第6話 : ナイルとレイン
何この人。
よく見たらボロボロだが着ているのはドレスの類であろう。貴族...?お金持ちの娘か?右手には綺麗な装飾が施された対魔銃。しかし
「その銃の弾、ないんだろ。」
「っ!!そ、そんな訳ないでしょ!!」
嘘つけ。上から聞いてたわ。
どうするどうする。考えろナイル。後ろには何も出来ない女の子。目の前には一国の最大戦力を当てなければ倒せなく、検知魔法を張り巡らせた魔獣。そして俺は気付かれないように忍び寄り殺す戦闘をする暗殺者。
...詰んでね?
どうみても勝てる気がしない。
「くっそ!とりあえず逃げるぞ!来い!」
俺は女の子の手を引っ張り走る。1人だと影移動でバレずに逃げれるのだがすると、標的は女の子に変わる。これでは本末転倒だ。
魔猿も追いかけてくる。が、幸いそこまで足が早くない。何とかいけるかもしれない!
...と思った矢先、魔猿が杖を構えた。
「ちょ!!?まずいわ!!黒ローブ!何でもいいから出せる限りの魔力で防御しなさい!!はやく!!」
「く、黒ローブ!?おれの名はナイルだ!...なんでその命令口調なんだよ」
「!!はやく!!!!」
今にも噛み付きそうなくらいで言ってくるのでおとなしく2人分の魔力防御をはった。全魔力を集中させて。
「強いとは言え、魔物の猿が撃つ魔法だぞ?何も1発にそんな全力を使って警戒しなくも...。」
魔猿の杖の先が光る。瞬間、ナイルは生まれて初めて死ぬかもしれない。という本当の恐怖に駆り出される。本気で防御壁に力を入れる。
ーー爆音。爆風。それはもう言葉に表せないほどの恐怖。圧迫感。少しでも防御壁の力を抜いていたら...想像しただけでも冷や汗が止まらない。
「...う...嘘だろこの威力...って.....は.....!!?」
魔猿が魔法を撃つ前、確かにそこは断崖絶壁の崖と、いくつかの横穴があった。しかし今はーー
何も無い。綺麗な更地なのである。
「なに...ごとなんだ.....!!?」
「あの魔猿のスキルよ。あの魔猿は自分の魔力を使い代わりに同じ量の空間を爆発させる。」
「デタラメだ.....。」
「事実よ。この障壁なかなかね助かったわ。」
女の子は初めてお礼を言う。
「今あの魔猿は全魔力を消費したから当分動けないわ。今のうちに逃げましょう」
「あ、あぁ...。」
というナイルも殆ど魔力は残っていない。せいぜいさっきの爆発を遠くからならギリ防げる障壁をはれる程度だ。
しかしさっきの魔猿。デタラメにも程がある。恐らく通常の魔力+杖で強化されているのであろう。あれはどう考えてもマトモに食らうとそこに存在するものは跡形も無く消えるだろう。
「あの魔猿は本当にやばいわ。強靭な肉体に強力な魔法。魔法使いのデメリットをなくした感じねでも、あいつは今全魔力を使った!逃げれるチャンスよ!」
しかし女の子の声は小さい。
.........分かっているのだ。さっき見えたのであろう。ダンジョンの出口に通じる道に出るためには俺が降りてきた崖を登るしかない。
しかし。今その崖は直線の直角のなんの凹凸もない壁なのだ。登ることは不可能に近い。
もうこのダンジョンから出るにはボスを倒し自動で帰れる転送に頼るしかないのだ。
しかし相手は魔猿である。ほぼ勝ち目は.....
「私...ほんと馬鹿だったんだわ。。」
女の子がポツリと話し出す。
「親のいい付けを破って、抜け出してきて...。でも、でも私は...間違ってないと思うのに...」
「でも私がいるせいでどれほどの迷惑がかかるのか...」
何か事情があったのだろうか?
