第79話 テレビ告知のあとで
写真集の発売日。
ブランシュとルミエールは、情報番組で写真集の告知をするためテレビ局へ向かいます。
番組出演、思いがけないドラマのオファー、そして書店での発売記念イベント。
写真集が、いよいよ読者の手に届き始めます。
写真集の発売日がやってきた。
ルミエールはブランシュと一緒に、テレビ局を訪れていた。
今日は、情報番組へのゲスト出演だった。
番組の最後に、少しだけ写真集の告知をさせてもらえることになっている。
控室には、完成した写真集が一冊置かれていた。
ルミエールは、その表紙をそっと見た。
ブランシュと自分が並んでいる。
今日、この写真集が発売される。
スターリング社のイベントでプレゼンをしたことはある。
LUMISORA☽のライブでトークをしたこともある。
テレビ番組に出たこともあった。
けれど、全国ネットの生放送の情報番組は、今までとは少しジャンルが違う。
番組の流れに合わせて、短い時間でコメントを返す。
その緊張感は、これまでとは少し違っていた。
「落ち着いているわね」
ブランシュが、隣から穏やかに声をかけた。
「はい。少し緊張はしますが、聞かれたことにきちんと答えれば大丈夫だと思います」
ルミエールが答えると、ブランシュはやわらかく笑った。
「頼もしいわ」
しばらくして、スタッフが控室へ呼びに来た。
「ブランシュさん、ルミエールさん、スタジオへお願いします」
「はい」
二人は立ち上がり、スタッフに案内されてスタジオへ向かった。
番組のセットは明るく、すでに出演者やスタッフが忙しそうに動いていた。
本番が始まると、司会者が笑顔で二人を紹介した。
「本日のゲストは、ブランシュさんとルミエールさんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ブランシュが落ち着いて答える。
ルミエールも、それに合わせて頭を下げた。
番組では、初夏のファッションや、話題のスイーツ、週末のお出かけスポットなどが紹介された。
ブランシュは、司会者に話を振られるたびに穏やかに答えていた。
ルミエールも、番組の流れを見ながら、聞かれたことにひとつずつ答えていく。
「ルミエールさんは、こういう涼しげな夏コーデはお好きですか?」
「はい。色がやわらかいと、暑い日でも気持ちが落ち着く感じがします」
「ブランシュさんは、最近気になっているスイーツはありますか?」
「フルーツを使ったゼリーや、さっぱりしたアイスが気になります。暑くなってくると、冷たい甘いものが少しあるだけで、気分も明るくなりますね」
番組は明るく進んでいった。
後半では、AIやITを使った新しいサービスについての話題も取り上げられた。
画面には、暮らしの中で使われ始めている便利なサービスが紹介されている。
「ルミエールさんは、こういう新しい技術についてはどう思われますか?」
司会者にそう尋ねられ、ルミエールは少しだけ考えてから答えた。
「便利になることは、とても良いことだと思います。ただ、技術に任せきりにするのではなくて、人がどう使うかを考えることが大切だと思います」
スタジオが少し静かになる。
ルミエールは、言葉を選びながら続けた。
「AIやITは、暮らしを助けてくれる道具です。でも、誰かを傷つけたり、置いていったりしない使い方を考えることも、同じくらい大切だと思います」
司会者が感心したようにうなずいた。
「なるほど。便利さだけではなく、使い方が大事ということですね」
「はい。人が少し楽になったり、新しいことに挑戦しやすくなったりする形で広がっていくといいなと思います」
ブランシュは隣で、静かに微笑んでいた。
写真集の話が出たのは、番組の終わりに近づいた頃だった。
司会者が、テーブルの上に置かれた写真集を手に取る。
「そして、お二人からお知らせです。本日、写真集が発売されるんですよね」
「はい」
ブランシュがうなずいた。
「本日、私たちの写真集が発売されます。雪や桜、南の島など、いろいろな場所で撮影していただきました」
ルミエールも続けた。
「このあと書店での発売記念イベントも予定されています。ぜひ見ていただけたら嬉しいです」
「お二人の雰囲気がとても素敵な写真集です。皆さん、ぜひチェックしてみてください」
司会者が明るく締める。
番組が終わると、スタジオの中に拍手が起きた。
「ありがとうございました」
スタッフや出演者に挨拶をして、ブランシュとルミエールは控室へ戻ろうとした。
その途中、廊下で一人の男性が声をかけてきた。
「ブランシュさん、少しよろしいでしょうか」
「はい」
ブランシュが足を止める。
男性は、ドラマ制作部のスタッフだと名乗った。
「実は、今度のドラマの件で少しご相談がありまして」
「ドラマの件ですか?」
「はい。ブランシュさんが出演される作品に、妹役で少しだけ登場する人物がいるんです。もともとは台詞の少ない役だったのですが……今日の番組でお二人が並んでいるところを拝見して、ルミエールさんにお願いできないかと思いまして」
ルミエールは驚いて、ブランシュを見た。
「私に、ですか?」
「はい。お二人が同じ画面に入った時の雰囲気が、とても印象に残りました。ブランシュさんとルミエールさんが同じドラマに出れば、画面の印象も強くなりますし、話題性にもつながると思います」
男性は、丁寧な口調で続けた。
