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第94話 太陽色のステージ

夏のリゾート撮影を終えたLUMISORA。

今度は、真夏の野外フェスに参加します。

ロボット演出はお休み。三人は、リゾート撮影で撮ったムービーを背に、新曲『太陽色のステージ』を披露することになります。

 夏の空の下、野外フェスの会場には、朝から熱気が満ちていた。


 大きなステージがいくつも並び、あちこちから違う音が聞こえてくる。


 ロックバンドの力強いギター。

 レゲエのゆるやかなリズム。

 R&Bのなめらかな歌声。

 テクノの鮮やかなビート。

 アイドルグループの明るい掛け声。

 シンガーソングライターの、まっすぐに届く歌。


 会場には、有名なアーティストの名前が大きく掲げられたステージもあった。

 その一方で、まだ名前を知っている人が少ない新人バンドや、新人アイドルの出演枠もある。


 LUMISORAも、その中のひと組だった。


「すごい……。地球の音楽って、こんなにたくさんあるんだね!」


 ソレイユは、会場の案内板を見ながら声を弾ませた。


 いつものライブ会場とは違う。

 ここにいる観客は、LUMISORAだけを見に来た人たちではない。


 ロックが好きな人。

 テクノのステージを待っている人。

 アイドルのタオルを持っている人。

 レゲエの音に合わせて体を揺らしている人。

 日差しの下でドリンクを片手に歩いている人。


 年齢も服装も、好きな音楽も、ばらばらだった。


 ルミエールは、会場全体から押し寄せてくるような音と熱気に、少し圧倒されていた。


「未来でも音楽はありました。でも、私がよく触れていたのはクラシックが中心でした。たまに、母が若かった頃のCat Starの曲を聞くくらいで……」


 ステージから響くギターの音を聞きながら、ルミエールは言った。


「歌って、こんなにも自由なんですね」


「私も、この地球に来る前は、クラシックに近い音楽とか、ヒーリング系の音楽が多かったかも。地球って、音楽までお祭りみたい」


 ソレイユは楽しそうに言った。


 ノアールは、少し離れたステージから聞こえてくるロックバンドの歌に耳を澄ませていた。


 明るいだけではない。

 怒りも、痛みも、寂しさも、願いも、全部音にしてぶつけているような歌だった。


「……ああいう歌も、あるんだね」


「ノアール?」


 ルミエールが声をかけると、ノアールは静かに首を振った。


「ううん。ただ、少し分かる気がしただけ」


 その言葉に、ソレイユは少しだけ口元をゆるめた。


 今日のLUMISORAは、夏フェス用の新衣装だった。


 ソレイユは、オレンジと黄色を基調にした、明るい夏アイドル衣装。

 短めのトップスに、動きやすいボトムス。ステージで跳ねても踊りやすく、少しギャルっぽい華やかさもある。


 ルミエールは、白と水色を基調にした涼しげな衣装。

 上品さを残しながらも、夏フェスらしく軽やかで、いつもより少しだけ大胆な雰囲気だった。


 ノアールは、黒と紫を基調にした衣装。

 クールで大人っぽく、フェスの熱気の中でも存在感がある。けれど黒い衣装は、真夏の屋外では少し暑そうでもあった。


「暑い……。黒い衣装、熱がこもる……」


 ノアールが小さくつぶやいた。


「夏の野外ステージって、想像以上ですね」


 ルミエールも額の汗をタオルで押さえる。


 その横で、ソレイユだけは元気だった。


「でも楽しいよ! 太陽も会場も、全部きらきらしてる!」


「ソレイユは本当に夏が似合うね」


 ノアールがそう言うと、ソレイユは嬉しそうに胸を張った。


「だって今日の新曲、『太陽色のステージ』だもん! 私、センター頑張る!」


 今回のステージでは、いつも連れてくることのあるロボットたちは来ていなかった。


 真夏の野外フェスは、機材にとっても負担が大きい。

 移動、設置、強い日差し、ステージ周辺の熱。安全のため、今日はロボット演出を休みにすることになった。


 その代わりに用意されたのが、大型スクリーンを使った映像演出だった。


 背後に流れるのは、先日のリゾート撮影で撮られたムービー。


 青い海。

 きらめくプール。

 すいか割りではしゃぐ三人。

