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勇者一家の長男は暗殺者に職業転換したようで!?  作者: 黒嶺 夜
第2章〜地炎龍討伐〜
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第22話 : 訓練の成果

「まずは基本的な説明からするよ。兄さんは特性で〝2種職ドゥメティエ〟を持っている。この特性は職を2つ持って使用することができる。正直な所、恐ろしすぎる特性だ」


ナイルは回復薬ポーションを飲み干し話を聞く。


「ただ.....兄さんには欠点...欠点と言うには大きすぎるものがある。わかるよね?」


「.....意識を失わなければ勇者職が発動しない上に.....ほぼ自我がない.....か。」


自我のないまま戦い、しかも戻ったとしてその戦った時の記憶すらないのだ。

故に言われなければなんの罪悪感も感じない、ただの魔王関連殺戮兵器と化すのである。


「ただ、もし自分で制御できるなら凄い力になる。地炎龍イフリートを討伐するのにもどうしても必要だと思う。正直暗殺職でどうにかなる魔物じゃないしね...。」


クルスもわかっている。どれだけ強大な敵に立ち向かおうとしているか。強固な応援者をどれだけ集めなければいけないか。どれだけ討伐難易度が高いか。

別に今じゃなくていい。別にそんなに急いで討伐に向かう必要も無い。しかしどっちにしろ魔王軍を殲滅するには避けては通れない強敵。

ここでナイルは自分の力を制御し、挑むのだ。


「.......あれ?そう言えばクルスは?勇者職何だよな?何が使えるんだ?」


そもそも勇者職を持つものが2人存在した例がないので勇者職に自体なっているかすらわからないのだが。


「ん?僕?〝もう一つの方の〟勇者職だよ?...ってあー。そうか、兄さんはわざと避けてたから勇者職について詳しく知らないんだね。勇者職には2種類あるんだよ」


勇者職 : 攻

・自分の魔力を消費して剣を生成したり、聖光のエンチャントを施したりできる。

・自分の魔力を消費し作る剣は〝宝剣エクスカリバー〟となるが、完全体にするには相当な力が必要。

・また、一種類だけ聖光の特大魔法を使うことができる。魔物系統のみに効く範囲攻撃魔法。


勇者職 : 防

・防御、回復、槍の使いに長けている。

・防御は勇者一家に受け継がれる勇者の盾。エクスカリバーでも破壊は困難。

・回復は回復魔法も使えるが素材さえあれば回復薬ポーションを生成可能。鍛えれば最上級も1人で生成できる。

・槍は自分の魔力を消費し、全てを貫くと言われる〝滅槍グングニル〟を生成できるが、完全体にするには相当な力が必要。


「...って感じかな?兄さんが勇者職の〝攻〟を受け継いだから必然的に僕は〝防〟だったんだよ」


「なんだよ、お前の方が使い勝手良さそうだな。」


「ははは...でも僕はまだグングニルが出せない...。まだ形だけだけどエクスカリバーが出せてる兄さんが正直羨ましいよ」


クルスは分が悪そうに笑う。


「ま!だから今からの訓練は僕も鍛えるよ!形だけでもグングニルは出したいしね!」


「そうだな...!俺もとりあえずは自我を保てるようにしたい...!」


「よし!じゃあ訓練を始めよう!!」


二人の士気は高まる。習得すれば必ず自分の力になる。キツくてもやるしかない。そう、どんなにキツくてもーーー


「じゃ、兄さん。とりあえず気絶して?」


「.....えっ?」



訓練内容

・ナイルが気絶し、魔王殲滅コマンドを引き出す。ナイルは自我を保ちながら制御できるように頑張る。クルスは盾で攻撃を防ぎながらグングニルを死ぬ気で出す。



「.....お前馬鹿だろ?」


「僕じゃないよ!?!?これ勇者一家に書いてあったコマンド克服法なんだけど!!」


「.....や、だってこれ...」


そう。一歩間違えれば大変な事になるのである。

もし、ナイルが自我を保てなかったら...?

もし、クルスがグングニルでナイルを殺してしまったら?

どっちにしろ兄弟で戦う時点でおかしいのである。


「ほんっと.....馬鹿げてるわ。」


「それは僕も同意だよ...。でも...やるしかない。」


「わーってるよ、わかってる。」


ナイルは覚悟を決める。クルスが盾を構える。


「必ず。制御してみせる。」


ナイルは持っていた短刀の柄で思いっきり自分の腹を突く。


「が...っはっ...」


ナイルの視界は強烈な痛みと共に暗転していく。


ーーーーーーがが.....ピピ.....


