第98話 文化祭 ― 前編 ―
ネコノミヤ学院高校の文化祭。
猫耳メイド喫茶や縁日を楽しんだルミエールたちは、桐谷くんが作ったコンピューター占いへ向かいます。
ネコノミヤ学院高校の文化祭の日。
校内には色とりどりの飾りが並び、朝から生徒たちの楽しそうな声が響いていた。
教室の前には、それぞれのクラスが作った看板が掲げられている。
ノアールとルミエールのクラスの出し物は、
『猫耳メイド喫茶』
教室の中にはテーブルが並べられ、壁には猫の足跡やリボンの飾りがつけられていた。
人間の姿をした生徒たちは、猫耳のカチューシャをつけている。
黒や青、紫、赤、ピンク。
色とりどりの可愛らしいメイド服を着て、サンドイッチや飲み物を運んでいた。
もともと猫耳のあるノアールとルミエールは、そのままの姿でメイド服を着ている。
ノアールは、黒と紫を基調にしたメイド服。
ルミエールは、青と白を基調にしたメイド服だった。
二人は、朝一番の一時間を担当していた。
「ノアール、三番テーブルにアイスティーをお願い!」
「分かった」
ノアールはトレーにグラスを乗せ、客の待つテーブルへ向かった。
「お待たせしました。アイスティーです」
「ありがとうございます」
席にいた女子生徒が、ノアールを見上げる。
「ノアールさん、復活ライブを見ました!」
「私も見ました。すごくかっこよかったです」
「一緒に写真を撮ってもいいですか?」
ノアールは少し驚いたあと、教室の中を見回した。
「今は仕事中だから……一枚だけなら」
「やった!」
女子生徒たちは、嬉しそうにスマートフォンを取り出した。
「サインもお願いしていいですか?」
「サインまで?」
ノアールは困ったように笑った。
「あとで時間があったらね」
「待っています!」
ノアールは照れながらも、小さく頷いた。
その近くでは、ルミエールがサンドイッチと紅茶を運んでいた。
「お待たせしました。ミックスサンドと紅茶です」
「ありがとうございます」
席にいた女子生徒が、ルミエールを見上げる。
「ルミエールさん、一緒に写真を撮ってもいいですか?」
「私も、サインしてもらえますか?」
「ドラマ、見ました。ブランシュさんの妹役、素敵でした」
ルミエールは少し驚いたあと、やわらかく笑った。
「ありがとう。写真もサインも大丈夫だよ」
「やった!」
女子生徒たちは、嬉しそうにスマートフォンとノートを取り出した。
ルミエールは仕事の合間に、写真とサインに応じていった。
その後も、猫耳メイド喫茶には次々と客が訪れた。
サンドイッチや飲み物を運ぶ合間に、ノアールとルミエールは写真やサインにも応じていく。
「ノアール、人気だね」
飲み物を準備しながら、ルミエールが言った。
「ルミエールもでしょ」
ノアールは、差し出されたノートへサインを書きながら答える。
「二人とも、そろそろ仕事に戻って!」
クラスメイトに呼ばれ、二人は顔を見合わせて笑った。
やがて、朝のシフトを終える時間になった。
ノアールとルミエールは、次の担当の生徒へ注文表を渡した。
「終わったね」
ルミエールが言う。
「うん。思ったより忙しかった」
ノアールは小さく息をついた。
「次は、ソレイユのクラスに行ってみようか」
「そうだね」
二人がソレイユの教室へ向かうと、そこでは輪投げや的当てが行われていた。
教室の壁には色とりどりの飾りがつけられ、景品のお菓子や小さなぬいぐるみ、キーホルダーが並んでいる。
「いらっしゃい!」
ソレイユは輪投げの台の前で、元気よく客を呼び込んでいた。
ノアールとルミエールに気づくと、大きく手を振る。
「二人とも、来てくれたんだ!」
「うん。私たちのシフトが終わったから」
ルミエールが答える。
「二人もやっていってよ。輪投げと的当て、どっちがいい?」
「じゃあ、輪投げ」
ノアールが答えた。
