#55 風花
「何だよ,まだやんのか?」
今度は文香とハル君と3人でコートに入る。
ボールを持つのは,私だ。
「お? 今度はお前が相手か」
正面の相手が薄ら笑いで私を見る。
こちらを下に見て,上から目線の男子の嘲笑。
今でもよく覚えている。
あの時の,みんなの表情だ。
それまですっと友達だと思っていた,みんなの……
「風花! 無理はするなよ!」
右サイドから,ハル君の声が聞こえる。
私,本当は知ってたんだよ。
毎日鍵当番で誰よりも遅くまで学校に残ってるって。
「風花。落ち着いて」
左サイドからは文香の声。
私,本当は知ってたんだよ。
毎日この時間に文香がこの公園を走ってるって。
教えてくれたのは,文香だったもんね。
本当は,ここでハル君と文香と3人で話がしたかった。
……私の迷いを,2人に聞いて欲しかったんだ。
昔の話をした時から,文香はずっと言ってくれてた。
自分に負けるな,いつかは勝たなきゃダメだ,って。
その時は考えもしなかったけど,今日ハル君のプレイを見て,私は悔しかったんだ。
私も,まだ戻れるならそっちに行きたいって思っちゃう程,ハル君のプレイは輝いてた。
あんなに嫌がっていたのに,たったそれだけの理由で心が動いちゃうなんておかしいよね。
でも2人なら,そんな私を笑わないで,真剣に話を聞いてくれるって信じてたんだ。
「ほらよ,さっさと始めようぜ」
声と一緒にボールが返ってくる。
正面のディフェンスに惑わされないように,落ち着いて味方の2人を見ると,ハル君にはゴール下にいたセンターの人が,文香にはもう1人がマークについている。
…本当はディフェンスだけじゃなくて,オフェンスも最初からこの形にした方が良かったんだよね。
あのハル君がそれに気づかない訳ない。
きっと,言ったらまた私が我が儘を言うから何も言わないでいてくれたんだ。
……私,全部知ってたよ。
ハル君の方が,私よりミドルシュートが上手い事。
文香が何でも教えてくれた,中学時代のハル君。
その中にあった。
天才シューターの影に隠れていたけど,ハル君もミドルシュートは得意だったって。
切り込んでいっても力負けする事が多かったから,中距離で戦える武器をずっと磨いてたって。
きっとハル君なら,ディフェンスが1人いたって私より上手くシュート出来たよね。
「風花!」
「うん!」
ボールを取りに来てくれたハル君にパスを出し,それを追いかけようとするセンターの人をスクリーンでブロック。
体格差はあるが,ほんの少しでも邪魔できればそれだけで十分。
一瞬フリーになったハル君はそのままゴール下へ切り込む。
すぐに私についていた人が追いかけるが,それが追いつく前にマークを外した文香にパス。
文香はボールを受け取ると同時にシュート体勢へ。
マークが戻って来る前にボールは文香の手を離れ,リングの中心をまっすぐに打ちぬいた。




