第97話 学校
復活ライブの翌日。
学校へ戻ったノアールを待っていたのは、これまでとは少し違う日常でした。
ライブの翌日。
大きなステージの夜が終わり、ノアールたちはいつもの学校へ戻ってきた。
けれど――
その日の日常は、昨日までとは少し違っていた。
朝。
ルミエールとノアールが校門をくぐった、そのときだった。
「……あ」
一人の女子生徒が、ノアールに気づいて声を上げた。
「ノアール!」
その声に、周りの生徒たちも一斉に振り向く。
「あ、本当だ」
「昨日、ライブに出てたよね!」
「見た見た!」
あっという間に、女子生徒たちがノアールの周りへ集まってきた。
「おはよう!」
「昨日、すごかった!」
「ねえ、サインして!」
ノアールは突然のことに、少し驚いた顔をしている。
「え、今?」
女子生徒が笑った。
「今!」
ノートとペンが差し出される。
別の生徒は、スマートフォンを手にしていた。
「写真もいい?」
「いいよ」
ノアールは戸惑いながらも、差し出されたペンを受け取った。
「名前を書くだけでいい?」
「うん!」
周りから、楽しそうな笑い声が上がる。
「やばい。本物だ」
「昨日のセンター、かっこよかった」
ノアールは少し困ったように、それでもどこか嬉しそうに笑っていた。
ルミエールは、その少し離れた場所から様子を見守っていた。
これまでなら、大勢に囲まれただけで緊張していたかもしれない。
けれど今のノアールは、照れながらも一人ひとりの声に応えている。
「ノアール」
ルミエールが声をかける。
「もうすぐホームルームが始まるよ」
ノアールは顔を上げ、校舎の時計を見た。
「あ、本当だ」
女子生徒たちが慌てて道を空ける。
「またね!」
「ドラマ、楽しみにしてる!」
「次のライブも行くから!」
ノアールは、小さく手を振った。
「ありがとう。またね」
その声は、以前よりもずっと自然だった。
放課後。
アニメ研究会の部室になっている空き教室には、紙やペンが広げられていた。
部員たちは、それぞれの席でイラストを描いている。
ソレイユも机に向かい、真剣な顔でペンを動かしていた。
「このキャラクターさ」
一人の部員が、自分の絵を見せる。
「髪の動きを、もう少し――」
そのとき、部室のドアが開いた。
入ってきたのは、ノアールだった。
部員たちの手が、一斉に止まる。
教室の中が、一瞬だけ静かになった。
「……ノアール先輩?」
一人が、勢いよく立ち上がった。
「昨日、ライブに出てましたよね?」
「見ました!」
「すごかったです!」
次々と部員たちが席を立ち、ノアールの周りへ集まってくる。
「先輩、サインしてください!」
「色紙あります!」
「私もお願いします!」
ルミエールは、その様子を見て笑った。
「人気者だね、ノアール」
ノアールは、少し困ったような顔をした。
「えー……」
それでも、差し出されたペンを受け取る。
「分かった。でも、順番ね」
「はい!」
部員たちは嬉しそうに列を作った。
ソレイユも、楽しそうに笑っている。
「昨日のライブの影響、すごいね」
「本当だね」
ルミエールも頷いた。
ノアールは一枚ずつ丁寧にサインを書きながら、部員たちと話している。
その表情には、もう以前のような固さはなかった。
Cat Starとして、ノアールはステージへ戻った。
そして学校でも、少しずつ人の輪の中へ入れるようになっている。
アイドルとしてのノアールも。
学校で過ごすノアールも。
もう、きっと大丈夫。
ノアールの成長を実感するたびに、ルミエールは嬉しくなった。
けれど、それと同時に。
未来へ帰る時が、刻一刻と近づいているようにも感じていた。
私は、いつ未来へ帰ればいいのだろう。
その前に、あと何を解決すればいいのだろう――。
本編第92話「学校」の流れを、ルミエール視点で描きました。
Cat Starとしても、学校でも前へ進み始めたノアール。
その姿を見守りながら、ルミエールは少しずつ、自分が未来へ帰る時を意識し始めます。




