第104話 それぞれのクリスマス
ホワイトクリスマス・リサイタルを終えたあと。
ブランシュとルミエールは、それぞれのクリスマスの夜を過ごします。
ホワイトクリスマス・リサイタルを終えたあと。
ブランシュは、スターリングさんの息子と並んで会場を出た。
街には、クリスマスのイルミネーションが輝いている。
白や金色の光が並木を彩り、道を歩く人々を明るく照らしていた。
「今日は、本当に素晴らしい演奏でした」
「ありがとうございます。最後まで聴いてくださって嬉しかったです」
ブランシュは、彼から受け取った花束を大切に抱えていた。
「ルミエールさんとの演奏も、とても素敵でした」
「ええ。ルミエールさんと一緒にピアノを弾く時間は、私にとって大切な時間なの」
二人は話しながら、予約していたレストランへ向かった。
店内には大きなクリスマスツリーが飾られ、窓の外には冬の街の光が広がっている。
席へ案内されると、二人は向かい合って座った。
料理を楽しみながら、リサイタルのことや仕事のことを話した。
彼は、ブランシュとよく似た色の瞳で彼女を見つめながら、その話に熱心に耳を傾けていた。
よく似た色の瞳が合うたびに、ブランシュは少し照れながらも、お見合いの日より自然に自分のことを話せるようになっていた。
食事が終わるころ、彼が小さな箱を取り出した。
「ブランシュさん。こちらを受け取っていただけますか?」
「私にですか?」
「クリスマスプレゼントです」
ブランシュが箱を開けると、中にはホワイトゴールドのネックレスが入っていた。
細かなダイヤモンドがいくつも飾られ、店内の光を受けて上品に輝いている。
ひと目で高価なものだと分かる、華やかで洗練されたデザインだった。
「とても素敵です……」
「あなたに似合うと思って選びました」
「ありがとうございます。大切にします」
ブランシュは、しばらくネックレスを見つめていた。
自分のことを考えながら選んでくれた。
そう思うと、胸の奥が温かくなった。
レストランを出たあとも、彼はブランシュの歩く速さに合わせて隣を歩いた。
やがて、二人を乗せた車がブランシュの家の前に到着した。
彼は先に車を降り、ブランシュを玄関まで送った。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
別れの時間が来た。
けれどブランシュは、すぐに家へ入ることができなかった。
もう少し、この人と一緒にいたい。
できることなら、このまま二人でクリスマスの夜を過ごしたい。
そんなことを思ったのは、初めてだった。
けれど彼は、ブランシュとの距離を無理に縮めようとはしなかった。
「今日は、ここまでにしましょう」
「……はい」
「あなたのことを大切にしたいと思っています。だから、急ぎたくありません」
その言葉は、ブランシュが想像していたものよりも、ずっと誠実だった。
自分の気持ちを優先するのではなく、ブランシュを大切にすることを選んでくれた。
「おやすみなさい、ブランシュさん」
「おやすみなさい」
彼の車が見えなくなるまで、ブランシュは玄関の前に立っていた。
真面目で、誠実で。
自分を大切にしてくれる人。
ブランシュは、彼のことをさらに好きになっていた。
そのころ。
ルミエールは、スターリング家の別荘へ帰っていた。
リビングへ入ると、ソレイユがソファに座り、テレビを見ていた。
画面には、イルミネーションに包まれた街や、クリスマスを楽しむ恋人たちの姿が映っている。
「ただいま、ソレイユ」
「おかえり。リサイタルはどうだった?」
「無事に終わりました。ブランシュさんは、スターリングさんの息子さんとデートへ行きました」
「いいなあ……」
ソレイユは、テレビに映る恋人たちを見ながら言った。
「クリスマスって、世の中の恋人同士が一緒に過ごす日でしょ?」
「そう言われることも多いですね」
「私も悠斗と過ごしたかったなあ……」
ソレイユは、寂しそうに息を吐いた。
「恋愛禁止って、いつまで禁止なのよ……」
好きな人がいるのに、堂々と会うことができない。
クリスマスだからといって、二人で出かけることもできない。
ブランシュの恋が順調に進んでいるだけに、ソレイユには余計に寂しく感じられるのかもしれない。
「そういえば、ノアールは今日は?」
「ノアールは今日もお仕事で、泊まりみたいです」
「クリスマスなのに?」
「復帰してから、お仕事が増えましたから」
ソレイユは、再びテレビへ視線を戻した。
「ブランシュさんはデート。ノアールはお仕事。私は悠斗に会えない……」
その時、ソレイユのスマートフォンに通知が届いた。
ソレイユはすぐに画面を開いた。
送ってきたのは悠斗だった。
『メリークリスマス。今日は会えなかったけど、来年は一緒に過ごせたらいいな』
短いメッセージだった。
けれど、ソレイユは何度も読み返していた。
「悠斗さんからですか?」
「まあ……そうだけど」
ソレイユは平静を装っていたが、先ほどより嬉しそうだった。
その時、今度はルミエールのスマートフォンに通知が届いた。
「私にもメッセージが来ました」
送ってきたのは、桐谷だった。
ルミエールがメッセージを開くと、画面いっぱいに雪が降り始めた。
小さなロボットサンタが、プレゼントの箱を抱えて歩いてくる。
箱が開くと、中から歯車と星が飛び出した。
歯車と星は画面の中をくるくると回り、一つの大きな雪の結晶を作っていく。
最後に、画面の中央へ文字が浮かび上がった。
『Merry Christmas, Lumière先輩』
その下には、メッセージが表示された。
『今年はロボットのことを教えていただき、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします』
「これ、メッセージというよりアプリみたいですね」
ルミエールが驚いていると、ソレイユが横から画面をのぞき込んだ。
「何これ。悠斗からのより、ずっと凝ってるじゃない」
「雪まで降りますし、ロボットサンタも動いています」
「得意だからって、ここまで作る?」
ルミエールは、もう一度最初から動画を再生した。
雪の降り方も、ロボットサンタの動きも、細かく作り込まれている。
「桐谷君は、やっぱりすごいですね」
ルミエールは、桐谷へ返信を送った。
『とても素敵なクリスマスメッセージをありがとうございます。動画もロボットサンタも、とてもよくできています。桐谷君は、やっぱりすごいですね』
送信すると、すぐに既読がついた。
返ってきたのは、短い言葉だった。
『ありがとうございます』
ルミエールは、桐谷が自分の技術を見せるために作ったのだと思っていた。
けれど、そのころ。
桐谷は自分の部屋で、届いたメッセージを何度も読み返していた。
ルミエール先輩に、すごいと言ってもらえた。
それだけで、何日もかけて作った甲斐があったと思えた。
別荘のリビングでは、ソレイユがもう一度ルミエールの画面を見ていた。
「それにしても、特別仕様すぎない?」
「桐谷君らしいメッセージだと思います」
ルミエールは、そこに隠された気持ちには気づかなかった。
ブランシュは、大切な人と過ごすクリスマス。
ソレイユは、会えなかった悠斗から届いた言葉を大切にするクリスマス。
桐谷は、言葉にできない気持ちを、自分の技術に込めたクリスマス。
それぞれの場所で、それぞれの想いを抱えながら。
クリスマスの夜は、静かに更けていった。
ブランシュの恋は、さらに深まっていきました。
そしてルミエールのもとには、桐谷から少し特別なクリスマスメッセージが届きました。