ソレイユから輪を三つ受け取り、ノアールが投げる。
一つ目は、棒の少し手前へ落ちた。
二つ目も、横へ外れる。
「難しい……」
「ノアール、もう少し右!」
ソレイユが応援する。
三つ目の輪は、きれいに棒へ入った。
「入った!」
ソレイユが嬉しそうに手を叩く。
ノアールは、景品の黒猫のキーホルダーを受け取った。
「かわいい」
「ノアールにぴったりでしょ」
ソレイユが笑う。
ルミエールは、的当てに挑戦した。
ボールを投げると、中央に近い的へ当たった。
「ルミエール、上手!」
「思ったより難しいね」
ルミエールは、小さな星のキーホルダーを受け取った。
そのとき、初等部の制服を着た女の子が、ソレイユを見て足を止めた。
隣には、中等部の生徒らしい姉がいる。
「あっ」
女の子がソレイユを指さした。
「お姉ちゃん、この人、雑誌に出ていた人だよ!」
姉もソレイユを見て、驚いた顔をする。
「本当だ。ファッション雑誌に出ていたソレイユさんですよね?」
「ギャル雑誌で見ました!」
近くにいた別の女の子たちも集まってきた。
「髪型、かわいかったです!」
「一緒に写真を撮ってもいいですか?」
ソレイユは嬉しそうに笑った。
「見てくれたの? ありがとう!」
ソレイユは女の子たちと一緒に写真を撮り、そのあと輪投げの輪を渡した。
「せっかくだから、輪投げもやっていってね」
「うん!」
初等部の女の子は、嬉しそうに輪を投げた。
けれど、一つ目は棒の手前へ落ちてしまう。
「入らなかった……」
「まだあと二回あるよ!」
ソレイユが明るく声をかける。
「次はきっと入るから、もう少し強く投げてみて」
女の子がもう一度輪を投げると、今度は棒へ入った。
「入った!」
「やったね!」
ソレイユは女の子と一緒に喜んだ。
その様子を見ながら、ルミエールが笑う。
「ソレイユも人気だね」
「そうかな?」
ソレイユは少し照れたように答えた。
やがて、ソレイユは教室の時計を見た。
「私、あともう少しでシフトが終わるから、ちょっと待ってて」
「分かった」
「それまで、もう一回遊んでいようかな」
ノアールとルミエールは、輪投げや的当ての様子を見ながら、ソレイユを待つことにした。
少しすると、交代の生徒がやってきた。
「ソレイユ、代わるよ」
「ありがとう!」
ソレイユは輪投げの輪と景品の箱を引き継ぎ、ノアールたちのもとへ戻ってきた。
「お待たせ!」
「シフト、お疲れさま」
ルミエールが言う。
「次はどこへ行く?」
ノアールが文化祭の案内を開いた。
ソレイユは案内をのぞき込みながら答える。
「悠斗と桐谷くんのクラスは?」
「コンピューター占いだよね」
「うん。三人で占ってもらおうよ」
三人は並んで教室を出ると、悠斗と桐谷くんのクラスへ向かった。
教室の前には、
『コンピューター占い』
と書かれた看板が立っていた。
桐谷くんが自分で作ったプログラムを使い、生年月日や簡単な質問から、今日の運勢や相性を占う出し物だった。
三人が教室へ入ると、受付の周りには女子生徒たちが集まっていた。
その中心にいたのは、悠斗だった。
「ねえ、私と悠斗くんの相性を占って!」
「私も!」
「何パーセントになるか見てみたい!」
悠斗は困ったように笑った。
「なんで、みんな俺との相性なんだよ」
そこへ、別の女子生徒が食べ物の入った容器を差し出す。
「ねえ、悠斗。焼きそば買ってきたよ。休憩のときに食べて」
「え、俺に?」
「うん」
さらに別の女子生徒が、冷たいジュースを差し出した。
「私はジュース。喉、渇いてるでしょ?」
「ありがとう。でも、こんなにもらっていいのかな……」
悠斗の机の上には、焼きそばや飲み物が次々と並べられていった。
少し離れた場所でその様子を見ていたソレイユは、ちょっとやきもちを焼いていた。
「……何よ、あれ」
「悠斗、人気だね」
ルミエールが言う。
