表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
78/107

第78話 夏のリンクコーデ

写真集の撮影をきっかけに、ブランシュとルミエールへ新しい雑誌の仕事が入りました。


大きな撮影スタジオで行われる、夏のリンクコーデ特集。


同じスタジオでは、ソレイユも別の雑誌撮影に参加していて――。

新学期が始まってから、少しずつ学校の空気にも慣れてきた頃。


ルミエールはブランシュと一緒に、都内の大きな撮影スタジオを訪れていた。


今日は、ファッション雑誌の撮影だった。


写真集の最終確認をした出版社で話が出ていた、夏のリンクコーデ特集。


ブランシュとルミエールは、その中の一組として並んで撮影することになっていた。


スタジオの中へ入ると、すでにいくつものブースで準備が進められていた。


白い背景紙が広げられた場所。


夏らしい小物が並べられた場所。


メイク台の前で、モデルたちが髪を整えてもらっている場所。


スタッフたちは衣装や小道具を手に、忙しそうに行き来している。


「今日は、いくつかの雑誌撮影が同じスタジオで進んでいるみたいね」


ブランシュが、周囲を見ながら言った。


「そうなんですね」


「ええ。片方のブースでメイク直しや衣装替えをしている間に、別のブースで撮影を進めるの。時間を無駄にしないように、うまく回しているのね」


ルミエールは、あちこちで動くスタッフたちを見た。


それぞれのブースで、違う空気が作られている。


けれど全体としては、ひとつの大きな流れの中で動いているようだった。


ブランシュとルミエールが案内されたのは、大人向けファッション誌の撮影ブースだった。


衣装ラックには、白いブラウスや淡い水色のワンピース、ラベンダー色のスカート、薄手のカーディガンが並んでいる。


帽子やサンダル、小さなバッグも、どれも落ち着いた色合いでそろえられていた。


夏らしいけれど、派手すぎない。


涼しげで、上品な雰囲気だった。


「ブランシュさん、ルミエールさん、本日はよろしくお願いします」


編集者が二人に頭を下げた。


「よろしくお願いします」


ブランシュが穏やかに返す。


ルミエールも、それに合わせて頭を下げた。


「今回は、大学生から二十代前半の読者に向けた、少し大人っぽい夏のリンクコーデ特集になります。お二人には、色や素材をそろえた上品なコーデで並んでいただく予定です」


編集者は、テーブルの上に置かれたラフを見せてくれた。


ページのイメージには、二人が並んで歩くカットや、椅子に腰かけて微笑むカット、夏の日差しを感じるような立ち姿が描かれている。


写真集とはまた違う。


けれど、ブランシュと並ぶ仕事であることに変わりはなかった。


「素敵ですね」


ルミエールが言うと、ブランシュも微笑んだ。


「ええ。ルミエールさんと一緒なら、今回の撮影も楽しくなりそうだわ」


最初の衣装は、白と淡い水色を基調にしたリンクコーデだった。


ブランシュは白いブラウスに、淡い水色のロングスカート。


ルミエールは淡い水色のワンピースに、白い薄手のカーディガンを合わせた。


完全なお揃いではない。


けれど、並ぶと自然に雰囲気がつながる。


鏡の前に立つと、ルミエールは少し不思議な気持ちになった。


ブランシュは、若い頃の母。


けれど今は、同じ雑誌のページに並ぶ相手だった。


隣に立つブランシュは、ルミエールを見てやわらかく笑った。


「似合っているわ、ルミエールさん」


「ありがとうございます。ブランシュさんも、とても素敵です」


「ありがとう」


メイクを整え、髪を軽く直してもらうと、二人は撮影ブースへ向かった。


カメラマンの指示に合わせて、並んで立つ。


少しだけ顔を近づける。


同じ方向を見る。


次に、互いに視線を向けて微笑む。


写真集の撮影で何度も一緒にカメラの前に立ったからか、ルミエールは以前よりも少し落ち着いていられた。


ブランシュが隣にいる。


それだけで、初めての場所でも大丈夫だと思えた。


「いいですね。そのまま少し歩いてみましょう」


カメラマンの声に合わせて、二人はゆっくりと歩いた。


白い背景の前なのに、夏の街を歩いているような気持ちになる。


ブランシュの歩幅に合わせながら、ルミエールは自然に前を向いた。


撮影は順調に進んだ。


