表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/60

第51話 ロボットの先にある歌

初めてのショッピングセンターライブ。


たくさんの人が足を止めてくれました。


けれど、視線の先にあったのは猫型ロボットでした。


ノアールの歌を、どうすればもっと届けられるのか。


その夜、ルミエールたちは次のステージに向けて話し合います。

ルミエールの家の広い浴室には、温かな湯気が満ちていた。


大理石のジャグジーに張られた湯が、細かな泡を立てている。


窓の外には、夜の庭と街の灯りが見えた。


昼間のショッピングセンターのざわめきが、まだ耳の奥に残っている。


子供たちの声。


スマホを向ける大人たち。


猫型ロボットへ集まった視線。


そして、その中で歌っていたノアールの声。


ルミエールは湯に肩までつかりながら、静かに息を吐いた。


ソレイユは、いつものようにはしゃがなかった。


広いお風呂を見れば真っ先に声を上げそうなものなのに、今夜は天井を見上げたまま黙っている。


ノアールも、湯の中で膝を抱えるようにしていた。


三人の間に、泡の音だけが流れる。


「……悔しい」


最初に口を開いたのは、ソレイユだった。


その声は小さかったけれど、はっきりしていた。


「人は集まったよね。ちゃんと足を止めてくれた。子供たちも、大人の人も」


「ええ」


ルミエールは頷いた。


「猫型ロボットは、とても注目されていたわ」


「うん。そこは成功だったと思う」


ソレイユは湯の中で両手を握る。


「でも、歌を聴いてくれてたかって言われたら……ちょっと違った」


ノアールの猫耳が、わずかに下がった。


「私の歌、届いてなかったのかな」


「そんなことはないわ」


ルミエールはすぐに答えた。


強く言い切りすぎると慰めに聞こえる。


だから、少しだけ言葉を選んだ。


「ノアールの歌は、ちゃんと広場に響いていた。ただ、みんなの目がロボットに集まりすぎていたの」


ノアールは湯面を見つめたまま、黙っている。


ルミエールは、昼間のステージを思い出した。


黒猫型ロボットのドラムが動くたび、子供たちが歓声を上げた。


白猫型ロボットのDJが光に合わせて耳を動かすと、大人たちがスマホを構えた。


ピンクリボンの猫型ロボットがベースを弾けば、通りすがりの人まで足を止めた。


それは確かに成功だった。


けれど、ノアールの歌へ視線を移す仕組みが足りなかった。


ルミエールの中に、祖父の言葉が残っていた。


技術は人を振り向かせる。


けれど、振り向いた人を何へ導くかは、また別の設計。


その意味が、今なら分かる気がした。


「今日の問題は、ロボットを使ったことではないと思うわ」


ルミエールが言うと、ソレイユとノアールが顔を上げた。


「ロボットは、人を集めてくれた。私たちだけでは立ち止まってもらえなかった人たちも、足を止めてくれたもの」


「うん」


ソレイユが頷く。


「足りなかったのは、その後ね。ロボットを見てくれた人たちを、どうやって歌へ引き込むか。そこを考え直した方がいいと思うの」


「歌へ引き込む……」


ノアールが小さく繰り返した。


「たとえば、次の曲は子供たちも参加できるものにするのはどうかしら」


「参加?」


「手拍子を入れたり、掛け声を入れたり。見ているだけじゃなくて、一緒に声を出せる曲にするの」


ソレイユの表情が、少し明るくなる。


「それ、楽しそう。子供たちに『一緒にやってね!』って言う感じ?」


「ええ。歌のおねえさんみたいに、ステージから声をかけるの」


「歌のおねえさん!」


ソレイユはその言葉に反応して、身を乗り出した。


「私、そういうのやってみたい。子供たちと一緒に手拍子したり、簡単な振り付けをしたり!」


「ソレイユには向いていると思うわ」


ルミエールは微笑んだ。


「明るく声をかけられるし、子供たちも安心すると思う」


「でも、ノアールが真ん中だよ」


ソレイユはすぐにノアールを見た。


「ノアールの歌を聴いてもらうために、私たちが周りを盛り上げるの」


ノアールは少し驚いた顔をした。


それから、湯の中で指先を動かしながら考える。


「……私も、声をかけられるようになりたい」


「ノアール?」


「今日、子供たちがロボットを見て笑ってたから。あの子たちに、私から『一緒に歌って』って言えたら……もっと近くに来てもらえるかもしれない」


その言葉に、ルミエールの胸が温かくなった。


ノアールが、自分から次のステージをよくしようとしている。


初ライブの悔しさは、ただ落ち込むだけのものでは終わらなかった。


「ええ。次はそうしましょう」


ルミエールは頷いた。


「二曲目は、子供たちも参加できる歌。ロボットは目立たせるためだけに動かすのではなく、手拍子や掛け声の合図を出す役にする」


「黒猫のドラムが、手拍子のリズムを出すとか?」


ソレイユが言う。


「そうね。白猫のDJはサビ前に音で合図を出せるわ。ピンクリボンのベースは、掛け声のところで動きを大きくしてもいい」


ルミエールの頭の中で、三体の配置が組み替わっていく。


ロボットを主役にするのではなく、歌へ入る入口にする。