「もちろん、急な話ですので、事務所を通して正式にご相談させていただきます。まずは、お二人のお気持ちだけでも伺えればと」
ブランシュは、ルミエールの方を見た。
「ルミエールさんが嫌でなければ、私は一緒に出てみたいわ」
「ブランシュさんの妹役、ですか」
ルミエールは小さくつぶやいた。
ブランシュの妹。
その言葉は、少し不思議に胸へ残った。
けれど、ブランシュと同じ作品の中に入ることは、嫌ではなかった。
「私でよければ、やってみたいです」
ルミエールが答えると、男性はほっとしたように表情をやわらげた。
「ありがとうございます。では、正式なことは事務所の方へご連絡します」
「よろしくお願いします」
ブランシュが頭を下げた。
控室に戻ると、ブランシュは小さく笑った。
「写真集から雑誌、テレビ、それにドラマまで。次から次へと仕事が決まっていくわね」
「本当に、少し驚きました」
ルミエールは、先ほどの話を思い返しながら答えた。
「でも、せっかくいただいたお話ですから、台詞や動きは事前にきちんと確認しておきます」
「ええ。分からないことがあれば、現場で確認しましょう」
ブランシュは穏やかにうなずいた。
テレビ局を出たあと、ブランシュとルミエールは大手書店へ向かった。
今日は、写真集の発売記念イベントも予定されている。
会場には、写真集のポスターが飾られていた。
ブランシュとルミエールが並ぶ表紙の写真も、大きく引き伸ばされている。
イベントスペースの前には、すでに写真集を購入した人たちが集まっていた。
以前からブランシュを応援している人。
ルミエールのステージを見て知ってくれた人。
そして、書店に並んだ表紙や、朝の情報番組で二人が並んでいる姿を見て、気になって来てくれた人。
それぞれ違う場所から、この写真集へたどり着いてくれたのだと分かる。
イベントは、短いトークから始まった。
司会者に促され、ブランシュとルミエールはステージの上に並ぶ。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
ブランシュが丁寧に挨拶する。
ルミエールも、その隣で頭を下げた。
会場にいる人たちは、写真集を手にしていた。
そのことが、ルミエールには嬉しかった。
トークでは、撮影で印象に残っている場所や、写真集を手に取ってくれた人への感謝を話した。
雪のロケ。
桜のロケ。
南の島のロケ。
短い時間だったけれど、ブランシュとルミエールはひとつずつ思い出を言葉にしていった。
その後は、写真集を購入した人を対象にしたサイン会と握手会だった。
購入した写真集を手にした人たちが、一人ずつ前へ進む。
ブランシュがサインを書き、ルミエールも隣で名前を書く。
サインを書き終えると、二人はその人と握手を交わした。
「発売、おめでとうございます」
「写真、とても綺麗でした」
「お二人の雰囲気が好きです」
そう言ってもらうたびに、ルミエールの胸の奥があたたかくなった。
サインを書き終えたあと、一人の女性が少し照れたように尋ねた。
「あの……お二人って、本当の姉妹なんですか?」
ルミエールは一瞬だけ言葉に迷った。
隣で、ブランシュがやわらかく笑う。
「いいえ。本当の姉妹ではないんです。でも、そう見えていたら嬉しいです」
「やっぱり雰囲気が似ていると思いました。写真を見ていて、すごく自然で……とても綺麗でした」
「ありがとうございます」
ブランシュが丁寧に答える。
女性は写真集を大事そうに抱えた。
「今朝の情報番組を見て、気になって買いに来たんです。お二人が並んでいるのを見て、もっと見てみたいと思って」
「そう言っていただけて嬉しいです」
ルミエールも、静かに頭を下げた。
「ありがとうございます」
その言葉は、ルミエールの胸に静かに残った。
写真は、撮った時だけで終わるものではない。
こうして誰かの手に渡って、ページをめくってもらえる。
そのことを、今日初めて強く感じた。
イベントが終わる頃には、外は夕方になっていた。
控室に戻ったブランシュは、椅子に座って少しだけ肩の力を抜いた。
「無事に終わったわね」
「はい。たくさんの方が来てくださって、嬉しかったです」
「ええ。本当に」
ブランシュは、机の上に置かれた写真集を見た。
「この一冊が、今日からいろいろな人の手に渡っていくのね」
ルミエールも、同じように写真集を見た。
テレビでの告知。
急なドラマ出演のオファー。
そして、写真集の発売記念イベント。
写真集の発売日でありながら、次の仕事へつながる一日にもなった。
「ルミエールさん」
ブランシュが声をかけた。
「はい」
「ドラマの件、正式に決まったら、きっとまた新しい現場になるわ。無理はしないでね」
「はい。台詞や動きは、事前にきちんと確認しておきます」
ルミエールが答えると、ブランシュは穏やかに微笑んだ。
「ルミエールさんらしいわ」
その言葉に、ルミエールは静かにうなずいた。
ルミエールは写真集をそっと手に取り、その重みを確かめた。
一冊の本として届いた時間。
そして、これから向かうことになる新しい現場。
今日という日は、その境目にあるような気がした。
読んでいただきありがとうございます。
今回は、写真集の発売日のお話でした。
テレビでの告知、書店でのサイン会と握手会、そして急なドラマ出演のオファー。
ブランシュとルミエールの仕事は、写真集からさらに次の現場へ広がっていきます。




