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ダンマネ!  作者: SR9
第一章 インターハイ編
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#56 大切な時間


「文香!」

「ん!」


 流れるようなパスが風花から文香へ。

 べストなタイミングでパスを受けた文香はそのままシュート。

 綺麗な放物線を描いて飛んだボールは,静かにネットを揺らす。


「ナイスシュート!」


 文香がチームに加わり,風花がガードとして活躍している今,目の前の相手はもう敵ではなかった。

 風花のパスはまだ万全ではないものの,こちらの意図した所にタイミング良く来てくれる。

 そのパスを受けて,文香のシュートも面白いように決まる。

 その陰に隠れる事で,俺のシュートも何とか決まり,得点が伸びる。

 

 攻撃がリズムに乗れば,守備にも良いリズムが生まれる。

 急に決まりだしたこちらのシュートに焦った相手の不用意なパスは,俺と文香で次々にカットしシュートまでは行かせない。

 そうなるとだんだんとパスをもらう為に相手センターがゴール下から離れる場面が多くなってくるので,リバウンドでもこちらが勝つようになってくる。



「くそ! もうやってられっかよ!!」


 そんな攻防がしばらく続き,最後に痺れを切らしたのは相手の方だった。


「おら行くぞ! こんなのに付き合ってても時間のムダだ!」

「お,おぅ」


 捨て台詞を吐きながらコートから出ていく3人。

 俺たち3人はそんな彼らを見て笑顔でハイタッチを交わした。


「よっしゃ!」

「私たちの勝ちだね!」

「楽勝だった」


 しばらく3人で勝利の余韻を楽しんだ後,最初に口を開いたのは風花だった。


「…色々,ありがとうね。2人共」

「別に。私は何もしていない。決めたのは,風花」

「そうそう。そんなに感謝されるような事は何もしてないよ」


 もちろん本心からの言葉だったが,風花はううん,と首を横に振る。


「私が変われたきっかけは,やっぱり2人のおかげだよ。だから,ちゃんとお礼を言わせて欲しい」

「風花…」

「ありがとう,ハル君。今日のハル君のプレイを見なかったら,私はきっと今でもぐずぐず言って2人を困らせていたと思う」


 そう言って俺に頭を下げた風花は,今度は文香の方を向く。


「文香も,ありがとう。文香がちゃんと言ってくれたから,私も決心がついたよ。文香が言ってくれなきゃ,きっと私はまだみんなに甘えていたと思う」

「………」


 ありがとう,と深く頭を下げる風花を,文香は何も言わずに優しく抱き寄せる。


「え? 何? いきなりどうしたのさ」

「良く,頑張った。これからきっと,風花は強くなるよ。一緒に,頑張ろう」

「あ……うん。一緒に頑張ろう,文香」


 そう言って抱き合う2人を見て,俺にはこの先の光景が鮮明に見えるような気がした。

 いつかきっと,チームのエースガードとエースシューターとして大舞台で活躍する2人の姿が。


 ――さすがに,その時にはもう俺はいなくなっているよな。


 そこまで考えて思い出す。

 そうだ,こんな時間がいつまで続くのかも誰にも分からない。

 極端な事を言えば,明日にも俺は部活に戻れる可能性だってあるのだ。

 

「………」


 いついなくなってもおかしくない,今だけのイレギュラー。

 そんな俺だからこそ,彼女たちの為にしてやれることもきっとある。


 これからは,もっと今を大切にしよう。

 こうしてみんなでいられる時間を,大切に―――



「せっかくだからハル君も一緒だ~!」

「ちょ,待て待てコラ!」

「全く,あなたって子は…」

「えへへ~。だって3人の方が楽しいじゃん」

「そういう問題じゃないだろ!」

「………」

「文香も何とか言ってくれよ!」

「…別に」

「おい!」

「あっはは~」

「……ふふっ」

「くっ…はははっ」


 肩を組んで笑いあう俺たちを,綺麗な月が静かに照らしていた。


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