ひとつ目の撮影が終わると、二人は次の衣装へ着替えるため、いったんブースを離れることになった。


「少し休憩を挟んでから、次はラベンダー系のコーデに変えますね」


スタッフに案内され、ブランシュとルミエールはメイクルームの方へ向かう。


その途中、近くのブースから明るい音楽と元気な声が聞こえてきた。


「ソレイユちゃん、そろそろ次の撮影入ります!」


「はーい!」


聞き慣れた声に、ルミエールは思わず足を止めた。


反対側のブースから、ソレイユが出てくるところだった。


明るい色のトップスに、カラフルなアクセサリー。


大きめのバッグや、夏らしい小物も身につけている。


ブランシュとルミエールの落ち着いた衣装とは、まったく違う雰囲気だった。


ソレイユの後ろからは、中学生くらいのモデルや、小学校高学年ぐらいの子達も出てきた。


みんな明るい色の衣装を着て、楽しそうに話している。


「ルミエール!」


ソレイユがぱっと笑った。


「ソレイユ。今から撮影?」


「うん、今から撮影なの。次は小さい子たちと一緒に撮るんだって」


ソレイユは元気よく答えた。


「ルミエールたちは?」


「私たちは、今ひとつ撮り終わったところ。これから着替えて、少し休憩」


「そっか。大人っぽい衣装、似合ってるね」


ソレイユは明るく笑った。


けれどその視線が一瞬だけ、ルミエールの落ち着いたワンピースと、自分のカラフルな衣装の間を行き来した。


「ソレイユも似合ってるよ。元気な夏って感じで」


ルミエールが言うと、ソレイユはいつものように胸を張った。


「でしょ? 今日は元気いっぱいでって言われてるの」


「ソレイユちゃん、行くよー」


後ろにいた小さなモデルが声をかける。


「うん、今行く!」


ソレイユは振り返ってから、もう一度ルミエールたちに手を振った。


「じゃあ、またあとで!」


「うん。またあとで」


ソレイユは年下のモデルたちと一緒に、明るい撮影ブースへ戻っていった。


その背中を見送りながら、ルミエールは少しだけ考えた。


同じ夏の撮影でも、ブースの空気はこんなに違う。


ブランシュとルミエールの現場は、大人っぽく落ち着いた夏。


ソレイユの現場は、元気いっぱいの夏。


どちらも、その人に合った場所なのだと思う。


「ソレイユさん、頑張っているわね」


ブランシュが言った。


「はい」


ルミエールはうなずいた。


「とても明るくて、周りの子たちも楽しそうでした」


「ええ。ああいう現場では、ソレイユさんの明るさがとても大事になるのだと思うわ」


ブランシュの言葉は、穏やかだった。


ルミエールもそう思った。


ソレイユには、ソレイユにしか作れない空気がある。


それはきっと、とても大切なものだ。


その後、二人はラベンダー色を取り入れた衣装に着替えた。


ブランシュは淡いラベンダーのワンピース。


ルミエールは白いブラウスに、ラベンダー色のスカートを合わせた。


最初の衣装よりも、少し華やかだった。


撮影ブースに戻る途中、何人かのモデルがブランシュに挨拶をしてきた。


「ブランシュさん、お疲れさまです」


「今日、ご一緒できてうれしいです」


ブランシュは一人ひとりに、丁寧に挨拶を返していた。


その様子を見て、ルミエールは改めて思った。


ブランシュは、この世界でずっと積み重ねてきた人なのだ。


写真集で一緒に過ごしている時とは、また少し違う。


現場の中で信頼されているブランシュの姿が、そこにあった。


少しして、一人の女性が近づいてきた。


すらりとした綺麗な人だった。


落ち着いた雰囲気で、歩き方もきれいだった。


「ブランシュさん、お疲れさまです」


その女性は、丁寧に頭を下げた。


「お疲れさま、凛さん」


ブランシュがやわらかく返す。


「こちらは、今日一緒に撮影しているルミエールさんよ」


ブランシュが紹介すると、凛はルミエールの方へ向き直った。


「凛です。よろしくお願いします」


「ルミエールです。よろしくお願いします」


ルミエールも、同じように頭を下げた。


凛の声は落ち着いていた。


礼儀正しくて、やわらかい印象の人だった。


「凛さんも、今日はこちらの雑誌の撮影なんですか?」


ブランシュが尋ねる。


「はい。別ページの夏コーデ企画で呼んでいただいています」


凛はそう答えてから、ふと思い出したように続けた。


