20.森は知っている
ニンフ達に助けられて4日目。
ようやく満足してもらえて俺は解放してもらえることになった。
「ずっとここに居ても良いのよ?」
「干からびそうだから勘弁してくれ」
正直この3日間の記憶はあいまいだ。
食事も何か食べたような気もするけど味は思い出せない。
睡眠も夜になったら寝た気がするけど夢と現実の境が分からない。
多分1週間もすれば意識不明の植物人間になっていただろう。
代わりにニンフ達のお肌はツヤツヤだ。いやそれは元からか。
「じゃあ今度は手土産でも持ってくるよ」
「楽しみにしてるわ」
「ちなみに、俺が暮らしてた屋敷までの道が分かったりはしないか?」
「残念だけど水場から離れた場所の事は分からないわ」
ダメ元で帰り道を聞いてみたけどやっぱり分からないか。
なら仕方ない。
ツゥリさんが飛んだ方向は太陽の位置から大体覚えているのでそれを頼りに森を抜けよう。
屋敷の近くまで行けば知ってる場所も見つかるだろう。
そう思って歩き出そうとした俺の襟首が引っ張られた。
「えっと、まだ何かあった?」
「森を行くなら森の子たちに道を聞くと良いわ」
ニンフが示した先には大木に半分隠れるようにしてこちらを見ている少女がひとり。
薄緑の肌に木の葉の洋服。髪もつる植物で出来てるし明らかに人間ではなさそうだ。
森の子(精霊)ってところかな。
「こんにちは」
「っ!?」
声を掛けたらビクッとして隠れてしまった。
これ大丈夫?
近づいたら悲鳴を上げて逃げられたりしない?
もちろん通報されて変質者として逮捕されることはないけど、精霊を泣かせたら森全体が俺を攻撃してくるとかはありそう。
「あの子はドリアード。ちょっと人見知りだけど大丈夫よ」
「そうなのか?」
人と精霊の感覚ってズレがありそうだから要注意だ。
今もちょっと人見知りだって話だけど対人恐怖症の可能性だってある。
だから慎重にあまり近づきすぎない様にしつつゆっくりと声を掛ける。
「おれは幸助。すこしお話しできるかな」
「……ニンゲン、私を襲わない?」
「襲わないよ。というか普段襲われてるの?」
「うん……なにかいい薬の材料になるんだ~って言って」
なるほど。
確かにこれまでも薬草の採集とかはやってきたし、屋敷で病気予防にって言われて薬草茶を飲んだことがある。
有名所でマンドラゴラとかの薬草は、あれは精霊とは違う気もするけど、日本ではよくアニメやゲームで擬人化されてたし、同じようにドリアードも薬の材料になるのかも。
でも俺の頭の中では魔女の大鍋でグツグツ煮られる少女の図が出来てしまった。
流石にそれはちょっとって感じだよな。
それ以前に会話が出来る相手を襲う気はないのだが。
あとこの話した感じ、精神年齢は人間でいう幼稚園児くらいなのかもしれない。
ならばと俺はしゃがみこんでドリアードと目線の高さを合わせた。
「人間の中にはそういうことする人も居るけど、俺はしないよ」
「うん、そう、みたいだね」
良かった。ちょっとは警戒が薄れてくれたみたいだ。
これならお願いも聞いてもらえるかな。
「俺は、えっと、あっちの方にずっと行ったところにある人間の家に住んでるんだけど、分かるかな」
「わたしは知らないけど、ちょっとまって」
ドリアードは近くの木に手を当てて何やら交信を始めた。
「うん、うん。コースケ。そう、ニンゲンのオスで」
(オス……)
そっか。例の呪いは人間に向けられたものだから森の動物たちは普通にオスメスの概念はあるのか。
「わかったよ。あっち。コースケの足なら多分1日歩けば知ってる場所に出るよ。
そこまで行けばそっちに居るヒトが案内してくれると思う」
「ありがとう」
「コースケはそっちでは有名人。森の歩き方が綺麗だって」
「それは良かった。
このお礼は後日改めて持ってくるよ」
お礼を言ってドリアードと別れて示された方へ歩き始めた。
なかなかに深い森の中だ。当然道などある訳もなくまっすぐ進むことは出来ない。
魔獣討伐や森歩きについて学んでなければすぐに迷子になっていただろう。
色々やっておいて良かった。
ついでだから道中で見つけた薬草やキノコも収穫していくか。
「えっと、これは普通の草で摘んでも大丈夫か?」
声を掛けてみるが反応は無し。
これでドリアードみたいに会話出来たらちょっと怖い。
念のため魔力も流してみるとふわふわした手応え。
手を差し出せばポロリと手の中に納まる。どうやらOKらしい。
そうして若干の寄り道をしつつ翌日の昼。
ようやく屋敷に帰り着いた俺は多数の兵士に取り囲まれることになった。




