第5話 : 頭魔猿
「んーー...?こんなに荒れてるものなのか?」
ナイルはもう洞窟の中層くらいまでは潜っていた。が、遭遇したのは湧きたての魔物ばかりで戦闘経験が少なく普通に狩れる。しかも壁や床があちこち穴が空いたりひび割れたり。
「もう当分使われてないとはいえ、これ程...?でも、これは自然現象と言うより、もっと人工的に見えるな。」
そう考えつつもナイルは初めての洞窟なのでそう気にすることなく進んだ。
一応言っておくと通常はこんな風ではない。洞窟は1日周期に修復される魔術式を魔王が施している。これはなるべく魔物が住みやすいように、だ。しかしその洞窟内に魔物以外がいるとその魔術式は作動しない。つい先日派遣された精鋭部隊は全滅。それ以降は誰も入っていない。と言うことはそれ以前から誰かがこの中にいる...と言うことになるのだがナイルは知る由もない。
「なーんだ。想像以上に手応えねぇなぁ...これじゃあランクも期待出来ねぇな。」
ナイルはぶつくさ言いながら湧きたての魔物を狩っていく。
「ボス徘徊してるんだっけなぁ...。どこで会うかわからないから気をしm.......うぉ!!?」
ナイルは思わず1歩引く。そこはいくつもの通路や壁があったのだろうがそこの範囲だけ何も無いのだ。入り組んだ迷路にいきなり広場が現れたようなものである。しかしこれはーー
「戦闘の跡...!しかも、両者相当強いな。」
そう、それは戦闘によってできた跡だったのだ。恐らく範囲魔法のようなものなのか辺り一面が爆発し空間が出来ていて無数もの斬り跡が深く出来ている。
「これ、もしかしてボスと誰かが戦ったのか.....ん!?って事はボスもう居ない!?あ!居ないからこんな荒れてんのか!?」
完全に勘違いだが勝手に自己解決してしまう。
「んだよ〜いねぇのかよ...まぁいいか、とりあえず奥まで行ったら帰るか.....はぁ...無駄足か...しかしここまで広い空間作れるとは両者すごい強さ何だろうなぁ...死闘ってのを繰り広げたのかな...ランク上がったんだろうなーそいつ。」
ナイルは知らないからわからない。故に恐怖していない。ある事情を知っている者ならここで逃げるであろう。そのある事情とは
〝王国の精鋭部隊は魔法は使わない〟
で、ある。それすなわち、広場に付いた斬り跡は恐らく精鋭部隊のもの。
しかしこの大きな広場自体は。
この大きく魔法で抉られた広場自体は。
それもナイルは知る由もないのである...。
「結局めぼしい魔物もなし...か...」
ーーパキパキ...パキ...ーー
(やめ...こな...来ないで...!!)
ーーパキパキパキーー...パキ...ーー
(く、くるな...!!くるな...!!)
「.....んぁ?なんか声しねぇか?この下か?」
ナイルは歩いていた道の横にあった崖下を覗き込む。
「.......なっ!!!?」
「や、やめなさい...!!こ、こないで!!!」
グォォォォオォオォッ...ォォォ!!
ナイルが見たのは崖下で体長は4m弱位だろうか杖を持った魔獣に同い年位の女の子が襲われている所だった。しかしこの女の子もなかなか強く、攻撃を避け、スキを見て対魔銃を撃っているが...
「傷一つつけれてねぇ。ってか...あれって、頭魔猿...の最終進化だと!!?」
そうこの洞窟のボス頭魔猿は進化する度に頭脳と魔力が強化されていく。通常の進化で一軍隊全員で相手をしても魔法で消し飛ばされてしまう。だから絶対に頭魔猿には杖や魔力強化は持たせない。奪われそうになったら宝でも折れ。これは暗黙の了解でもあった。しかし
「くっそ...馬鹿じゃねぇの。最終進化の上に.......あの杖、結構な業物だな。どっかの賢者殺して奪ったか。」
そう今ナイルの下にいる頭魔猿は最終進化+上級の杖。これは間違いなく災害レベルは最大。各国の最強クラスの魔物討伐者が駆り出されるレベルである。
しかしナイルはランクEの暗殺者。勝てる見込みはない。女の子は残念だが囮をやってもらおu...
「く、来るなっ!!この...私は...こんな所で!」
俺は暗殺者。非道に徹し闇に生きる職だ。
他のやつらなど知らん。
生まれた頃からやりたくもない訓練をやらされ、やりたい事を自分で決めると親からも、国からも見放された俺。その上、4年間誰の手も借りず、1人で生きてきた。もう人も殺した。こんな所で他人を助けて自分が危ない目にあう事もない。そう言うのは勇者の仕事なんだ。俺はこの隙に先に行かせてもらうz
「も、もう弾が...くっ!!せめて...せめて一撃でも...!!こんな所...で.......いや...!!」
「こ、こないで...こないで!!!!」
.....................あぁ!!!!!もう!!!!
ナイルは崖を飛び降りる。もう引き返せない。
ーードクンーー!
「っっ!!?痛ってぇ!?なんだ、胸が...。」
突然胸が、いや。心臓...?が痛んだが直ぐに痛くなくなる。ナイルはさほど気にはしなかった。
しかし、アレから逃げながら登るのは至難の業だろう。ただ。俺は帰って来るがな。こんな所で死ぬ訳にはいかない。ナイルは落ちながらスキルを唱える。
「ヘッドショット!!」
ナイルの手から鋼鉄の太い針が飛び出す。対魔獣用の大きさの武器だ。腹や足などの部位ならそこまでの威力だが頭に当たれば即死である。
頭魔猿は気付いていない。
もらったーーーー
「っ!!?」
魔猿はその見た目に似合わないスピードで気付いてなかったのに攻撃を避けてみせたのだ。
「...チッ...体に検知魔法纏ってんのか...無駄に芸達者な猿だな...。」
ナイルは素早く女の子の前に立つ。奇襲は失敗した。多分俺はもう逃げることは出来ない上にダメージを通せるかどうかもわからない相手に立ちはだかる。しかし時間を稼げは女の子は逃げれるんじゃないのか?俺は少しでもカッコよく見えてるだろうか。
...ったく。これは勇者の仕事だよ。暗殺者が敵と堂々と対峙するって.......おい。何やってんだ勇者!!仕事しろよ!
色々と余韻に浸りたいがもう無理なようだ。俺は女の子に声を掛ける。
「おい!俺がここは時間を稼ぐ!何とか逃げろ!」
あー、かっこいいかも。言ってみたかったセリフだ。女の子もこれで逃げてくr
「はぁ!!?何で私があなたの言うことなんか聞かなければ行けないの!?私だってやる時にはやるんだから!!!!」
何言ってんだこいつ。
どうやら俺はここで無駄死にするようだ。




