#84 本気の勝負(2)
試合開始から5分弱。
お互いに1歩も譲らず均衡が崩れない。
大久保先輩がスリーを決めればこちらも大内先輩や東堂先輩が返し、北川先輩や海野先輩に攻撃が止められればすぐに白山先輩が意地でも止める。
そんな攻防が続き、もうすぐ試合時間の半分が過ぎようとしていた。
「ディフェンス! 絶対止めるわよ!」
ずっとトップにいる天王寺先輩の声が変わらず響く。
誰よりもコートに気を配り、誰よりも動き回っているはずなのにほとんど呼吸が乱れていない。
だんだんと息が上がってくる選手も出てくる中でこれとは、改めて思うが恐ろしくタフな人だ。
「…でも、こっちも負けられませんので」
試合の半分、そろそろこちらも動こうとしよう。
俺は今までと同じように東堂先輩と大内先輩に小さくアイコンタクト。
天王寺先輩はそんな俺の視線にまで敏感に反応してくる。
まるでドリブルを警戒せず、俺の視線からどこにパスが出るかだけに集中して守っている先輩。
確かに俺は今までずっとこの2人を攻撃の起点として使ってきた。
それはもちろん俺のマークをし続けている天王寺先輩も気づいているはずだし,そうなるように仕向けてきたつもりだ。
だからこそ,先輩は必要以上にパスを警戒する。
ドリブル突破はまず来ないだろうと,思考にほんの少しだけ隙が出来る。
恐らく,風花が相手だったらそれでも付け込めるような隙にはならないだろう。
パスに重点を置きながらも,最後までドライブも警戒してくるはずだ。
でも,先輩は決定的に違う。
――だって先輩は,俺がドライブインしたがらない理由を良く知っている!
「なッ?!」
「えッ?」
「ちょ…」
「おいおい!」
突然のドライブに天王寺先輩は一瞬反応が遅れた。
それを見た相手チームの面々はまさかといった表情で声を上げる。
それもそのはず。
俺はフェイントも何もいれず、はたから見たら不用意としか言いようのない形でゴール下へ切り込んだのだから。
普通の相手には通用しない方法だが、天王寺先輩だけは別だ。
先輩はあの練習試合の後の1対1の時から、俺が女子相手に本気でぶつかれない事を知っている。
練習で俺が極端なくらいパスしか出せない理由を,先輩だけが知っている。
「しまッ…」
だからこその奇襲。
下手な小細工を入れない,ただただ全速力でのドリブル突破が生きる。
「行かせるか!」
もちろんそんな奇襲はすぐに止められる。
でも,今俺の前に立っているのは天王寺先輩じゃない。
呆気無く抜かれた先輩のフォローに飛び出したのは火野先輩。
後ろからも天王寺先輩が迫っているのも分かる。
「…残念でした」
危機的状況ながら,俺は小さく笑みを浮かべて空いたスペースにパスを入れる。
そこにはまだ誰もいないが、このタイミングならあの人が取るだろう。
「ナイスパス」
予想通り、見事なタイミングで走り込んできた東堂先輩の手にボールが収まる。
先輩のマークをしていた火野先輩が慌てて戻ろうとするがもう間に合わない。
結果、先輩はフリーでシュート。
今日2本目となるスリーポイントシュートを危なげなく決めてみせた。
「落ち着いて1本取り返しましょう!」
すぐにボールを戻そうと海野先輩がエンドラインに向かう。
だが、これで終わりにはさせない。
「今です!」
俺の合図で全員が動く。
思いがけない奇襲で浮足立ったこの瞬間、次の手を仕掛ける。
「ッ!?」
オールコートのマンツーマンディフェンス。
ここぞという時の為に取っておいた奇襲その2だ。
「この…!」
「焦っちゃダメ!」
そして案の定、突然のオールコートプレスに慌てた北川先輩は焦ってパスを出そうとする。
最も近くにいる北川先輩に、こちらの思った通りだ。
「ナイスカット!」
北川先輩へのパスを読んでいた白山先輩が飛び出してパスを奪う。
そのままシュートに行こうとするが、そこはさすがの先輩たちだ。
咄嗟に状況を判断、北川先輩と海野先輩の2人がかりで白山先輩を止める。
2人が相手ではさすがの白山先輩も分が悪いのか、最後まで決めきれない。
「こっち!」
だが、こちらも黙って見ている訳では無い。
高野先輩が大久保先輩をスクリーンで止め、フリーになった大内先輩がパスを呼ぶ。
その声に反応して白山先輩が見事なパスを出し、
「ナイスシュート!」
綺麗な放物線を描いて飛んだ大内先輩のスリーポイントシュートが、音もなくネットを揺らした。




