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19.“女、女、女”だ

 結局、ダンスサークルは、警察に捕まりはしたが、起訴にまでは至らなかった。それでもニュースにはなったので大いに目立った。そうなれば“問題を起こした奴らはいくらでも叩いて良い”と思う連中がネットに多数現れるのはいつのも流れで、顔写真や経歴や性格がさらされ、それから彼らは盛大にネットのオモチャになってしまった。しかも、拡散された中にはかなりの誤情報が含まれているようでもあった。

 悲惨である。

 そして、大学はその騒ぎを沈静化させるべく、ダンスサークルを活動停止処分にしたのだった。つまりは公式にも非公式にも彼らの活動は継続困難になったのである……

 

 ――みょんチャンネルの動画。

 みょんちゃんが喋っている。

 『……以上のように、ブラックフェイスは、ダンスサークルの男達に暴行をし、結果的にサークルを廃止にまで追い込んでいます。が、その正当性に関しては甚だ疑問があります。

 日本の法律では、私的制裁は禁止されていますし、そもそも彼らは非合法の活動をしていた訳ではありません。確かに一部から“ヤリサー”と呼ばれていたように、肉体関係を持つ男女が多数いた点は事実です。ですが、それは何ら法律には抵触しない行為です。果たして彼らは潰される程の罪を犯していたのでしょうか? メンバーの中には誹謗中傷に苦しめら続けている人もいるのです』

 そこで画面が切り替わり、男が座っている画面が映し出された。ただ、顔には濃いモザイクがかけられあって誰なのか分からないようになっている。字幕で“当時のダンスサークルのメンバー”と示されていた。明らかに加工されている声が聞こえる。

 『俺らは飲み会を頻繁に開いていたし、ドラッグも使っていたが、どれも合法でした。そりゃ褒められた活動じゃかっただろうけど、そこまで批判されるほどの事じゃないし、女の子達は全員合意の上だったんですよ? それにあの野郎は俺らを散々殴ったり蹴ったりしていたんです。これは暴行罪です。独善的な正義ってやつですよ。どっちが社会悪なのか? って話だ……』

 

 稲塚薫はその動画を、電車の中でイヤホンを付け、スマートフォンを使って視聴していた。ヤリサリアンの一人だという男が喋り続けている様子を眺めながら、彼は思わず首を傾げてしまった。

 “こんな奴、ダンスサークルにいたかなぁ?”

 素顔も声も隠されているから、どうとも判断できないが、偽物を雇っててきとーに喋らせているだけのように見える。ヤリサリアンはいくつかエピソードを語ったが覚えはなかった。もっとも随分と前の話だから、彼が忘れているだけかもしれないが。

 動画の内容は基本的にブラックフェイスを批判するものだった。

 “よく言うなぁ”

 と、彼は思う。

 もしダンスサークルが何の罪も犯していないと芯から思っていたのなら、さっさと警察に被害届を出せば良かったはずだ。それができないのは、できないだけの理由があるはずだと普通は思うはずである。

 動画では一切その点には触れられていなかった。前の動画では、“強引なやり方で性的に暴行”などと語っていたはずだが、それについては動画主は忘れてしまったかのようだ。が、動画へのコメント欄を見てみると指摘している人が数人いた。そして、ダンスサークルを批判しているものの内の一つには、こんなものまであったのだった。

 『こいつら、引っ掛けた女を売春組織に売ってやがったんだよ。だから、警察に睨まれて潰されたんじゃないのか?』

 思わず彼はギョッとしてしまった。ヤリサリアン達を潰した時は知らなかったのだが、ヤリサリアンの一部は本当にそのような行いをしていたらしい。

 “この人、まさか本当に関係者だったりして……”

 と、ちょっと思ってしまう。

 もっとも、いい加減な情報をネット民達がばら撒くのは日常茶飯事なので、偶然かもしれないのだが……

 

 「“女、女、女”だ」

 

 と、火田は呟いた。

 アパートの一室。アジトの一つで、簡素だが、角部屋で隣の部屋は空室になっているので会話を聞かれる心配がなく、使いやすいので彼らは気に入っている。

 近くでそれを聞いていた田子多が「女を抱きたいのですか?」とよく肥えた肉体を振るわせながら尋ねた。直ぐにでも用意しようとしているのだろう。

 「違うよ、バカ」

 と、彼はそれに返す。

 彼はノートパソコンでみょんちゃんの最新動画に付けられたコメントを眺めていたのだ。アクションシーンはまったくないが、それでも偽のダンスサークル員に証言させたその動画はそれなりに再生回数が回っていた。だからコメントもまあまあ多かったのだが、その内の一つに、