「そういえば、今度ノアールさんと久しぶりに共演するんです」


「ノアールと?」


ブランシュが聞き返す。


「はい。子役の頃は、ノアールさんとレン君と海斗君と、同じ現場になることが多かったんです。四人で待ち時間を過ごすこともよくあって」


「そうだったわね。ノアールからも、よくその頃の話を聞いたことがあるわ」


ブランシュは懐かしそうにうなずいた。


「ええ。だから久しぶりにご一緒できるの、楽しみなんです」


凛は穏やかに笑った。


ブランシュも、やわらかく微笑む。


「凛さんが一緒なら安心だわ。ノアールのこと、よろしくね」


「はい」


凛は丁寧に頭を下げた。


「私にできることがあれば」


そのやり取りを、ルミエールは静かに聞いていた。


ノアール。


レン。


海斗。


そして、凛。


子役の頃から同じ現場にいた四人。


ルミエールの知らないノアールの時間が、そこにはあった。


けれどブランシュが安心だと言うのなら、きっと大丈夫なのだろう。


そう思った。


「では、私はそろそろ戻りますね」


凛はもう一度頭を下げ、撮影ブースの方へ戻っていった。


その後ろ姿は、落ち着いていてきれいだった。


「凛さんは、とても丁寧な方ですね」


ルミエールが言うと、ブランシュはうなずいた。


「ええ。子役の頃から現場をよく知っている人だから、しっかりしているわ。ノアールとも昔から顔見知りだし、凛さんが一緒なら心強いと思う」


「そうなんですね」


ルミエールは小さくうなずいた。


ノアールの新しい仕事。


レンとの共演。


そして、凛との再会。


少しずつ、ノアールの周りにも仕事の輪が広がっている。


ルミエールはそのことを、静かに受け止めた。


午後の撮影も順調に進んだ。


ラベンダーのコーデでは、二人で椅子に腰かけたり、夏の小物を手にしたりした。


ブランシュが帽子を持ち、ルミエールが小さなバッグを持つ。


互いの衣装の色が、ページの中でやわらかくつながっていく。


「いいですね。写真集とはまた違う雰囲気です」


編集者がモニターを見ながら言った。


「お二人で並ぶと、落ち着いているのに華やかさがあります」


ブランシュは少し照れたように笑った。


ルミエールもモニターを見た。


そこには、ブランシュと自分が並んで写っていた。


写真集の時よりも、少し軽やかで、少し大人っぽい。


同じ二人で並んでいても、衣装やページの雰囲気が変わるだけで、見え方はこんなにも違う。


ルミエールは、雑誌の仕事というものを少しだけ分かった気がした。


撮影が終わる頃には、スタジオの中の空気も少し落ち着いていた。


ソレイユのいたブースでは、最後の集合カットが撮られているようだった。


「ソレイユちゃん、最後、もっと元気に!」


「はーい!」


ソレイユの明るい声が響く。


年下のモデルたちが笑い、スタッフも楽しそうに声をかけている。


その中心で、ソレイユは大きく手を広げて笑っていた。


本当に、太陽みたいだ。


ルミエールはそう思った。


撮影後、ブランシュとルミエールは私服に着替え、スタジオの出口へ向かった。


廊下の向こうでは、凛がスタッフと話している姿が見えた。


別の方からは、撮影を終えたソレイユが年下のモデルたちに手を振っている声が聞こえる。


同じスタジオの中で、それぞれ違う撮影が進んでいた。


ブランシュとルミエールは、大人っぽい夏のリンクコーデ。


ソレイユは、元気いっぱいのティーン向け撮影。


そしてルミエールは、ノアールの子役時代を知る凛とも出会った。


ひとつのスタジオの中に、それぞれ違う仕事と時間が流れている。


ルミエールは今日一日のことを思い返しながら、ブランシュと並んで出口へ向かった。


「今日はお疲れさま、ルミエールさん」


ブランシュが言った。


「お疲れさまでした、ブランシュさん」


ルミエールは笑顔で答えた。


スタジオの外へ出ると、夕方の風が頬をなでた。


少しだけ夏に近づいた空気が、ルミエールの髪をやさしく揺らした。

読んでいただきありがとうございます。


今回は、ブランシュとルミエールの雑誌撮影回でした。


同じスタジオで撮影していたソレイユ、そしてノアールの子役時代を知る凛との出会い。


それぞれの仕事が少しずつ広がっていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