表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/61

第37話 LUMISORAのはじまり

今回は、ノアールが学校に復帰する前、ルミエールとソレイユが別荘で話し合っていた作戦会議の場面から始まります。

 ――数日前の話。


 別荘のリビングで、ルミエールはノートパソコンを開いていた。


 画面には、ネコノミヤ学院の部活動一覧が表示されている。


 向かい側では、ソレイユがクッションを抱えながら、画面をのぞき込んでいた。


「ノアールが学校に戻れたとしても」


 ルミエールは、画面を見ながら言った。


「放課後に行く場所がないと、また一人になってしまうかもしれない」


 授業中は、隣にいられる。


 昼休みも、声をかけられる。


 けれど、放課後は違う。


(放課後の居場所がいる)


 ソレイユは、少し考えてから言った。


「美術部は?」


「あるわ」


 ルミエールは画面をスクロールした。


「でも、もう輪ができていると思う。今のノアールが入るには、少し難しいかもしれない」


「油絵っぽい空気だもんね」


 ソレイユが、少しだけ顔をしかめた。


「悪くはないんだけど、入りづらい感じ」


「うん」


「じゃあ、作っちゃう?」


 ソレイユが顔を上げた。


「最初から、ノアールの居場所になる場所」


 ルミエールは、少しだけ手を止めた。


「アニメとか、マンガとか、推し活とか。そういうものを隠さず話せる場所がいいと思う」


「いいじゃん」


 ソレイユの声が明るくなる。


「オタク活動を、明るくやる場所」


「ええ」


 ルミエールはうなずいた。


「でも、私が言うと少し硬くなるかもしれない」


「そうかな?」


「ソレイユが明るく誘ってみて」


 ソレイユは、自分を指さした。


「私?」


「うん。ソレイユが言えば、空気が軽くなる」


 ソレイユは、机に肘をつく真似をした。


「ねえ。部活、作らない?」


 ルミエールは小さくうなずいた。


「それでいいと思う」


「でも、最後に決めるのはノアールだよね」


「うん」


 ルミエールは、ノートパソコンの画面を閉じた。


「名前も、部長も、ノアールがいい」


「ノアールが決めた場所なら、ノアールの居場所になるもんね」


「ええ」


(決める経験を、ノアールに渡す)


 ソレイユはクッションを抱え直した。


「じゃあ、放課後に言うね。私が明るく誘う」


「お願い」


 ルミエールは静かに答えた。


 まだ何も始まっていない。


 けれど、放課後の居場所だけは、先に用意しておきたかった。


 


 ――そして、ノアールが学校に戻ってきた日の放課後。


 教室のざわめきが、少しずつ遠のいていく。


 帰る生徒。


 部活へ向かう生徒。


 廊下で友達を待つ生徒。


 その中で、ノアールはまだ席に座っていた。


 机の端には、黒いペンケース。


 金色の猫と三日月が、放課後の光を受けて静かに見えていた。


 ソレイユが、机に肘をつく。


「ねえ。部活、作らない?」


 ノアールが顔を上げた。


 ルミエールは、隣で静かに様子を見る。


(ここから)


「この学校、美術部はあるけどさ」


 ソレイユは、数日前に話した通りに肩をすくめた。


「油絵っぽい空気で、もう輪ができてるじゃん。入りづらいよね」


 ノアールは、小さくうなずいた。


 その反応を見て、ルミエールは続ける。


「だったら、作ればいいわ。最初から」


 ノアールが、ルミエールを見る。


 まだ、信じていない顔だった。


 ソレイユは、少し楽しそうに笑う。


「アニメ同好会!」


「……アニメ?」


「そう。アニメも、マンガも、推し活も」


 ソレイユは、まっすぐ言った。


「オタク活動を、明るくやる場所」


 ノアールは、すぐには返事をしなかった。


 ありえない。


 そんな顔をしている。


 でも、拒んではいない。


(隠さなくていい)


 ルミエールは、ノアールのノートの端を見た。


 小さな落書きがある。


 猫だった。


 隅に描かれているのに、ちゃんと形になっている。


「隠さなくていいわ。形にしていい」


 ノアールは反射的に手で隠した。


 けれど、すぐにその手を止めた。


 ソレイユが、紙とペンを差し出す。


「ねえ、最後に決めるのはノアールね」


「提案は私たちが出す。でも、決定は部長がするの」


「……私が、部長?」


 ノアールの声が小さく揺れた。


 ルミエールはうなずいた。


「あなたが決めた名前なら、守れる」


 ノアールは、差し出された紙を見た。


 それから、シャープペンを持つ。


 黒い軸の金色の文字が、指先の中で静かに光った。


 少しの間。


 ノアールは、紙の前で迷っていた。


 ルミエールも、ソレイユも急かさない。


 やがて、ノアールの手が動いた。


『LUMISORA アニメ同好会』


 ソレイユが、ぱっと笑った。


「決まり!」


 ルミエールは、紙に書かれた文字を見た。


 LUMISORA。


 ルミエールとソレイユの名前が入っている。


 けれど、その名前を書いたのはノアールだった。


(これで、始められる)


 ルミエールは静かに言った。


「部長は、ノアール」


 ノアールは、まだ紙を見つめている。


 たった一行。


 けれど、それはノアールが自分で書いた場所だった。


 放課後の教室に、少しだけ新しい空気が流れた。


 まだ部員は三人だけ。


 申請も、これから。


 それでも、ノアールの居場所は、確かに形になり始めていた。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