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第65話 動き始めるそれぞれの場所

遊園地ライブの成功後、三人の仕事は少しずつ広がり始めます。


今回は、本編第62話の裏側で、ルミエールが見ていた範囲の出来事です。


遊園地ライブの数日後。


LUMISORA☽の三人は、事務所へ呼び出されていた。


廊下には、ノアールの同期グループの大きなポスターが貼られている。


『ドームツアー決定』


華やかな衣装をまとった少女たちが、大きな会場を背に笑っていた。


その前を通り過ぎようとした時、鏡の前にいたアンナが振り返った。


「遊園地やショッピングセンターのライブが成功したって、喜んでいる場合じゃないわよ」


アンナは鏡越しに、三人を見た。


「ノアールの同期はドームツアーですって」


廊下のポスターへ視線を向け、くすっと笑う。


「でも、あなたたちは住宅展示場のイベント広場くらいがお似合いですわ」


ソレイユの足が、ほんの少しだけ遅くなる。


ノアールは何も言わず、前を見ていた。


ルミエールも反応しなかった。


今は、言い返す場面ではない。


三人はそのまま社長室へ向かった。


社長室に入ると、机の上には新しい資料が並べられていた。


遊園地キャンペーンやローカルCM、住宅展示場ステージ、ショッピングセンターでの次回イベント。


遊園地ライブの成功を受けて、いくつもの話が正式に動き始めているようだった。


社長は資料を軽く指で叩いた。


「遊園地ライブは成功だ。向こうからの評価も悪くない」


ソレイユの表情が少し明るくなる。


ノアールも静かに息を吐いた。


「次のキャンペーンとCM、ライブも動く。今から会議室でスタッフと打ち合わせをしてくれ」


社長の視線が、ノアールへ移る。


「それと、ノアール。お前には別の仕事も来ている。少し残れ」


「私だけ、ですか?」


「ああ」


ノアールは小さくうなずいた。


ルミエールはノアールを見た。


何の仕事なのか気にはなったが、社長の前で聞ける空気ではない。


「ルミエール、ソレイユ。お前たちは先に会議室へ行け」


「はい」


ルミエールとソレイユは社長室を出た。


扉が閉まる直前、ノアールがこちらを見た。


大丈夫、と言うように少しだけ笑う。


けれど、その笑顔には緊張が混じっていた。


会議室には、すでにスタッフが待っていた。


「まずは遊園地キャンペーンのSNS展開から確認しましょう」


スタッフが資料を広げる。


ルミエールとソレイユは席に着いた。


場所が変われば、客席も空気も変わる。


ルミエールはペンを持ち、配置図の上に小さく印をつけた。


「住宅展示場は、遊園地より落ち着いた始まりにした方が良さそうです」


「家族連れが多そうだよね」


ソレイユも資料を覗き込む。


「明るいけど、ちょっと安心できる感じ?」


「ええ。子どもだけでなく、家を見に来た大人にも届くようにしたいです」


衣装、曲順、ロボットの立ち位置、ステージに入るタイミング。


どうしたら今よりもっと良くなるだろう。


ルミエールは資料に目を通しながら、次のステージの形を考えていた。


その日の夜。


三人は家に戻り、夕食を食べながら事務所での話をしていた。


最初に口を開いたのはソレイユだった。


「学校では、ゆうとと距離を置くことにした」


ノアールが顔を上げる。


ルミエールもソレイユを見る。


ソレイユは笑っていた。


けれど、悠斗の名前を出した瞬間だけ、ほんの少し表情が揺れた。


本人も気づいたのだろう。


すぐに笑顔へ戻る。


「噂になったら、ゆうとにも迷惑かかるから」


そう言ってから肩をすくめた。


「でも、メールはさせてもらうからね」


少しだけ強い口調だった。


「全部やめるのは無理。メールくらいならいいでしょ?」


ノアールは少し考えた。


「人前で会うよりは、いいと思う」


ルミエールもうなずく。


「気をつけてくださいね」


「分かってる」


ソレイユは安心したように笑った。


今度はノアールが話し始める。


「私も、今日社長に呼ばれたの」


「仕事の話?」


ソレイユが聞く。


「うん。今度ドラマに出ることになった」


「ドラマ?」


「ちょい役だけどね」


ノアールは少し照れたように笑う。


「ドラマは久しぶりだから。歌みたいにうまくいくか少し心配」


遊園地ライブでは自信を取り戻せた。


けれど、ドラマはまた別の世界だ。


「最近のノアールなら大丈夫だよ」


ソレイユが言う。


「遊園地の時、本当に良かったもん」


ルミエールもうなずいた。


「ええ。今のノアールなら大丈夫です」


ノアールは二人を見て、それから笑った。


「そうだね。ありがとう」


その笑顔は、遊園地ライブの日より自然に見えた。


食事のあと、ルミエールは自室へ戻った。


机の上には、事務所から持ち帰った資料がまだ広がっている。


続きを確認しようとした時、タブレットに通知が入った。


ブランシュからだった。


『ルミエールさん、最近元気にしていますか?


遊園地ライブ、成功したと聞きました。おめでとう。


忙しいと思うけれど、今度時間がある時に、お茶と買い物に行きませんか?』


ルミエールは少しだけ肩の力を抜いた。


最近は予定を詰めることばかり考えていた。


次のイベントも、次の演出も大切だ。


けれど、仕事ではない時間も必要なのかもしれない。


『ありがとうございます。


ぜひ、お茶と買い物に行きたいです』


そう返信を送る。


その直後。


もう一つ通知が届いた。


今度は祖父からだった。


『遊園地ライブ、成功したようだね。


うちのロボットたちも活躍しているようで何よりだ。


おかげで、ロボットについての問い合わせや発注が少しずつ増えてきているよ。


ありがとう、ルミエール。


近いうちに、一度会社へ来てくれないか』


ルミエールは画面を見つめた。


三人の歌を支えるために動かしていた猫型ロボットが、少しずつ別の場所へもつながり始めている。


『ありがとうございます。


予定を確認して、会社へ伺います』


返信を送り、ルミエールは机の上の資料へ視線を戻した。


この時の三人は、まだ知らなかった。


こうして同じ食卓を囲み、互いの予定を話し合える時間が、しばらく遠ざかっていくことを。


ソレイユは、悠斗との距離を守ろうとしている。


ノアールは、これから始まるドラマの仕事に不安を抱えている。


ルミエールは、次のステージとロボットの可能性を広げようとしている。


それぞれの場所が、少しずつ動き始めていた。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。


今回は、遊園地ライブ後に動き始めた三人それぞれの仕事や状況を、ルミエール視点で描きました。


ノアールはドラマの仕事へ。

ソレイユは悠斗との距離を考えることに。

ルミエールは次のステージと、祖父の会社のロボットの広がりへ向かいます。


本編『黒猫ノアールのステラ☆シンフォニー』第62話で起きていた出来事を、ルミエールはこの時点ではまだ詳しく知りませんでした。

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