#30 第1クォーター終了
「…すまない。最後,離されてしまった…」
ベンチに戻ってまず口を開いたのは白山先輩だった。
全力であった事は皆の疲労度からも良く分かる。
それでも引き離されてしまったのは,相手との地力の差か,作戦の差だ。
そして,今回は間違いなく後者だろう。
とにかく全員にドリンクを渡しベンチに座らせる。
「いえ,あれは僕の作戦のミスです。皆さんに責任はありません」
「違う。ハルはこのメンバーで出来る最善を選んだ。出来なかった私たちに問題がある」
そう言って俺をフォローしてくれるのは文香。
あの短時間に3ポイントを3本も決めてくれて,仕事が出来なかったなど誰が言えるか。
「私も,もっと周りを見てパスが出せれば良かった。ついドリブル突破ばかり狙ってしまったのは失敗だったわ」
「そうだな。あたしも最後は焦っちゃって突っ込みすぎた。悪かったよ」
神崎先輩と火野先輩もそう口を揃えてくれる。
先輩達だって,何度も勢いよくゴール下に飛び込んでくれたおかげで相手のディフェンスが崩れたのだし,ゴール下での得点力はとても心強かった。
「む~。あたし,何も出来なかった…」
そう言って落ち込む風花だが,コート内を縦横無尽に駆け回る風花は相手を間違いなく混乱させていた。
今回はたまたまパスが貰えなかっただけで,良い位置はきちんと押さえていたのだ。
「……いえ,皆さんのプレイは本当に素晴らしかったです。それに,今の作戦では遅かれ早かれこうなってしまう事は予想していましたから」
俺の言葉に,皆が驚きの表情でこちらを向く。
「パス回しが出来ない以上,相手がいずれこう出る事は予想出来ました。むしろ,この点差で済んで良かったとすら思っています」
本当はもう少し頑張ってくれればベストだったが,それは言うまい。
ここまで持ちこたえてくれた事を感謝する方が先だ。
「でも,なのでここからは少し攻撃も変化をつけていきます。白山先輩,このチームで,天王寺先輩の他にガードが出来る人はいますか?」
「……」
俺の質問に,先輩は黙って首を横に振る。
「…なら,ガードじゃなくてもパス回しが上手い人はいますか?」
「………」
白山先輩は首こそ横に振らないが黙って俯いてしまう。
どうやら本当にこのチームで天王寺先輩の代わりが出来る人はいないようだ。
「…………千夏よ」
「え?」
そんな時,ポツリとそう呟いたのは天王寺先輩だった。
「私の代わりは,千夏しか出来ないわ」
「光…」
「そうなんですか? 白山先輩」
「…………」
白山先輩は難しい顔をしたまま,ほんの少しだけ,頷いた。
それでもその表情は硬く,眉間に皺を寄せたまま天王寺先輩と俺を交互に見る。
「…そう……ですか…」
その難しい表情と視線から,なぜ名乗り出なかったのかの理由はなんとなく分かってしまった。
でも,ここは先輩に何とかしてもらうしかない。
「……分かりました。じゃあ,白山先輩はセンターではなくガードとして入ってください。その分ゴール下は神崎先輩に任せます。火野先輩と風花,文香は今まで通りにシュートを狙ってください。僕からは,以上です」
俺の言葉に全員が頷いてくれる。
もうインターバルも残り少なくなってしまったが,もう俺から言う事は無い。
後は好きに休んでもらおう。
「…木嶋,少し良いか?」
と,思ったら白山先輩にこっそりと話しかけられた。
「はい,何ですか」
「…どうして光を出さない。この状況を救えるのは光だけだぞ」
「やっぱり,さっきのは天王寺先輩の事を考えて…」
「それに,私では役不足だ。すぐにぼろが出るぞ」
「それも分かっています。でも,天王寺先輩はもう少し待っていてください。あそこで白山先輩を指名した以上,まだ天王寺先輩はコートに行ける状態ではないという事です」
「…そうか……」
「大丈夫ですよ。何とか次の10分の間にコートに戻して見せますから」
「……分かった」
何の根拠もないただの強がりだったし,白山先輩にもそれは分かっているはずなのに,先輩はしっかりと頷いてくれた。
そんな先輩の気持ちに答える為にも,俺は改めて気合を入れる。
前半戦の間に,何としてもコートにベストメンバーを揃えてみせるさ。
――この気持ちが,マネージャーとしての第一歩だったという事に,この時の俺はまだ気づいていなかった――