ードクンッーーー


「魔王殲滅コマンド実行開始。腹部自動修復ーーー完了。ただちに行動を開始する。」


そう言うと気絶したはずのナイルがゆっくりと立ち上がる。目は紅く染まり、髪は白に染まる。

心臓が早まる。血の流れが早くなる。あの血が。忌々しい血がナイルを駆け巡る。


「.....来たか。」


クルスが盾を構え、言い放つ。


「俺の名はクルス!お前!魔王殲滅コマンドを滅ぼしに来たものだ!!」


「...ピー。敵ト認識しマした。直チにーー」


刹那、ナイルの魔力が膨大に増える。爆風が巻き起こり、ナイル中心に巨大なクレーターが出来上がる。


「殲滅しマす。」


「...っっ!!行くぞ!!兄さん!!!」


クルスは盾を構え、突進する。


一方ナイルは短刀を取り出し聖光のエンチャントを施す。


(やっぱり兄さんは最適化されてるコマンド状態でもまだエクスカリバーを出せないみたいだ...)


「おっらぁ!!!」


クルスは盾で思い切りナイルを叩いたーーーーと思ったがそこにナイルの姿はない。


「まさか!?この速度で影にはいっt.......ガッハッ.........!!?」


クルスがあたりを見回した瞬間、突如〝盾の影から〟出てきたナイルに腹部を斬られる。


「.....くっ.....スキル、回復ベーフ。まさか兄さんの装備って暗殺職に適応...じゃなくて兄さん...ナイル自身に適応なのか.....作った人は恐ろしい天才だよ......。」


クルスが想像とは違った現実に頭を悩ませている時、コマンドも困っていた。


「エンチャント聖光デ斬っタのニ死滅しなイ...?敵ハ魔物じャナイ...?.........なラ属性ヲ変えルだケ。特性。2種職ドゥメティエ発動。属性〝影〟ヲ引用。」


そう言うとナイルの持っている短刀に影のエンチャントが施されていく。装備と訓練で底上げされ、鍛えられた影の属性が。


「やっぱりあのコマンド...厄介だな...自我があったら2つの職を行き来できないのに...。てかあの影属性、厄介すぎる...普通に斬られたら回復してもしきれるかどうか...。」


クルスは覚悟を決める。これは命の取り扱いなのだと。


「さっさと戻ってこい!!兄さん!!そんなコマンドに負けてないで!!!」


「敵捕捉。直チに殲滅。」


こうして壮大な兄弟対決が始まったのだった。



⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅



一方その頃、クルスの、家に戻ったレイは、2人が何をしているか正直気になって仕方なく、全然休めてなかったのだ。おおかた予想はついている。多分勇者職についての訓練をなのだろう。しかし頑張っているのはナイルとクルスである。私は基本を練習しただけ。これじゃあナイルの足でまとい。私だって、同じパーティとして、同じ位置、隣にーー立っていたい。


「.....やらなきゃ。」


そう言うとレイは対魔銃を持ち、クルスの家を飛び出し、ひとり訓練をするのだった。



⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅



「がっは...!やっぱ想像以上に...っ、強いな...兄さん!!」


クルスはナイルの影にエンチャントを纏った短刀を盾で防ぎ、カウンターを入れようとする。


「まだ...まだ目!覚めないの!!兄さん!!!いい加減に.....しろっ!!!!!」


クルスは盾でナイルを弾き倒す。


「くっそ...攻撃手段がこれしかないのがキツイ...!はやくグングニルを出せるようにならないと...!」


「自己修復完了。戦闘開始。」


瞬間、倒れていたはずのナイルが目で追えない速度で詰め寄り、影を纏った短刀で斬りかかってくる。


「...っ!!その短刀でどこまで威力出せるんだよ...!」


クルスは盾で防ぐがダメージがない訳では無い。貯蓄されたダメージはジワジワと効いていた。


「こうなったら...あの短刀を壊してしまうか...!」


クルスが盾をかまえる


「斬り...刻ム!!」


ナイルが距離を詰め短刀を盾にぶつけーーー


「スキル!!カウンター!!!」


クルスは絶妙なタイミングで盾を自分から押し出す。ナイル自身の攻撃の威力とクルスの攻撃の威力が同時にぶつかり、ナイルの短刀が砕ける。


「おっし...!うまくいった!!さすがの影エンチャントも短刀じゃあ耐えれなかったか!」


「.....影エンチャント...敵ノ盾を破壊不可能.....。」


「おー?諦めるのか...?コマンド!こっちはまだグングニル出せてないんだ!まだ耐えてくれy」


「エクスカリバー強制抽出ヲ開始すル。」


「...!!!!それは!!だめだ!!」


クルスが叫ぶ。

もしコマンドの方が先にエクスカリバーを出せるようになってしまってはもう勝つ手がない。

故にーーー兄さんは戻ってこれない。

そうしたらーー?あの兄さんは...?僕の憧れる兄さんは?パーティの仲間...待たせているあの女の人はどうなる...?僕のせい...?僕が.....兄さんを殺さなきゃいけないの.....?