 夕日に染まる浜辺。

 夜空に広がる花火。


 リゾート撮影で作られた夏の映像が、今度はステージの背景になる。


「この前の撮影が、ここにつながるんだね」


 ノアールがスクリーンを見上げた。


「はい。あの時の夏が、今度は歌と一緒に届くんですね」


 ルミエールも静かにうなずいた。


「じゃあ、今日は私たちだけで会場を明るくするんだね!」


 ソレイユは、もう一度ステージの方を見た。


 『太陽色のステージ』は、ソレイユがセンターに立つ新曲だった。


 明るい夏のアイドルソング。

 歌い出しも、サビ前の掛け声も、観客を盛り上げるパートも、今回はソレイユが多く任されている。


 しかも、歌だけではない。


 サビでは三人が大きく腕を振り、観客と一緒にタオルを回す振付が入る。

 間奏では、ソレイユがステージ中央で軽やかに跳ねるように踊り、ルミエールとノアールが左右から動きを合わせる。

 ステージ全体を使う、明るく元気なダンスだった。


 真夏の野外ステージで、歌いながら踊る。

 それがどれだけ体力を使うか、リハーサルの段階でルミエールとノアールはすでに感じていた。


「これ、本番で最後まで持つかな……」


 ノアールが少し不安そうに言った。


「私も、思ったより息が上がります。でも、ソレイユが前にいるなら、きっと大丈夫です」


「任せて! 今日は私が引っ張るから!」


 ソレイユの声は、真夏の空に負けないくらい明るかった。


 やがて、LUMISORAの出番が近づいた。


 ステージ袖に立つと、会場の熱気がさらに強く感じられる。

 照明の熱。

 観客の声。

 遠くのステージから響く低音。

 強い日差し。


 それらが混ざり合い、夏の空気そのものが震えているようだった。


「暑い……」


 ノアールはタオルで首元の汗を押さえた。


「暑くて、始まる前から体力を持っていかれますね」


 ルミエールも息を整えながら言った。


 それでも、ソレイユは前を向いていた。


「大丈夫! 暑いからこそ、夏のステージだよ!」


 その言葉に、ルミエールとノアールも小さくうなずいた。


 司会の声が、会場に響いた。


「続いては、新人アイドルユニット、LUMISORAです!」


 ステージに出た瞬間、強い日差しと歓声が三人を包んだ。


 前方には、LUMISORAのファンがペンライトやタオルを持っている。

 少し離れた場所には、まだ三人を知らない観客もたくさんいた。


 大型スクリーンに、青い海の映像が映し出される。


 ソレイユはセンターに立った。


「みんなー! 暑いけど、もっともっと夏を楽しもうね!」


 明るい声が、ステージの上からまっすぐに飛んだ。


 イントロが流れ出す。


 新曲『太陽色のステージ』。


 弾けるようなリズムに合わせて、ソレイユが最初の一歩を踏み出した。


 歌い出しはソレイユだった。


 太陽の光をそのまま音にしたような声が、会場に広がる。

 ルミエールの透明感のある歌声が、その明るさを涼しく支える。

 ノアールの少し落ち着いた声が、曲に深みを加える。


 サビに入ると、三人は一斉にタオルを回す振付に入った。


 客席の前方で、LUMISORAのファンたちもタオルを回す。

 それにつられるように、少し離れた観客も顔を上げた。


「新人?」

「映像、きれいだな」

「あのオレンジの子、すごく元気」

「黒い子も雰囲気あるね」


 そんな声が、熱気の中に混ざっていく。


 ソレイユは、センターで歌い続けた。


 サビ前の掛け声も、観客を煽るパートも、ソレイユが担当している。

 そのうえ、振付の動きも多い。


 腕を大きく振る。

 ステージ中央で跳ねる。

 左右に移動しながら、客席に手を振る。


 真夏の野外ステージで、歌いながら踊っているのに、ソレイユの声は最後まで明るかった。


「みんなー! もっといけるよね!」


 汗を光らせながら、それでもソレイユは太陽みたいに笑っていた。


 ルミエールは、息が上がるのを感じながらも、その背中に引っ張られるように歌った。


 クラシックとも、母が若い頃に聞いたCat Starの曲とも違う。

 この場所には、さまざまな音楽がある。

 さまざまな人がいる。

 その中で、自分たちの歌も鳴っている。