それなら、今日集まった視線を次へつなげられる。


ノアールは、少しだけお湯から顔を上げた。


「歌詞、考えてみたい」


ソレイユが目を輝かせる。


「ノアールが?」


「うん。全部は無理かもしれないけど、子供の頃に楽しかったことなら書ける気がする。黒猫のアニメを作りたいって思った時みたいに、何か出てくるかもしれない」


ルミエールは、ノアールの声を静かに聞いた。


以前のノアールなら、こんなふうに自分から言えなかったかもしれない。


今は違う。


小さな声でも、前へ向いている。


「いいと思うわ。ソレイユの恋の歌とは違う、ノアールの中にある楽しい記憶を使いましょう」


「私も手伝う!」


ソレイユが勢いよく言って、湯が少し揺れた。


「明るくて、子供たちが真似しやすい歌にしよう。猫のポーズとか入れても可愛いかも」


「猫のポーズ……」


ノアールが少し照れた。


「恥ずかしいけど、子供たちと一緒ならできるかも」


「絶対可愛いよ!」


ソレイユの声に、ノアールは小さく笑った。


その笑顔を見て、ルミエールも肩の力が抜けた。


初ライブは、思い描いていた形とは違った。


けれど、次に直す場所は見えている。


それだけで、今夜の湯気は少し優しく感じられた。


風呂から上がると、三人はリビングへ移動した。


ソレイユは髪を乾かしながらスマホを見て、小さく声を上げる。


「あ、ゆうとからだ」


画面を見たソレイユの頬が、お風呂上がりとは違う色に染まった。


「何て?」


ノアールが聞く。


ソレイユは少し照れながら、メッセージを読み上げた。


「お疲れ様。今日のライブ、良かったよ。少し遠くに行っちゃったみたいで寂しいけど、応援してる。手伝えることがあったら言って、だって」


読み終えると、ソレイユはスマホを胸に抱いた。


「最近、部活に全然行けてなかったから……ゆうと、寂しかったんだと思う」


ルミエールはハーブティーをカップに注ぎながら、少し考えた。


アニメ同好会。


ノアールの居場所として始まった場所。


今は音楽活動に時間を取られているけれど、あそこには悠斗と桐谷君がいる。


二人の意見があれば、次のライブも別の角度から見直せるかもしれない。


「週に一度は、部活に顔を出しましょう」


ルミエールが言うと、ソレイユが顔を上げた。


「本当?」


「ええ。次のライブに向けて、チラシやSNSの宣伝も考えたいわ。子供たちが楽しめるステージにするなら、同好会のみんなにも相談してみましょう」


「それいい!」


ソレイユの声が明るくなった。


ノアールも頷く。


「私も、聞いてみたい。子供たちがどんな歌なら楽しいか」


「それに、サイン会もできるかもしれないわね」


ルミエールが言うと、ノアールが少し目を上げた。


「サイン会?」


「ええ。今日ロボットを見てくれた子供たちが、次も来てくれたら、歌の後に短いサイン会をするの。チラシやカードは、同好会でデザインを相談できるかもしれないわ」


ソレイユが手を叩いた。


「いいね! 歌って、一緒に手拍子して、最後にサインカードを渡すの!」


「カードに猫型ロボットの写真やイラストを入れたら、子供たちも喜ぶかも」


ノアールが言う。


「そうね。今あるロボットを、どう見せるかを考えましょう」


ルミエールはテーブルにノートを広げた。


新しく作るものばかりではない。


すでにあるものを、どう並べるか。


どう動かすか。


どう歌へつなげるか。


それが次の課題だった。


ノートの上に、ルミエールは短く書き込む。


二曲目。


子供向け。


手拍子。


掛け声。


ロボットの合図。


ノアールの声。


ソレイユの呼びかけ。


ルミエールの構成。


文字にすると、次のライブが少しだけ近くなる。


「まずは、部活で相談ね」


ルミエールが言うと、ソレイユはスマホをそっと伏せた。


「……次に部活へ行ったら、ゆうとにもちゃんと話す。寂しい思いをさせてたことも、これから手伝ってほしいことも」


「ええ。その方がいいわ」


ノアールも静かに頷いた。


「私も、みんなの前で次の歌のことを話してみる」


ルミエールは二人を見た。


昼間、ステージの上で感じた悔しさは、まだ消えていない。


けれど、今はその悔しさが次の形へ変わり始めている。


窓の外には、夜の庭が広がっていた。


ショッピングセンターで足を止めてくれた人たち。


ロボットを見て笑っていた子供たち。


次は、その子たちが一緒に声を出せるように。


次は、ノアールの歌が届くように。


ルミエールは温かいカップを両手で包み、ノートにもう一つだけ書き足した。


二回目のライブ。


そこから、LUMISORA☽の本当の工夫が始まる。

第51話までお読みいただき、ありがとうございます。


初ライブでは、猫型ロボットに注目が集まりました。


ルミエールたちはその結果を受け止め、二回目のライブに向けて、子供たちも参加できるステージを考え始めます。


次は、アニメ同好会の仲間たちにも相談しながら、新しい歌と新しい見せ方を作っていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