#61 合宿への準備(1)
まず結論から言ってしまおう。
2次試験は想像以上に楽に終わった。
休憩中などを使って天王寺先輩たちが一昨年の状況を説明しただけで、大半の1年生は俺の味方になってくれた。
そこに俺からの差し入れを追加し、今まで迷っていた上級生はすぐに俺を認めてくれた。
それをきっかけに,残りの部員も「この料理が食べられるなら…」と次々と陥落。
ゴールデンウィークが終わった頃には、もう俺の合宿参加を反対する者はいなくなっていた。
「意外とあっけなかったなぁ…」
「だから言ったでしょ? 心配してないって」
ゴールデンウィーク明けの昼休み。
俺たちは変わらずいつものメンバーで屋上に集まっていた。
「そうだね~。でも、こんなに美味しい物が毎日食べられると思うと、多少の事は我慢出来るよね」
「うん。流石はハル」
箸を動かしながら風花と文香も頷く。
…なぜか、2人が持っているのは俺の弁当だけど。
「…俺の弁当は連休中だけじゃなかったのか?」
「そんな事より,忙しくなるのはこれからよハル君。4日間の献立を考えて,買い出しもしておかないといけないわ」
「…そうですよね~」
そんな事,と俺の発言が流されたのは納得がいかないが,先輩の言う事ももっともなのは確かだ。
4日分の献立を考える,というのは言う程簡単ではない。
その分の食材を一辺に買う,というのは更に難しい。
「ちなみに,途中で買い足しとかは出来ないんですか?」
「…えぇ,残念ながらね。行きと帰りは水瀬先生が荷物を運んでくれるから車があるけれど,それ以外の時間先生は学校に行ってしまうから」
「なるほど……」
確かに先生の車がないのなら,買い足しは厳しいよな。
………ん?
今何か引っかかったような…
「だから,なるべく簡単でたくさん準備できる物が良いわね」
「カレー! 私カレーが良い!」
「お昼は,おにぎりが食べたい」
「はいはい。じゃあ献立に入れておくわ。分かったわね,ハル君」
「え? あぁ,はい……」
「じゃあそれ以外は…」
勝手にどんどん話が進んでいるが,何か頭の引っかかりが消えない。
「……先輩,ちょっと良いですか?」
「…え? 何?」
なので,少し話の腰を折ってでも俺は口を挟んだ。
どうしても聞いておかなければいえない事があるのだ。
「さっきの言葉,もう一回言ってもらって良いですか? その,何で買い足しができないかっていう…」
「だからそれは,行き帰り以外は先生の車が無いからって―――」
「―――行き帰り以外,先生の車が,無い」
俺はゆっくりと反復する。
先生の車は,行き帰りの送迎しか無い。
「…先生は,学校に行かないといけないから」
「そりゃそうよ。水瀬先生はあくまで男子バスケ部の顧問だもの。それ以外の部活の合宿には参加できないでしょ?」
「他の部活の顧問では,合宿に,参加出来ない……」
そこまで聞いて,ようやく理解した。
理解してしまった。
そしてこれは,本来ならば合宿に参加するか否かを決める前に確認しておかなければいけないはずの重要な部分だったのだ。
「…あの……」
自然と声が震える。
頭の中で,もうどうしようもないという諦めと,そんな訳は無いというかすかな抵抗がせめぎ合う。
だが,絞り出すように尋ねた俺に,先輩は無邪気な表情でさらっと死刑宣告をした。
「……もしかして,合宿中の4日間,合宿所にいる男って,俺だけだったり,しません…よね……?」
「え? 今さら何言っているのよ。
木下先生がいないのだから,そうに決まっているでしょ」
合宿開始まで,残り3日……