「別に。あれくらい普通じゃない?」
ソレイユはそう答えたものの、どこか面白くなさそうだった。
焼きそばくらい、自分で買えるでしょ。
ジュースだって、自分で買えばいいのに。
ソレイユは、女子生徒たちに囲まれている悠斗をじっと見つめた。
「三人も占ってみる?」
パソコンの前に座っていた桐谷くんが声をかけた。
「うん。やってみたい」
ルミエールたちは、受付用紙を受け取った。
名前。
生年月日。
いくつかの簡単な質問。
ルミエールは用紙へ書き込んでいく。
けれど、生年月日の欄に、無意識に未来での本当の生年月日を書いてしまった。
用紙を渡したあとで、それに気づく。
「あ……」
しかし桐谷くんは、次々と来る客への対応に追われていた。
用紙に書かれた数字を細かく確認することなく、そのままパソコンへ入力していく。
未来の年が書かれていることにも気づかなかった。
「ルミエールの結果が出たよ」
画面に文字が表示される。
『大切な人たちを信じて、新しい道へ進む時が近づいています』
ルミエールは、その言葉を静かに見つめた。
「新しい道……」
「進学のことじゃない?」
ノアールが言う。
「そうかもしれないね」
ルミエールは笑った。
けれど胸の中には、別のことが浮かんでいた。
続いて、ノアールの結果が画面へ表示される。
『半年後、離れていた大切な人との距離が近づくかもしれません』
『止まっていた恋が実る可能性があります』
「恋が実る?」
ソレイユが画面をのぞき込む。
ノアールは驚いたように目を見開いた。
「誰のことだろうね」
ルミエールが尋ねると、ノアールは少しだけ視線をそらした。
「知らない」
そう答えながらも、その頬はわずかに赤くなっていた。
二人が占いの結果について話している間に、ソレイユはそっと桐谷くんのそばへ近づいた。
「ねえ、桐谷くん」
「何?」
ソレイユは周りを確認してから、小さな声で頼んだ。
「あとで、私と悠斗の相性も占って」
「今じゃなくて?」
「誰にも見られないように、こっそりお願い」
桐谷くんは、少し呆れたように笑った。
「はいはい。分かったよ」
客が少なくなった隙に、桐谷くんはソレイユをパソコンのそばへ呼んだ。
悠斗は別の生徒に呼ばれ、教室の外へ出ている。
桐谷くんが二人の情報を入力すると、画面に結果が表示された。
『二人の相性は良好です』
『お互いを信じる気持ちを大切にしましょう』
ソレイユの表情が明るくなる。
「やっぱりね」
けれど、その下には続きがあった。
『ただし、油断禁物』
『思わぬ噂や誤解に注意してください』
「油断禁物……?」
ソレイユは首をかしげた。
「噂や誤解って、何よ」
「占いだから、そんなに気にしなくてもいいと思うけど」
桐谷くんが答える。
「そうよね」
ソレイユは少し気になりながらも、すぐに画面を閉じた。
「次は、アニメ研究会の展示を見に行こう」
ルミエールが言う。
「短いアニメの上映も、もうすぐ始まるよ」
ノアールも頷く。
三人は悠斗と桐谷くんに手を振り、教室を出ていった。
しばらくして。
占いコーナーの客が少なくなると、桐谷くんは一人でパソコンの前に座った。
少し迷ったあと、自分の名前と生年月日を入力する。
そして、保存されていたルミエールの情報を選んだ。
『相性を占う』
桐谷くんがボタンを押す。
画面に結果が表示された。
『二人の進む道は、やがて遠く離れる可能性があります』
桐谷くんは、しばらく何も言わずに画面を見つめていた。
「……やっぱり、だめなのか」
誰もいないパソコンの前で、桐谷くんは小さく呟いた。
文化祭前編では、猫耳メイド喫茶や縁日、コンピューター占いを楽しむ三人を描きました。
占いに表示された、それぞれの未来を思わせる言葉。
次回は、アニメ研究会の作品展示と短編アニメの上映、そして体育館でのLUMISORAライブへ続きます。




