5.そして明日から
休憩を終えて再び馬車での移動を開始した。
と言っても外の様子は分からないので馬車の振動からそう判断するしかないんだけど。
しかし相変わらずの振動だ。
休憩中に確認した道は、およそ地面を踏み固めただけのものだった。
この世界の舗装技術はそこまで進歩していないのか、もしくはあまり使われていない道を通ることで勇者を狙う奴らに見つからない様にしているのかもしれない。
「さて、じゃあ再びこっちに座りませんか?」
サチカさんに俺の膝に座らないかと声を掛けたけど、サチカさんは若干考えた後首を横に振った。
「コースケ様。先ほどの話で気付いたと思いますが、私も戦闘系の職業です。
ですので実はこの程度の揺れならば特に問題は無いのです」
「そうでしたか」
余計なお世話、とまでは行かなくても心配することは何もなかったらしい。
サチカさんはふと馬車の前方に視線を送ってから神妙な顔で尋ねてきた。
「モミジ達はその、子作りの対象外なのですがよろしいですか?」
「ええもちろん。あの二人はまだ未成年みたいですし」
俺の回答に明らかに安堵するサチカさん。
これはあれか。俺がロリコンじゃなくて良かったってところかな。
この世界の成人が何歳からかは聞いてないけど、大体俺の感覚で合ってそうだ。
コンコンッコンッ
「ん?」
馬車の前方の壁がノックされた。
だけど続く何かはない。
これは何かの合図か?
その証拠にサチカさんがすっと俺の横に移動しながら囁いてきた。
「慌てなくて大丈夫です。今の合図は魔獣の接近を報せるものです」
「魔獣、って何ですか?俺の居た世界には居なかったんですが」
「簡単に言ってしまうと通常よりも強く好戦的な動物です。
中には戦闘系職業が数人掛かりで倒さないといけないものも居ますが、今回はカエデ1人で勝てる相手のようです」
続いて天井を叩く音。
いやこれはカエデさんが馬車の屋根に飛び乗った音かな。
モミジさんがカエデさんの職業は『そげ』なんとかと言ってたので狙撃手か何かだろう。
背中に弓を背負ってたし。
馬車を止めずこのまま屋根の上から魔獣を狙うつもりらしい。
(うーん、何が起きてるのか視えないっていうのは心許ないな)
いや、たとえ状況確認が出来たとしても俺に出来ることは無いんだけど。
野次馬根性はぐっと我慢する。
そうしてガタゴトと揺れる車内でじっと息を潜めること数分。
コンッコンコン
再びのノック音。
今度のは?とサチカさんを見れば「終わったようです」と笑顔が返ってきた。
馬車に急制動も掛からなかったし何も問題なかったんだと思う。
これでもしカエデさんが瀕死の重傷を負ってました、とかだったら怒ろう。
そんな若干良くない考えを秘めつつも馬車は走り続け、遂に目的地の屋敷に到着した。
馬車を降りるとモミジさんとカエデさんが揃って迎えてくれた。
「お疲れ様でした。
こちらが今日からコースケ様がお住まいになるお屋敷になります」
「あぁ。確かに屋敷って感じだな」
そこにあったのは古民家ではなく武家屋敷って感じの大きさの、ちょっと歴史を感じる建物だった。
さっと見渡してみれば屋敷の周囲には畑と小さな池まであって、更にその外側を高さ3メートル程の塀が囲んでいる。
「さあ、中へ参りましょう」
「はい。ってカエデさんは?」
「馬車を置いてきます」
ひとり別方向に歩き出すカエデさんに声を掛ければ素っ気なく返された。
これは嫌われてる、というより元からそういう性格なんだと思う。
大丈夫だよな。嫌われるようなことはしてないし。
サチカさん、モミジさんを連れて玄関に向かうと、屋敷の中から3人の年配の女性が出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました勇者様。
私共はこの屋敷の管理を行っております。
勇者様が何不自由なく暮らせるように努めて参ります」
武家屋敷ではなく老舗旅館だったのか?
そう思ってしまう程、彼女らの所作は洗練されていた。
そんな彼女らに俺はどう接するべきか。
まぁ考えるまでも無い。
彼女らに負けず礼儀正しくだ。
「俺の名前は幸助と言います。
これからよろしくお願いします。
良ければ皆さんのお名前を教えて頂けますか?」
「はい。私はサンポ。こちらはナガエとヒサゲでございます。
さ、馬車でお疲れでしょう。
どうぞ中へ」
サンポさんの後に続き屋敷の中へと入る。
ナガエさんとヒサゲさんは挨拶に来ただけらしく、ひと言断って直ぐに何処かに行ってしまった。
俺が案内されたのは屋敷の東側にある離れのような場所。
「こちらがコースケ様のお部屋になります」
12畳1間の和室。
い草とはまた違うけど草の匂いが心落ち着く良い部屋だ。
壁際には箪笥に姿見に押し入れ、いや隣の部屋が物置になっているのか。
後は布団が畳んで置いてある。
……最初の召喚された時に案内された部屋ではベッドだったが、ここではそうではないらしい。
まぁ和室にベッドはちょっと合わないのでこのままで良いのだけど。
「何か足りないものなどございましたらお声がけください」
「分かりました。ありがとうございます」
「夕飯は30分もすれば出来上がりますので、呼びに参ります。
それまでどうぞお寛ぎください」
そうしてその場には俺だけが残された。
誰も見ていない事を良い事に部屋の真ん中で大の字になって寝転がる。
(さて、ここからだな)
この世界が求めている勇者の役割、すなわち子作りはまだこれから。
恐らく明日から本格的に行っていくことになるんだろう。
それが嫌かと言えばそんなことは無い。
俺も60を過ぎたとはいえ男だし肉体が若返った反動か以前より性欲は強くなった気もするし。
(もし長年連れ添ったあいつが空の上から今の俺を見ていたら……笑って許してくれるどころか、しっかりお役目果たしてきなさい、なんて言うかもな)
この世界の人達から愛情を求められていないのは、むしろ僥倖だったと思う。
流石にこれから会う何十人かの女性を愛せと言われても無理だ。
ただ間違えてはいけないのは、愛が無いことと相手を大切に扱うことは両立できる。
考え方を変えれば俺は子種を作り提供する職人でここの女性たちは顧客。
顧客のニーズに応え最大限満足して帰ってもらうのが俺の責務。
愛は無くても真心籠めて。
俺なりに頑張ってやっていこう。
この作品は曰くバトルものではないので戦闘描写なども大体スキップします。
ゲームなら主人公が仲間を指揮して魔獣を撃退する場面でしたが。




