#47 ポイントガード(3)
「全く,このチームは…」
何度目かのパスミスで,俺は思わず呟いていた。
決してチームメイトを馬鹿にしている訳ではなく,むしろその逆だ。
最初はみんなの実力も分からなかったから,少し甘くパスを出していた。
男子と同じリズムでパスを出しても取れないと思ったからだ。
でも,その考えは良い方向に裏切られた。
みんなの目やプレイが言っているのだ,もっと,もっと,と。
そんな事をされて我慢できる性格じゃない。
だんだんと俺もいつものようなリズムに戻ってしまっていた。
だが,忘れてはいけないのは今のチームは女子だという事。
技術は遜色無いかもしれないが,体格やスピードにはやはり大きな違いがある。
腕をどんなに伸ばしても届かない場所にパスをした所で,それを取れないのは当然なのだ。
それでも,彼女たちは同じミスを二度しない。
手が届かないなら,一歩分早く動きボールを呼ぶ。
タイミングが合わないのなら,一瞬止まってタイミングを合わせる。
ゲームの中でそれが出来るというのがどれだけ凄い事か。
結局の所,俺の中途半端なパスを味方に助けてもらっているのが現状だった。
「でも,これは……」
みんなにパスを出してみて,もう一つ分かった事がある。
この人たちは,全員が生粋のフォワードだという事だ。
ボールを持ったらとにかくゴールに突っ込んでいく。
なまじ実力があるのでそれでも得点できてしまうのがまた恐ろしい。
一応,危険な所は俺が声をかければ一度は止まってくれるが,それ以外の時には周りを見向きもしない。
天王寺先輩の言っていた事が身に染みて分かった。
早く先輩以外にガードが出来る人間を探さなくては…
「誰か,ガードやってみたい人はいる?」
ゲーム終了後,俺は早速1年生を集めてみた。
どうせ育てるなら出来るだけ早い方が良い。
『………』
が,俺の言葉に反応する人は誰もいない。
経験者が多いのだから,ポジションの意味が分からないという事は無いだろう。
とすると,本当に誰もやりたくないのだろうか。
う~む,個人的にはチームの司令塔っておもしろうと思うんだけどなぁ…
「誰もいない…の…?」
「あ,あの…」
改めて聞くと,小さな声が上がった。
見ると,申し訳なさそうに小さく手を上げているのは宮下さんだ。
「私も中学時代はガードだったから,出来ればやってみたいとは思うの。でも…」
「でも…?」
「今のゲームを見て,私なんかが出来るのか不安で……」
その言葉に,他の1年生もうんうんと頷いている。
なるほど。
あの天王寺先輩の動きを見たら誰だってそう思っても仕方がないのかもしれない。
「心配いらないって。誰だって最初からあんなに上手かった訳じゃないんだから。まずは小さな積み重ねから始めて,来年,再来年に繋げれば良いんだ。今から始めたって大丈夫だよ」
自分なりに励ましたつもりだったが,全員がいやいやと首を横に振った。
男子だとこの切り口で上手くいく事が多いのだが,これが男女の違いという物なのか。
結局その日はそれ以上の話は出来ないまま,練習終了の時間になってしまった。
「――と,いう訳なんですが,どうしたら良いと思いますか?」
翌日のお昼休み,俺は早速文香と先輩に相談する事にした。
なんだか最近,この集まりが俺の相談場所みたいになっているような気がする。
「ふむ…」
「う~ん……」
俺の相談に,難しい表情で考え込んでしまう2人。
女子の気持ちは女子にしか分からないと思って相談したのだが,この2人でも難しい内容だったのだろうか。
「あのね,ハル君」
等と考えていたら,先輩が思いもよらない言葉を口にした。
「今,ハル君は私のプレイを見て1年生が心配になった,と言ったわよね。でもそれ,きっと私じゃなくてハル君のプレイだと思うわよ」
「へッ?」
俺は何を言われたのか良く分からなかったが,隣で文香もうんうんと頷いている。
「先輩の言う通り。ハルは,自分の実力を本当に分かってない。そもそも1年生にとって,先輩は3年生なんだから比較にならないって最初に気付くべき」
「え~?」
「そうそう。1年生で私と互角に戦っているんだから,もっと自信を持ちなさい」
「う~ん…」
そう言われても,あまりピンとこない。
先輩と互角に戦えるのもあくまで周りの先輩方に助けてもらっているのであって,俺の実力じゃない。
俺には,先輩のように自分で切り込んでいって得点できる力はないのだから。
「でも,どちらにせよ1年生がそう思っているのは良くないわね。おかしいなぁ…てっきりハル君のプレイを見た1年生がハル君に憧れてガードを目指すと思ったのに……」
「完全に逆効果……」
俺の知らない話をしながらため息をつく2人。
そんな計画があったなんて今知ったぞ。
「でも,こればっかりはしょうがないわ。無理やりやらせたって良い結果にはならないし,気長に行きましょう」
「はい…」
それで一応の決着をつけ,休み時間を終える。
俺はそれでも少し心配だったが,その心配は杞憂に終わる事になる。
その日の放課後,1年生グループに大きな変化があったのだ。
「ねぇハル君,今日はシュート練習よりも,パスやドリブルに時間をかけない?」
そう提案してきたのは宮下さん。
他のメンバーもやる気十分だ。
「分かった。じゃあ今日は……対面パスのゲームから始めてみようか」
ゲームのルールは簡単。
6人1組でチームをつくり,左右に3人ずつ縦に並んで向かい合い,列の先頭でボールを持っている人が正面の相手にパスを出してスタート。パスを出したらすぐに向かい側に走って列の後ろに並ぶ。パスをもらう人は必ず跳んでボールを掴み,1,2のリズムですぐにまた正面の相手にパスを出し,同じように走る。これをノーミスで何回続けられるかを競うゲームだ。
3人で簡単になってきたら,間の距離を離す,6人組を4人組に変更して2人すつでやってみる等,色々なバリエーションをつくれるので,中学時代はお世話になったメニューだ。
今回は1年生13名を分けるので,まずは6人と7人でやってみる事にした
「目標は両チーム50回ね。それじゃ,スタート」
『ハイ!』
まずは小手調べで回数を決めてみたのだが,流石は経験者が多いだけの事はある。
50回はあっという間にクリア。
続く100回も多少のミスはあったものの,思った以上にすんなりとクリアされてしまった。
「さぁ,次はどうする?」
少し息を上げながら宮下さんが笑顔で聞いてくる。
この様子だとまだまだ行けそうだ。
「じゃあ…次は今より少し距離を離して,そうだな………200回やってみよう」
結果,両チームとも目標回数に届かずその日の時間は終了。
パスゲームに関しては,今後それを目標にやっていく事にした。
ドリブルは特におもしろい練習が思いつかなかったので,余った時間で好きなようにやってもらった。
これに関しては今後何か考えて行こうと思う。
そして,翌日。
「竹内風花,ようやく復活しました~!」
風花が,学校へと戻ってきた。




