消えないこと。
三人の歌声が重なり、体育館の奥まで届いていく。
最後の音が静かに消えた。
一瞬の静寂のあと、体育館いっぱいに大きな拍手が響いた。
「アンコール!」
誰かが声を上げた。
その声はすぐに広がっていく。
「アンコール!」
「アンコール!」
体育館全体が、ひとつの声になった。
ノアールとルミエール、ソレイユは、驚いたように顔を見合わせる。
そして三人は、嬉しそうに笑った。
ルミエールが、もう一度マイクを持った。
「アンコール、ありがとうございます!」
客席から歓声が上がる。
「ノアールと私は三年生なので、これが最後の文化祭です」
「だから最後は、これからもこの学校に残る後輩のソレイユへ、バトンタッチしたいと思います」
ルミエールが、隣に立つソレイユを見る。
ソレイユは少し驚いたあと、嬉しそうにマイクを握った。
「みんな、最後まで一緒に盛り上がってね!」
「それでは、アンコール曲です」
「みんなで歌いましょう!」
「『太陽色のステージ』!」
明るい音楽が流れ始めた。
ソレイユがステージの中央に立つ。
その両側で、ノアールとルミエールも笑顔で歌った。
観客たちも手拍子をしながら、三人と一緒に声を重ねていく。
体育館いっぱいに、明るい歌声と歓声が響いていた。
昨年。
この体育館で、ノアールはひとりだった。
孤独の中で体調を崩し、倒れてしまった。
けれど今は、同じ体育館のステージに立ち、ルミエールとソレイユと一緒に歌っている。
未来は変わった。
ノアールは、もうひとりではない。
学校にも、部活にも、ステージにも。
ノアールの居場所がある。
ルミエールは、隣で歌うノアールの笑顔を見つめた。
ここまで来ることができた。
ノアールの未来は、確かに変わった。
そして――。
ノアールが高等部を卒業する日が近づいているように。
私も、もうすぐこの世界を卒業する時が来るのかもしれない。
体育館に響く拍手を聞きながら、ルミエールは静かにそう思った。
文化祭最後のプログラムは、LUMISORAのライブでした。
昨年、孤独の中で倒れたノアールは、今では同じ体育館のステージで仲間たちと歌っています。
変わった未来を見つめながら、ルミエールもまた、自分が未来へ帰る時を意識し始めました。




