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第68話 久しぶりの部室

ノアールがドラマ撮影で忙しくなる中、ルミエールとソレイユは久しぶりにアニメ同好会の部室へ向かいます。


部室にも、新しい変化が少しずつ生まれていました。

ノアールがドラマ撮影で忙しくなってから、三人で学校の部室へ顔を出す時間は少しずつ減っていた。


放課後。


ルミエールとソレイユは、久しぶりにアニメ同好会の部室へ向かっていた。


「なんか、ちょっと緊張する」


ソレイユが廊下を歩きながら言った。


「部室へ行くだけですよ」


「そうなんだけど。最近あんまり顔出せてなかったし」


ルミエールはうなずいた。


遊園地ライブ。


スターリング社のイベント。


子ども向け番組や教育番組の話。


それぞれの仕事が増え、学校の放課後に使える時間は以前より短くなっていた。


部室の扉の前に立つと、中からにぎやかな声が聞こえてきた。


ソレイユが扉を開ける。


「お疲れー」


部室の中は、思っていたより人が多かった。


以前からいる部員に加えて、最近入部した部員たちもいる。


机の上にはスケッチブックや資料、アニメ雑誌が広げられ、壁には新しく描かれたイラストも貼られていた。


「ソレイユちゃん!」


「ルミエール先輩も来た!」


一年生たちが一斉に顔を上げる。


その中の一人が、少し残念そうに聞いた。


「今日はノアール先輩、一緒じゃないんですか?」


「ノアール先輩にも会いたかったです」


ソレイユは少しだけ笑った。


「ノアールは今、ドラマ撮影で忙しいんだ」


「へえ、ノアール先輩ドラマに出るんだ!」


別の部員が声を上げる。


「すごい。楽しみですね」


ソレイユは少しだけ笑った。


「私も、どんな作品になるか楽しみ」


その声はいつも通りだった。


けれど、ルミエールには、ほんの少しだけ寂しさが混じっているように聞こえた。


部室の奥では、悠斗が何人かの女子部員に囲まれていた。


同じ一年生の部員たちらしい。


最近は、悠斗目当てでアニメ同好会に入部してきた子もいると噂で聞いた。


悠斗は少し困ったように笑いながらも、丁寧に質問へ答えていた。


ソレイユの視線が、ほんの一瞬だけそちらへ向いた。


「お疲れ」


悠斗が気づいて声をかける。


「お疲れ」


ソレイユも短く返した。


それだけだった。


以前なら、もっと自然に話していた。


けれど今は違う。


学校では距離を置く。


二人で決めた約束だった。


悠斗も、それを分かっているのだろう。


それ以上近づいてこなかった。


ソレイユは少しだけ息を吐き、それから近くの一年生たちへ向き直った。


「みんな、何描いてるの?」


「新しい部誌用のキャラ案です!」


一年生の部員がスケッチブックを見せる。


その流れで、別の子が少し遠慮がちに言った。


「あの、ソレイユちゃんとルミエール先輩、サインもらってもいいですか?」


「サイン?」


ソレイユが驚く。


「はい。遊園地ライブ見ました。あと、子ども向け番組に出るって聞いて……」


「まだ始まってないよ」


「でも、絶対見るので!」


ソレイユは少し照れたように笑った。


「じゃあ、簡単なのでいいなら」


「ルミエール先輩もお願いします!」


ルミエールは少し戸惑いながらも、差し出されたノートに名前を書いた。


「ありがとうございます!」


一年生の部員が嬉しそうにノートを抱える。


ソレイユも、少し照れながらサインを書いていた。


「なんか、まだ慣れないね」


「そうですね」


その時、近くにいた桐谷が声をかけてきた。


「ルミエール先輩」


「はい」


「スターリング社のイベント、見ましたよ」


「そうですか?」


「ネットでも話題になってました。説明も分かりやすかったし、プレゼンもすごかったです」


桐谷は少し興奮した様子で続けた。


「もうロボット博士ですね」


「博士ではありません」


ルミエールがすぐに答えると、ソレイユが横で笑った。


「ルミエール、またすごいことしてたんだね」


「必要だったので説明しただけです」


「それで契約の話まで出たんでしょ? 十分すごいよ」


一年生たちも頷いている。


ルミエールは返す言葉に少し迷い、サインを終えると席へ腰を下ろした。


「では、少し作業を進めましょう」


そう言って、スケッチブックを開く。


新しいステージ衣装のラフと、猫型ロボットの動きのメモを描き始めた。


