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第82話 重なる声

ブランシュとルミエールの新曲レコーディングの日。


二人のために用意された曲『White Shining Star』。


歌詞カードを見たルミエールは、そこに自分と重なる言葉を見つけます。

レコーディングの日。


ルミエールは、予定より少し早くスタジオに着いていた。


受付を済ませ、案内された待合スペースで歌詞カードを確認していると、少ししてブランシュがやって来た。


「ルミエールさん、ごめんなさい。少し遅れてしまって」


「いえ、私も来たところです」


ルミエールがそう答えると、ブランシュは軽く息を整えた。


「今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


二人がそろうと、スタッフが資料を持ってやって来た。


「お待たせしました。今日は、まず二人の声の相性を確認しながら録っていきます」


そう言って、スタッフは二人へ歌詞カードを渡した。


表紙には、仮の曲名が書かれていた。


『White Shining Star』


ルミエールは、その文字をしばらく見つめた。


白く輝く星。


ブランシュとルミエールの二人に用意された曲。


その名前だけで、どこか不思議な気持ちになった。


「歌詞を見ながら、まずは軽く確認してみましょう」


スタッフに言われ、ルミエールは歌詞カードを開いた。


そこには、二人で歌うための言葉が並んでいた。


この歌を作った人は、私のことまで詳しく知っているはずはない。


それなのに、歌詞の中には、なぜか自分と重なる言葉があった。


「闇」という言葉を見た瞬間、ノアールの顔が浮かんだ。


けれど、今は考えない。


ルミエールは歌詞カードを持ち直し、スタッフの説明に耳を向けた。


隣では、ブランシュも歌詞カードに目を通していた。


「……綺麗な歌詞ね」


ブランシュが言った。


「はい」


ルミエールはうなずく。


ブランシュは譜面に視線を落としたまま、確認するように言った。


「最初は、二人で入るのね」


「はい」


ルミエールも歌詞カードを見ながら答えた。


曲の冒頭から、二人の声が重なる。


そのあとに続く短いフレーズは、どちらか一人の声を残す形になるらしい。


「ここは、まず二人で合わせてみて、あとで調整する感じですね」


ルミエールが言うと、ブランシュもうなずいた。


「ええ。最初の入りが大事になりそうね」


短いやり取りだった。


けれど、それだけで十分だった。


写真集の撮影も、ドラマの現場も一緒に経験したあとだからか、ブランシュがどこを確認しているのか、ルミエールにも少し分かるようになっていた。


二人は歌詞カードを持ち、スタッフの指示を待った。


やがて、二人はレコーディングブースへ案内された。


ヘッドホンをつけると、外の音が少し遠くなる。


ガラスの向こうでは、スタッフたちが準備を進めていた。


「では、まず冒頭の二人で入るところから確認します」


スタッフの声がヘッドホン越しに聞こえた。


「分かりました」


ブランシュが答える。


ルミエールもマイクの前でうなずいた。


音が流れ始める。


二人は歌詞カードを見ながら、最初の入りを合わせた。


ブランシュの声と、ルミエールの声。


二つの声が、同じ言葉で重なる。


歌い終えると、ブースの外でスタッフがすぐにうなずいた。


「いいですね。最初からかなり合っています」


「もう一度だけ、入りのタイミングを確認しましょう」


「はい」


ブランシュとルミエールは、もう一度同じ部分を歌った。


一度目よりも、二人の声は自然にそろっていた。


そのあと、ブランシュのパートを録ることになった。


最初に歌い始めたブランシュの声は、落ち着いていた。


けれど、ただ静かなだけではない。


芯があり、言葉の一つ一つがきちんと届いてくる声だった。


スタッフがモニターの前でうなずく。


「いいですね。もう一度だけ、最後のところを少し確認しましょう」


ブランシュはすぐに応じた。


「はい」


指示された部分をもう一度歌うと、スタッフはすぐにOKを出した。


「大丈夫です。ブランシュさん、さすがですね」


「ありがとうございます」


次はルミエールの番だった。


ルミエールは歌詞カードを確認し、マイクの前に立った。


ヘッドホンの位置を直し、スタッフの合図に合わせて歌い出す。


LUMISORA☽でのレコーディング経験があるため、流れは分かっていた。


歌い終えると、スタッフはすぐにうなずいた。


「ルミエールさんも安定していますね」


「ありがとうございます」


「では、次は二人で合わせてみましょう」


ブランシュとルミエールは、並んでマイクの前に立った。


目の前には同じ歌詞カード。


ヘッドホンの中に流れる音を聞きながら、二人はタイミングを合わせた。


声が重なる部分に入った瞬間、ガラスの向こうでスタッフが少し身を乗り出した。


二人の声は、まったく同じではない。


けれど、不思議と離れすぎていなかった。


高いところで重なると、ひとつの線のように聞こえる。


別々の声なのに、同じ場所へ向かっているようだった。


