第67話 二人に届いた嬉しい知らせ
ノアールがドラマ撮影で忙しくなる中、ソレイユとルミエールも事務所へ呼び出されます。
今回は、二人に届いた新しい仕事の知らせの回です。
ノアールがドラマ撮影で忙しくなり、家に戻らない日が増え始めていた。
その日、ルミエールとソレイユは二人だけで事務所へ呼び出された。
廊下を歩いていると、鏡の前にいたアンナがこちらを見た。
「今日は二人だけ?」
アンナは髪を整えながら、わざとらしく首を傾げる。
「ノアールはドラマで忙しいみたいね」
少しだけ口元が歪む。
「でも、あなたたちはどうなの?」
ソレイユの足が、ほんの少しだけ止まりかけた。
アンナはそれを見逃さない。
「遊園地や住宅展示場のイベントばかりで、大きな仕事は来ていないみたいね」
鏡越しの視線が、二人へ向けられる。
「三人組なのに、一人だけ先に進まれて大変そうですわ」
ソレイユは唇を結んだ。
ルミエールは何も言わず、前を見た。
ここで立ち止まれば、アンナの言葉に付き合うことになる。
二人はそのまま社長室へ向かった。
社長室へ入ると、机の上にはいくつもの資料が置かれていた。
社長は二人を見る。
「今日は、ノアール抜きで話す」
ソレイユの表情が少し変わった。
「ノアールは、ドラマ撮影ですか?」
「ああ。しばらく忙しくなる」
社長は資料を一枚取り上げた。
「まず、ソレイユ。お前に子ども向け番組の話が来ている」
「私に?」
ソレイユは驚いたように自分を指さした。
「ショッピングセンターと遊園地ライブでの反応が良かった。特に子ども受けがいい。番組側は、明るく親しみやすいアシスタントのお姉さん役を探している」
「私が、お姉さん役……」
「そうだ」
社長は別の資料を机へ置いた。
「それと、ティーン向けファッション誌からも話が来ている。中高生向けのギャル系雑誌だ。お前の雰囲気には合う」
ソレイユの顔に、少しずつ嬉しさが広がっていく。
けれど、社長の声はそこで少し低くなった。
「ただし、ソレイユ」
「はい」
「以前も話したと思うが、恋愛禁止の件は忘れるな」
ソレイユの肩が、わずかに固まった。
「特に子ども向け番組は、イメージが重要だ。番組側もそこは絶対条件にしている」
社長は資料を閉じる。
「明るく、親しみやすく、安心して子どもに見せられる存在。そう見られる必要がある。噂ひとつで話が流れることもある」
「……分かっています」
ソレイユは笑おうとした。
けれど、その声は少しだけ硬かった。
「気をつけます」
社長はうなずき、今度はルミエールへ視線を向けた。
「ルミエール。お前にも話が来ている」
「私に、ですか?」
「先日のスターリング社のイベントだ。ブランシュと一緒にいた時の評判がかなり良かったらしい」
社長は別の資料を机に置いた。
「ブランシュと二人で写真集を出してほしい。テレビ番組で共演させたい。そういう話が来ている」
「写真集……」
ルミエールの声が少しだけ遅れた。
「それだけじゃない。教育番組側からも問い合わせがある。サイエンス番組のアシスタント、もしくはコメンテーターのような立場で出られないか、という話だ」
ソレイユがルミエールを見る。
「すごいじゃん、ルミエール」
ルミエールは資料へ視線を落とした。
スターリング社のイベントでは、ロボットの説明とプレゼンを手伝っただけのつもりだった。
ブランシュと並んだ時に、周囲から姉妹のようだと言われたことも覚えている。
けれど、それが写真集やテレビ番組の話につながるとは思っていなかった。
「すべて受けろとは言っていない」
社長は二人を見た。
「だが、ノアールだけが忙しくなるわけじゃない。お前たちにも、それぞれ次の場所が来ている」
その言葉に、ソレイユは少しだけ背筋を伸ばした。
ルミエールも、もう一度資料を見た。
さっき廊下でアンナに言われた言葉が、少し遠くなる。
三人組の中で、誰か一人だけが進んでいるわけではない。
それぞれ違う場所へ、少しずつ道が伸び始めていた。
その日の夜。
家に戻ったルミエールとソレイユは、事務所で聞いた話をもう一度確認していた。
ノアールは、今日もドラマ撮影で帰りが遅くなると連絡が来ている。
「私たちにも、ちゃんと仕事来たね」
ソレイユが少し嬉しそうに言った。
「ええ。ソレイユには子ども向け番組と雑誌の話。私には教育番組とブランシュさんとの共演の話」
「なんか、急に忙しくなりそう」
「そうですね」
ルミエールは資料を閉じた。
ソレイユは少しだけ静かになる。
「最近、ノアールがドラマ撮影で忙しいでしょ。ホテルに泊まったり、お姉さんのところに行ったりして」
「ええ」
「少し寂しかったんだ。ノアールもルミエールも忙しくなって、私だけ置いていかれるみたいで」
ソレイユはそう言ってから、すぐに笑った。
「でも、私にも仕事が来た。子ども番組のお姉さん役、ちゃんと向き合ってみる」
「ソレイユに合っていると思います」
「本当?」
「ええ。あなたの明るさは、子どもたちにも届きます」
ソレイユは嬉しそうにうなずいた。
「うん。やってみる」
その時、ルミエールのタブレットに通知が入った。
ノアールからだった。
『今日は撮影が長引きそう。ホテルに泊まるね』
続けて、もう一通。
『順調だよ。忙しいけど大丈夫』
ソレイユが画面をのぞき込む。
「ノアール、頑張ってるね」
「ええ」
ルミエールは返信を打った。
『無理はしすぎないでくださいね。私たちにも新しい仕事の話が来ました。今度、三人で話しましょう』
送信すると、既読はすぐについた。
けれど、返事は来なかった。
撮影中なのだろう。
ルミエールはそう思い、タブレットを伏せた。
その時の二人は、まだ知らなかった。
ノアールがドラマの現場で、少しずつ追い詰められていることを。
ノアールから届く連絡は、いつも短く明るかった。
『順調だよ』
『忙しいけど大丈夫』
その言葉を、二人は信じていた。
ノアールはうまくやっている。
ドラマの仕事も、少しずつ前へ進んでいる。
そう思っていた。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
今回は、ソレイユとルミエールに新しい仕事の話が届く回でした。
ソレイユには子ども向け番組とティーン向け雑誌。
ルミエールには教育番組やブランシュとの共演の話。
二人にとっては嬉しい知らせでしたが、その頃ノアールはドラマの現場で少しずつ追い詰められていました。




