#53 3対2(1)
「そら!」
威勢の良い声と共にネットが揺れる。
相手の3人目が出てきてから,何度連続で決められただろう。
そのくせ,こっちの攻撃はほとんど決まらない。
無理矢理投げたシュートが運良く決まる程度だ。
これではどうすることも出来ない。
ハル君も私も,全力でぶつかっているのにこうも歯が立たないのか。
「――ッ!」
その原因は分かっている。
攻撃をする私が,相手に尽く止められているからだ。
ゴール下までドライブインすればセンターに止められる。
ミドルシュートは苦手ではないけれど,ディフェンスに張り付かれた状態でも決められる程得意じゃない。
外せば確実に相手にリバウンドを取られる,というのもプレッシャーになり,ますますシュートの精度は落ちてしまう。
何とかこの状況を打開しようとしても,結果は悪くなるだけ。
ハル君は相手のディフェンスを躱してくれているけれど,パスをもらう私がこれじゃ何の意味も無い。
1対1じゃ絶対に負けないと思っていたのに,相手が2人になった途端にこれだ。
これじゃ,結局あの時と一緒じゃないか。
仲間に役立たずと言われていた,あの時と………
「どうした? こんなもんかよ1年」
目の前にいる相手に勝ち誇った表情で言われ,俺は悔しさに唇を噛む。
この3人目が出てきてから,戦況はがらりと変わってしまった。
センターがゴール下を完全に支配し,残りの2人が俺たちをマークする。
リバウンドを取れる味方がいない以上,俺たちのシュートは常に「絶対に外せない」という緊張感の中で打たなければならない。
それも,目の前のディフェンスを抜いて,だ。
2重3重のプレッシャーの中で,シューターでもない俺たちがポンポンとシュートを入れられる訳も無く,差は開く一方だ。
1対1の個人レベルでなら勝てても,それが3対2になるだけで勝てなくなる。
漫画やゲームの世界じゃ1対5でも簡単に勝てるけれど,現実は非情だ。
たった1人の人数差が,そのままチームの実力差になってしまう。
――今のままじゃ,勝負にならない。
やはり,無理があったのだ。
実力も分からない他校の先輩と3対2で戦うなんて。
勝ち目は薄くとも多少は勝負が出来ると思っていた数分前の俺を殴ってやりたい。
こんな事になるなら,最初に喧嘩を売られた時に無視を決め込んでおくべきだったのだ。
「ほら,早く来いよ」
でも,もう試合は始まってしまった。
なら,俺は俺の出来る事を精一杯やろう。
勝ち目が無いのならそれを探せば良い。
最後まで無様にもがいてやる。
「……行きます!」
風花の位置を見ながらゴール下へとドライブイン。
何度かフェイントを見せれば目の前の相手は抜ける。
でも,その先に待っているのはゴール下の巨大な壁だ。
ここで無理にシュートしても決められない。
かといって,うだうだと悩んでいたらせっかく抜いた相手に追いつかれてしまう。
風花がパスをもらいに来てくれるのが見えるが,ここでパスをしてもシュートには結びつかない。
しかし,このタイミングではそれしか選択肢は無いのだ。
俺は風花にパスを出し,一度ゴール下から出る。
風花がそのまま行けると思えばシュートするし,ダメだと思ったらもう一度俺にリターンパスが返ってくる。
運良くそこで俺が決められれば良いが,相手のディフェンスもある。
シュートが出来なければまた風花にパスを出して……の繰り返しだ。
それを何回も続けていたらいずれカットされてしまうし,かといって無理にシュートしても決まらない。
どうにも出来ないまま,今回の攻撃も失敗に終わってしまった。
「いい加減諦めろよ。何回やったってお前らじゃ俺たちには勝てないんだよ」
いつしか相手も嘲笑を通り越し,呆れた声を出すようになってきた。
正直な所,俺にだってなぜこんなにムキになっているのか分からない。
…でも,負けたくない。
一度勝負を受けた以上,このまま引き下がりたくない。
風花だって同じ気持ち,いや,きっとあいつの方が俺よりもずっとそう思っているはずだ。
だから,俺は折れる訳にはいかない。
この状況を打破する方法を,何としても考えつかないといけない。
「…………」
作戦は,実は無い訳ではない。
それで状況が劇的に変わる訳ではないかもしれないが,今よりはマシになる作戦。
「………」
でも,俺にはその作戦を伝える勇気がなかった。
今の風花に,それを伝える勇気が……
「……こんな時間に,何をしているの?」
重い沈黙を破る声は突然に響く。
その場にいる全員が驚いて声のする方に顔を向けた。
その視線の先で,コート入口の金網をゆっくりと開けて入ってきたのは,ジャージ姿の平林文香その人だった。