歌い終えると、スタジオの中に少しだけ間があいた。


それから、スタッフの声が入った。


「……二人とも、声質が似ていますね」


レコーディングを確認していたスタッフが、少し驚いたように言った。


「顔立ちが似ているとは思っていましたけど、声まで近いなんて不思議です」


別のスタッフも、モニターの前でうなずいた。


「姉妹……ではないんですよね? 血がつながっているわけでもないんですよね?」


ブランシュは少し困ったように笑った。


「ええ。親戚でもないわ」


「世の中には、自分に似た人が三人いるって言いますからね」


「もしかして、ドッペルゲンガーってやつですか?」


「そこまで言うと大げさですよ」


スタッフたちは軽く笑っていた。


ルミエールはマイクの前で、その会話を聞いていた。


違う。


ドッペルゲンガーなんかじゃない。


偶然でもない。


親子だから。


その言葉を、ルミエールは声には出さなかった。


「では、今のところをもう一度だけお願いします」


スタッフの声で、ルミエールは歌詞カードへ意識を戻した。


「はい」


ブランシュも隣でうなずく。


二人はもう一度、同じ部分を歌った。


スタッフから指定された箇所を確認しながら、入りのタイミングと声の重なりを合わせていく。


一度目よりも、二人の声は自然にそろっていた。


「はい、今の良かったです」


スタッフの声が明るくなる。


「もう一か所だけ確認しましょう。そこが取れたら、今日はかなり早く終わると思います」


「分かりました」


それからも、レコーディングは順調に進んだ。


ブランシュもルミエールも、大きなミスをすることはなかった。


細かい確認は何度か入ったけれど、そのたびに二人はすぐに修正した。


予定よりもずっと早く、スタッフから声がかかった。


「はい、OKです。お疲れ様でした」


ブースの外で、スタッフが笑顔で手を叩いた。


「二人とも、本当に優秀ですね。顔立ちや声質だけじゃなくて、こういうところまで似ているんですね」


「こんなに早く終わるとは思いませんでした。声も綺麗に重なっていましたし、完成が楽しみです」


別のスタッフも笑顔で言った。


「発売されたら、きっと二人の新しい魅力が伝わると思います」


ブランシュは少し照れたように頭を下げた。


「ありがとうございます」


ルミエールも続けて頭を下げる。


「ありがとうございました」


初めての二人だけのレコーディングは、予定よりも早く終わった。


ブランシュと並んで歌うことは、LUMISORA☽で歌う時とはまた違っていた。


似ていると言われる声。


重なると言われた声。


それがどんな形で完成するのか、ルミエールにもまだ分からない。


けれど、スタッフたちの表情を見る限り、手応えはあったのだと思う。


レコーディングを終え、二人で並んで廊下を歩いていると、ブランシュが思い出したようにバッグを開いた。


「そういえば、ルミエールさん。ノアールから預かっているものがあるの」


「ノアールから、ですか?」


「ええ。今度、ノアールがレン君と出るコンサートがあるでしょう? そのチケット」


ブランシュは封筒の中からチケットを取り出した。


「私とショコラ、それからルミエールさんとソレイユさんの分。みんなで見に来てほしいって、ノアールから預かっているの」


「ノアールが……」


「ぜひ、ソレイユさんと一緒に来てね」


ルミエールはチケットを受け取った。


レンとノアールのコンサート。


その言葉を聞いた瞬間、ルミエールの胸に、小さな不安が戻ってきた。


ルミエールはチケットに視線を落としたまま、少し迷った。


「あの……ノアールは、元気ですか?」


ブランシュは一瞬だけ考えるようにして、それから答えた。


「ああ、ノアールね。少し疲れているかもしれないわ」


「疲れている……」


「最近、帰りが遅い日が多いの。マンションに帰ってこないで、ホテルに泊まる日もあるわ。ドラマやコンサートの準備で、すごく忙しいのは分かるのだけれど……少し心配ね」


「そうなんですね……」


ルミエールは、それ以上すぐには聞けなかった。


本当は、聞きたかった。


アンナが話していた、ノアールの噂のこと。


けれど、ブランシュの前で、その話をどう切り出せばいいのか分からなかった。


「……分かりました。ソレイユと一緒に行きます」


ルミエールはそう答えた。


ブランシュは嬉しそうに笑った。


「ありがとう。ノアールもきっと喜ぶわ」


今日も、言えなかった。


アンナが話していた、ノアールの噂のこと。


レンとノアールのコンサート。


コンサートに行けば、ノアールの姿を自分の目で見られる。


ルミエールはブランシュから受け取ったチケットを、そっとバッグの中へしまった。


読んでくださりありがとうございます。


作中でブランシュとルミエールがレコーディングした曲

「White Shining Star」をYouTubeに投稿しました。


https://youtu.be/7aAV_hzo1x8


二人の光が重なり、闇を照らしていく曲です。

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