女の子の声はどんどん小さくなっていく。
「私はもうここでいっそ死んでしまった方が...」
あーー。もう。
「うるせぇ!」
ポコンっ、俺は少し強めのデコピンをする
「っ〜〜!?痛いわね!!何するの!!私はこれでもm」
「うるせぇっつってんだろ」
ナイルは少し切れた口調で言う。
「っ.....。」
「あんなんに対峙して混乱するのもわかるし、諦めたくなる時だってある。でもなどうせ無理だと思うなら無理になるまで死ぬ気でやろうぜ?未練残して死にたくないっしょ?あと何?死ぬほうがいい?私が死んだら皆に迷惑がかからない?自惚れんな。生きろ。
自分の意思で決めて抜け出したんだろ?その意思を最後まで貫けよ!!」
かつての俺がそうであったように。生まれた時から決められていた職。しかもそれ程良いものではない内容。俺はどうしても違う職になりたかった。無理だと思ったがどうしてもなりたくて諦めずに粘った結果が暗殺者である。なった途端に手のひらは返され、酷い仕打ちも受けた。酷い生活を送らされた。でも後悔はしてないし、むしろ嬉しくある。人生何とかなるんだ。前を向いていれば。そんなことを思う。
「.......ふん.....。人間のくせに...生意気なのよ。」
何言ってんだこいつ....でもここでも強気なんだな。
「...でも...やるだけの事はやろうと思うわ!」
しかし腹は決まったようである。
「うっし!さっさとぶっ倒すか!あの糞さr」
ウグゥウォォォオォォォ!!!!
巨大な咆哮と共にあたりが爆発していく。
どうやら魔力消費を抑えて数で攻めてきたようだ。
「無駄に頭の回る猿のだな...行くぞ!女!」
「お、女ってあんた。私はヴァルシャース=レイン。......特別よ...レイでいいわ。よろしくねナイル。」
「おぅ!よろしくなレイ!あの猿ぶっ倒すぞ!」
「ふふ、気付かないのね。まぁいいわ!変な感じになるよりましだもの!」
「.....?変な事言ってると死ぬぞ?」
「余計なお世話よ!!!」
こうしてナイルとレイは魔猿に立ち向かう事になったのだ。
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「まず作戦を考えよう。アイツは正面から挑んでも勝てない。かといって奇襲も効き目は薄いだろう。アイツは体に検知魔法を張り巡らせてるからな」
「作戦?〝ガンガンいこうぜ〟でしょ?」
「アホ。死ぬわ」
「冗談よ、でもそれって裏を返せば検知魔法さえどうにかなれば不意打ちは成功するって事よね?」
「まぁ、そうなるな、しかしそれをどうするか...だけど.....。」
「多分あの検知は魔猿のスキルとか特性とかじゃなくて魔法を使って張り巡らせたものだと思うわ。なら必然的に魔力が無くなればあの検知も解けるはずよ」
「しかしどうやって魔力を無くすか...」
「私のスキルに魔力吸収があるわ。上手くアイツに触れれば奪い取ることができる」
「さわ、触らないといけないのか!?」
「そうよ。だからナイルには注意を引きつける役と動きを止める役をしてもらいたいの。」
正直困った。耐久力のある剣士や盾持ちならまだしも俺は回避優先で防御なんてペラペラだ。あいつの攻撃なんて当たれば即死だろう。別に回避しろ、ならまだ何とかなるかもしれないが〝動きを止めろ〟だ。なかなかな難題である。
「.....わかった.....精一杯やるが期待はするなよ」
「ふふっ、そんなのもとよりしてないわよ?」
「減らず口を.....はは!もうやるしかねぇな!」
ナイルは覚悟を決めた。グダグダ言っていたって仕方ない。自分が決めた道なのだ。険しいのは分かっていた。これは今後もぶつかるであろう壁の一つにすぎない。これを壊し、進んでいくしかないのだ。ナイルはそう自分に言い聞かせる。
「うっし。魔力吸収うまく頼んだぞ」
「任せなさい!触れればこっちのものなんだから!」
俺は横穴からゆっくり出る。魔猿はこちらに気付く。
「おい。糞猿野郎!!かかってこいやぁ!!!」
正面から真っ向勝負を仕掛けるEランクの暗殺者。ナイルは生まれて初めての、それもランクA-が戦うようなボスに戦いをに挑むのだった。