鉛筆が紙の上を滑る。


ソレイユの衣装には明るいラインを入れ、ノアールの衣装には少し落ち着いた黒と紫の流れを考える。


ロボットの配置は、ステージの広さに合わせて変える必要がある。


「ルミエール先輩、絵も上手なんですね」


近くで見ていた一年生の部員が声を上げた。


「そうでしょうか」


「めちゃくちゃ上手です!」


部員はスケッチブックをのぞき込む。


「今度、私にも絵を教えてもらえませんか?」


ルミエールは少し驚いた。


「私でよければ」


「本当ですか? ありがとうございます!」


その子が嬉しそうに笑う。


部室の中に、また明るい声が広がった。


その横で、桐谷が少しだけ真面目な顔になる。


「ルミエール先輩」


「はい」


「僕、最近ロボット工学の勉強を始めたんです」


ルミエールは手を止めた。


「ロボット工学を?」


「はい。まだ受験勉強の段階ですけど、大学でそういう分野を学びたくて」


桐谷は少し照れたように笑った。


「ショッピングセンターのロボットも、スターリング社のイベントの話も見て、やっぱりちゃんと勉強したいと思いました」


ルミエールは、桐谷の言葉を静かに聞いた。


自分が動かしたロボット。


自分が説明した言葉。


それが、誰かの進路にまでつながっている。


その事実は、思っていたよりも重く、けれど温かかった。


「桐谷君なら、きっと向いていると思います」


「本当ですか?」


「ええ。技術そのものだけではなく、人がどう受け取るかを考えられる人は大切です」


桐谷の表情が明るくなる。


「ありがとうございます。頑張ります」


ソレイユが横から笑った。


「桐谷君、すっかりルミエールの弟子だね」


「弟子というわけでは……」


ルミエールが答えると、桐谷は少し真面目な顔で言った。


「でも、目標ではあります」


その言葉に、ルミエールは少しだけ返事に困った。


誰かの目標になる。


それは、思っていたよりも責任のある言葉だった。


部室の奥から、女子部員の笑い声が聞こえる。


悠斗が何か質問に答えているらしい。


ソレイユは一瞬だけそちらを見た。


でも、すぐに同じ一年生のスケッチブックへ視線を戻す。


「ここ、色を明るくしたら可愛いかも」


「本当?」


「うん。こっちの髪飾りも、星っぽくしたらいいと思う」


いつものように明るく話している。


けれど、ルミエールには分かっていた。


ソレイユは、ちゃんと我慢している。


悠斗と話したい気持ちを抑えながら、今の自分にできる場所へ立とうとしている。


部室に来る前より、少しだけ空気が軽くなった気がした。


ノアールはいない。


けれど、部室には部室の時間が流れている。


新しく入った一年生たち。


ロボット工学を目指し始めた桐谷。


距離を守るソレイユと悠斗。


そして、次のステージの絵を描く自分。


それぞれが、少しずつ前へ進もうとしていた。


帰り際、一年生たちがもう一度声をかけてきた。


「また来てくださいね」


「今度はノアール先輩も一緒に!」


ソレイユは笑って手を振った。


「うん。ノアールにも伝えておくね」


ルミエールも軽く頭を下げる。


部室を出ると、廊下は夕方の光に染まっていた。


ソレイユはしばらく黙って歩いていたが、やがて小さく言った。


「部室、にぎやかになってたね」


「ええ」


「悠斗とも、ちゃんと距離置けた」


その言葉は、誰かに褒めてもらうためというより、自分に言い聞かせるためのものに聞こえた。


ルミエールは静かにうなずく。


「よくできていたと思います」


ソレイユは少し笑った。


「ありがと」


夕方の廊下を、二人は並んで歩いていく。


ノアールのいない部室は、少しだけ物足りなかった。


それでも、久しぶりに戻った場所には、新しい声と、新しい未来が増えていた。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。


今回は、ルミエールとソレイユが久しぶりにアニメ同好会の部室へ顔を出す回でした。


ノアールはドラマ撮影で不在ですが、部室にも新入部員たちが増え、少しずつ空気が変わり始めています。


悠斗と距離を置こうとするソレイユ、ロボット工学を目指し始めた桐谷君、そして後輩たちに頼られ始めるルミエール。


それぞれの場所で、また新しい一歩が生まれています。


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