 そう思うと、不思議と足が止まらなかった。


 ノアールも、暑さで体が重くなるのを感じていた。


 けれど、客席を見ると、知らない人が足を止めている。

 別のステージへ向かう途中だった人が、こちらを見ている。

 ロックTシャツを着た人が、リズムに合わせて軽く手を叩いている。


 自分たちを知らなかった誰かが、少しだけでも耳を傾けてくれている。


 そのことが、ノアールの胸を静かに熱くした。


 間奏に入ると、背後のスクリーンには、リゾート撮影でのプールの映像が流れた。


 水しぶきの中で笑うソレイユ。

 浜辺で風を受けるルミエール。

 すいか割りのあと、自然な笑顔を見せるノアール。


 ステージの上の三人と、映像の中の三人が重なる。


 ソレイユは中央で軽やかに踊り、観客に向かって大きく手を振った。

 ルミエールとノアールも、その動きに合わせて左右からステージを広く使う。


 暑い。

 息が苦しい。

 それでも、曲は止まらない。


 最後のサビで、三人の声が重なった。


 スクリーンには、夜空に上がる花火の映像。

 ステージには、太陽の下で踊りながら歌う三人。


 夏の光と、夜のきらめきが、ひとつの歌の中で重なっていく。


 ソレイユは最後の最後まで、センターで声を落とさなかった。


 『太陽色のステージ』。


 そのタイトル通り、今日のステージの真ん中には、ソレイユの明るさがあった。


 曲が終わった瞬間、客席から大きな拍手が起こった。


 前から応援してくれているファンだけではない。

 初めてLUMISORAを見た人たちも、手を叩いていた。


 それは、知らない誰かにも届いた音だった。


 ステージを降りたあと、三人は控えスペースでスポーツドリンクを受け取った。


 ルミエールは小さく息をつき、タオルで汗を押さえた。


「暑くて、倒れてしまうかと思いました……」


「私も……。途中で足が重くなった」


 ノアールも、ゆっくり息を整えながら言った。


 歌うだけではない。

 踊りながら、表情を作り、観客を見て、立ち位置を合わせる。


 暑い中でのダンスは、想像以上にきつかった。


 けれど、ソレイユだけはまだ元気だった。


「楽しかった! みんなでタオルを回したところ、すごくきれいだったね!」


 ノアールは、そんなソレイユを見て小さく笑った。


「ソレイユ、すごかったね。歌うところが多かったのに、最後まで元気だった」


「本当に。ダンスもかなり多かったのに、声も明るいままでした」


 ルミエールも感心したように言った。


 ソレイユは照れたように笑った。


「だって、『太陽色のステージ』だもん。ここで私が元気じゃなかったら、太陽がしょんぼりしちゃうよ」


 その言葉に、ルミエールとノアールも自然に笑った。


 遠くのステージからは、次のアーティストの音が聞こえてくる。

 重いベース音。

 観客の歓声。

 夏の空へ伸びていく歌声。


 フェスは、まだ続いていた。


 ソレイユは会場の方を振り返った。


「地球の音楽、もっと知りたい。楽しい曲も、かっこいい曲も、少し切ない曲も、全部同じ場所で鳴ってるんだね」


 ルミエールもうなずいた。


「私も、もっといろいろな音楽を聞いてみたいです。今日のステージで、歌の世界が少し広がった気がします」


 ノアールは、ステージの方を見ながら静かに言った。


「知らない人が、足を止めてくれた。それだけで、少し嬉しかった」


 夏の野外フェスは、LUMISORAにとって、ただの出演では終わらなかった。


 知らない音楽に触れた。

 知らない観客に出会った。

 ロボットの助けを借りず、三人だけでステージに立った。

 そして、自分たちの歌とダンスが、まだ名前を知らない誰かにも届くことを知った。


 太陽色のステージの余韻は、三人の胸にしばらく残り続けた。

夏フェス回でした。

リゾート撮影で生まれた夏の映像を背に、LUMISORAは新曲『太陽色のステージ』を披露しました。


いろいろな音楽が集まる場所で、三人もまた、自分たちの歌を届けようとします。

ソレイユがセンターとして輝いた、夏らしいステージ回になりました。

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