21.罪人の処遇
実に5日ぶりくらいに帰ってきた屋敷の前には武装した女性が20人ほど。
全身鎧に槍って、これからどこかに討ち入りにでも行くんだろうか。
もしくは丁度今から屋敷に討ち入りするところ?
「っ、何者だ!?」
「「!!??」」
隠れて様子を窺っていたら気付かれた。
その人の声を合図に全員が素早く槍を構えて俺が隠れている草むらを包囲する。
これは下手に抵抗したり逃げても無駄だな。
明らかに彼女らの方が身体能力が高い。
多分戦闘系の職業だ。
俺は両手を上げて彼女らの前に出ることにした。
「怪しいものじゃない。俺は」
「なっ、男だと!? 貴様、いやあなた様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「幸助ですけど」
「そうでしたか。皆武器を下ろせ。
どうやら勇者様自らご帰還なされたようだ」
隊長らしき女性の言葉を聞いて緊張した空気が解かれた。
ということは少なくとも彼女らは俺の敵と言う訳ではないらしい。
「説明を求めても良いかな」
「はっ。ですがお疲れでしょうし、話は中でしましょう」
「そうだな。気遣いありがとう」
隊長さんに並んで屋敷の中へ。
その途中、隊長さんは他の人に伝令に走らせていた。
屋敷の外に出ているモミジさん達に戻るように伝えろと。
「……つまり皆さんは行方不明になった俺の捜索隊として派遣されてきたと」
「その通りです」
屋敷の大広間にてサンポさんに淹れて貰ったお茶を飲みながら話を聞くと、どうもそういうことらしい。
にしては重武装過ぎじゃないだろうか。
近隣の森に凶悪な魔獣は出たことないぞ。
などと考えていたらモミジさん達も戻ってきた。
彼女らは比較的軽装だ。
「お帰りなさいませ。コースケ様。
ご無事でなによりです」
「生きてたんですね!良かったです~」
「心配をかけたみたいだね。
色々あったけど何とか戻って来れたよ」
部屋に入ってきたモミジさん達は飛び込む勢いで俺の元まで駆け寄ってくると手を取ったり肩や背中をポンポン叩いて怪我が無いことを確認していた。
それだけ俺の安否を心配してくれたということだからありがたい話だ。
そしてそれを見て隊長さんや捜索隊の人達が目を丸くしていた。
「……驚きました。報告では聞いていましたが本当に屋敷の者たちに慕われているとは。
あなたは本当に勇者ですか?」
「その問いかけは聞き飽きたかな」
もうどれだけ召喚された男達は粗暴な奴ばっかだったんだって感じだ。
「それより皆さんの任務は俺が戻ってきたので完了ですよね」
「いえ、まだ重要な任務が1つ残っています。
お疲れの所申し訳ないのですが付いてきて頂けますか?」
重要な任務?なんだろう。
よく分からないが付いていくと向かった先は地下室。
……屋敷に地下室なんてあったんだな。
この分だと俺の知らない屋根裏部屋とかもあるかもしれない。
今度探してみよう。
などと暢気に考えていた俺は目の前の光景に一気に現実に戻された。
「「……」」
ロープでぐるぐる巻きにされて地面に倒れてる女性と、鎖で壁に吊るされた女性。
カァムさんとツゥリさんだ。
この姿からして地下室は牢屋として使われているらしい。
いや、ツゥリさんはまだ分かるけど、どうしてカァムさんまで捕まってるんだ?
「彼女たちはなぜこのような姿に?」
「はい。翼人族の方は勇者誘拐の罪で、鳥人族の方は勇者救出に失敗した挙句死なせた可能性があるとして捕縛しております」
あ~なるほど?
言われてみれば元の世界でもあったなぁ。
災害現場や誘拐や拉致監禁、ハイジャックなどなど。
救助隊員は決死の覚悟で最善を尽くしたのに、犠牲者が出ると「やれあの時の対応に問題があったのではないか」「もっとこうすれば助けられたのではないか」って後から文句を言って彼らに責任を押し付ける奴らが。
だけど俺としては賞賛こそすれ責めることは無いと思う。
何もしなければ全滅していたんだ。
もし1人でも助けられていたら拍手喝采ものだろう。
ただこの場での俺の主張はどこまで通るのか。
いや。
ここに連れてこられて来たことが答えか。
「彼女らの処分を俺が決めて良いんだな?」
「はい。火あぶりでも八つ裂きの刑でも勇者様のお気の済むように」
「ヒィッ」
なんか物騒な言葉が聞こえたけど、しないよ?
そんなことをしても何も良いことなし面白くもない。
「ちなみに無罪放免にする訳には行かない?」
「そんなことをすれば『あそこの勇者は犯罪を見逃す馬鹿だ』という噂が流れる可能性があります」
誰がそんな噂を流すのか。当然見逃された人だ。
恩を仇で返すのかと思うかもしれないが、この場合見逃された側は別に恩だとは考えていない。
だから安易に開放してはいけない。されど恨みを買うのも良くない。
丁度良い塩梅を考える必要があるんだけど。
正直面倒くさい。
「ひとまず彼女らの拘束を解いてあげて」
「よろしいのですか?」
「ああ。それとも飛んで逃げられたりする?」
「その心配はありません」
「じゃあよろしく。ついでに怪我の治療もしてあげて。
それが済んだら上で話をしよう」
そう伝えて俺は先に地下室を後にした。
1時間後。
身だしなみを整えた二人と改めて大広間で向かい合う。
ちなみに屋敷の他の人達も遠巻きに様子を窺っている。
「では二人に沙汰を伝える。
まずはカァムさん」
「はい」
「あなたに関しては多少の過失はあったとしても罪は無いと俺は考えている。
その過失分も地下に監禁されてた分で十分だろう。
ただそれで何もなしと言うと周囲の目もあるからな。
子作りが終わるまでの期間、サンポさんの下で労働を命じる」
「ご寛恕ありがとうございます」
「続いてツゥリさん」
「はい」
「君は無罪放免とは行かない。
失敗に終わったとはいえ勇者誘拐をしようとしたことは事実だからな。
とはいえ、俺を抱えて空を飛ぶように指示したのは俺だ。
だから情状酌量の余地はあると考えた結果。
君には向こう1年間、俺の下僕として働いて貰う。
その間、子作りはしないし逃げ出そうとすれば今度こそ死刑だ」
俺の言葉を聞いた二人とついでに捜索隊の人達は困惑気味だ。
あまりに軽い刑罰に。
対して屋敷の住人たちは平常運転。
俺の言動に慣れたとも言う。
「ツゥリさん。君には一応拒否権を与える。
俺の下で働くのがどうしても嫌なら国に判断を委ねることになるが」
「あの、一つ質問をさせて頂いても?」
「どうぞ」
「翼は捥がないのですか?」
「んん?」
前にも聞いた気がするけど何の話だ?
「すまん。意味が分からないだが、捥いでどうするんだ?」
「勇者には気に入った翼人族の翼を捥いで飾る習性があると聞いています」
「それは俺とは別の世界から来た勇者の話だな。
翼は飛べてこそ価値のあるものだろ」
いや地球でも狩りで仕留めた獲物をはく製にして飾る文化はあるけど。
どうして俺がそういう趣味の持ち主だと思われたのか。
ってそうか。
初日にべたべた翼を触ったから愛好家を通り越して変態と思われたのか。
ちょっとそこ。俺は変態じゃないからそんな目で見るんじゃない。
結局ツゥリさんは俺専属の下働きとして屋敷に残ることになった。
まったく、変な言いがかりをした分、厳しくすることにしよう。