「ぃ...ゃだ.....。」


クルスは今までの兄の記憶が溢れかえる。小さい頃から頑張っていた兄、憧れの兄。

手に力が入る。魔力が手に集中されているのがわかる。


「兄さんは.....兄さんは.....こんな所で!!!失っていい人じゃないんだぁあ!!!!!」


刹那、クルスの握っていた右手が光る。聖光が1ヶ所に集まり、渦を成していく。次第に自分の魔力が具現化される。辺り1面に聖光がはしる。

クルスの右手にはある武器が握り締められていた。そうーーー

〝滅槍グングニル〟が。


一方、ナイル.......コマンドは聖光を急にくらい悶えていた。



⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅



あーーーーーー。あーーーー?

ここはどこだ.......?

周りは.....真っ暗.....んーー?おれ.....浮いてんのか?よくわかんねぇけど.....まぁ悪い気はしねぇ所だなぁ.....。


(ーーーーーー!ーー!)


おょー?なんか聞こえるなぁ...

...ってか俺はなんでこんな所にいるんだーー?


(ー!!!ーーーー!!!ー!)


あぁ〜ん?

何言ってるか分かんないんだよねー...てか今意外と気持ちいいからさ...邪魔しないでよね...

.......うーーん。なんか...なんか忘れてるような気がするんだよねー。


(ーー!ーー!ー!ーーーーさん!!!)


.......ん?


(ーーーにーーー!ーーさん!!ーーー!)


.........???

にー...さん...?.....俺は.....?ここで.....何を.....??

...俺は...!?なんなんだ!?ここは!!?どこなんだ!?


「兄さんは.....兄さんは.....こんな所で!!!失っていい人じゃないんだぁあ!!!!!」


.........!!!!!!

クルス!!!!!そうか!!!!俺は!!!思い出したーーーーーーー


刹那ナイルの視界が眩しく光る。眩しいが.....何故か嫌にならない光でーー。


「クルス.....?」


「.....!!!!兄さん!!!!」


ナイルの意識は戻っていた。


「俺は...くっ、なるほど!遅くなったみたいだな!」


「無事に戻れたんだ!!よかった!!」


「...ってかそれ.....グングニルか!!?せっこ!!早すぎ!!」


「これは兄さんのお陰なんだけどね.....ありがとう.....う.....う?」


ナイルの意識は戻っている。が、目は紅く、髪は白い。


「コマンドは.....解けたんじゃ...?」


「ん...?俺もよくわからn!?うぉ!!?」


突然ナイルの体が動き出す。意識はナイルなのに体だけ動かされる。


「往生際の...悪いコマンドだ!!」


「兄さん...!!」


「手を出すなよクルス。これは、今からは俺自身の戦いだ。お前は盾構えて自分守ってろ!」


そう言いながらナイルの体は短刀を持ってクルスに走り出す。


「動かしてる気はないのに勝手に動く体ってのは.....気味悪いな.....。てかお前は誰を攻撃しようとしてるんだ。」


ナイルも思い出す。生まれた頃から厳しく訓練をさせられた日々。何故か何もしなくていい弟に苛立ちさえ覚えていたのだが、弟はそんな自分を尊敬してくれている。慕ってくれている。

あの頃のナイルはそれだけで...たったそれだけが訓練を頑張れる気概だった。


「自分を尊敬してくれてる奴に.....そんな奴に.....みっともねぇ事してんじゃ.....ねぇよ!!!!!」


ナイルは操られていた自分の右手を無理やり、力ずくに解除する。コマンドに、自分で打ち勝つ。


「おおっらぁ!!!!!」


ナイルは思いっきり短刀の柄を腹部に叩きつける。


「...!!!ピピ.....ガガ...ピ.......。」


ナイルの体は自由に動く。2種職ドゥメティエはしっかりと発動している。


「.....はっ.....はは...やった.....ぜ.....。」


「さすが兄さんだよ...!それでこそ兄さんだよ!」


「.....あったり.....前よ.....。んじゃ.....後...は頼んだ.....」


「安心して、全力で回復させるから」


「そりゃあ.....安心...だ.......な.....」


そう言ってナイルの意識は痛みに耐えきれず暗転したのだったーーーー。

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