 『こいつら、引っ掛けた女を売春組織に売ってやがったんだよ。だから、警察に睨まれて潰されたんじゃないのか?』

 というものがあったのだった。

 それが彼には引っかかっていたのである。

 「俺らがあいつらに襲われたのは、女をヤク漬けにしようとしているところだった。このヤリサーの連中の被害者も女……、ブラックフェイスって名前を広めた野郎は、確かストーカーだったよな? 他にもデマじゃない本当のブラックフェイスの仕業だって事件の被害者は全て女なんだよ……

 女絡みが多過ぎるんだ」

 「それがどうかしたのですか? 犯人はフェミニストだと疑っているのですか?」

 鳥沼の疑問の声に、「そんなのは知らねえよ」と乱暴に彼は返す。そして、

 「だとするのなら、気になる事件が起こっているんだよ。この頃、売春組織が一つ潰れている。確かこの大学の女生徒も売春をやっていたはずだ」

 と、続けた。

 「潰したのが、ブラックフェイスだって火田さんは思っているんですか?」

 「潰したのは警察だよ」

 そう返すと、彼はノートパソコンのキーボードを叩き始めた。どうやら検索をかけているらしい。表示された画面を二人に見せる。

 「この事件だ。暴行を起こした男達が逮捕されたのだが、捜査の過程で売春組織の実態が明らかになり大捕り物に発展…… って事になっているが、別件逮捕で捜査の口実を作って売春組織を壊滅させたって線が正解だろうな。“裏”じゃ、有名な話だ。つまり、元からこの組織は警察に目を付けられていたんだよ」

 「それが何か?」と、鳥沼が尋ねる。

 「都合が良すぎるとは思わないか? なんで運良く派手な暴行事件が起こるんだよ。しかも集団だぞ?」

 「おとり捜査じゃないですかね?」と田子多が言った。

 「犯罪を誘発するおとり捜査は禁止されているな。この場合は、だからNGだ。しかしだ。暴行事件を誘発させそうな奴らにこっそりと情報を渡すくらいならできるだろう」

 「それがブラックフェイスだって言うんですか?」

 「警察…… の恐らく一部がブラックフェイスの正体に気が付いていて、情報を意図的に流したって言うのなら辻褄が合う」

 それを聞くと鳥沼が言った。

 「つまり、警察を当たれば、ブラックフェイスの正体も分かる……って事ですか?」

 「ああ。警察内部に飼っている内通者からは情報は入って来ていない。って事は多分個人だろう。なら、俺らでも接触するリスクは少ないはずだ。何しろ犯罪だからな。捜査上の秘密を流すのは」

 鳥沼は少し考えると訊いた。

 「だとしても、どうやってそいつを探します?」

 「警察がブラックフェイスの正体に気が付いたとすれば、ストーカー事件の可能性が高い。ストーカー野郎が、ブラックフェイスにやられた事件で、一気にブラックフェイスは有名になったのだろう?

 みょんちゃんにストーカー事件をもっと詳しく調べさせろ。警察との接点を中心にな。何か出てきたら、そいつが怪しい」

 

 ――みょんチャンネルの動画。

 みょんちゃんが喋っている。

 『ブラックフェイスが有名になったのは、ストーカー事件からだと説明しました。ヤリサーの粛清事件で、多少は噂が広まっていましたが、その時はまだ“黒尽くめの男”としか言われておらず、真偽不明の眉唾なものとして扱われていたのです。

 どうしてそのストーカー事件でブラックフェイスの噂が広まったのか、今回はその点について説明したいと思います。また、この件に関する情報も募集しています。もし、心当たりのある人がいましたら……』

 

 稲塚薫は自宅のパソコンでその動画を眺めていた。

 “けっきょく、このストーカー事件にも触れるのね”

 などと思う。

 前回のヤリサー関連の話題では、明らかにブラックフェイスを悪者にしていたが、今回はストーカー側に問題有りとしている。警察から注意を受けていて、明らかに異常な行動をしていたから庇うに庇えなかったのだろう。

 この件に関しては、彼はそれほど不安には思っていなかった。既にそれなりに有名になった事件だから、ブラックフェイスの正体がバレるような情報はもう何も出てこないだろうと思っていたのである。

 が、少しだけに気になる点があった。

 『ストーカーが接触している警察に関する情報がありましたら、どうかお報せください』

 そう何故かみょんちゃんが訴えていたのだ。

 警察。

 彼には自分との接点があまり思い出せなかった。しかし……

本編とはまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)

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