16.キノコ狩りに行こう
う~ん、昨日は実に大変な一日だった。
やっぱり戦闘系職業の女性は体力が凄い。
この世界に来た当初の俺だったら今日は起き上がれなかったかもしれない。
そして今日はグリンフォックス族のタッキーさんの番だ。
タッキーさんも獣人ということはキーネさん同様に戦闘系の職業なんだろうか。
今から覚悟を決めておかねば。
「すみません、主様。ご期待の所申し訳ないのですが私は戦闘はあまり得意ではありません」
「あ、そうなんだ」
「もももちろん私の種族も戦闘職は多いのですが、私は違うと言いますか」
「大丈夫だ。別に怒ってもいないし落胆もしていない」
朝食の席でタッキーさんも狩りが得意なのかと聞いてみたら凄く恐縮されてしまった。
俺としては言葉の通り、むしろ違う方が助かるまであるので良かった。
「それじゃあ何が得意なんだ?」
「あまり大きな声じゃ言えないんですが、キノコ狩りです」
「おっ、それはいいな」
キノコ。
それは元の世界でもこの世界でも変わらず『素人は手を出すな』案件である。
一口食べたら死ぬものもあれば、触っただけで手がかぶれ、飛び散った胞子を吸い込めば肺が冒される。
更には甘い香りを放って動物を誘い込み寄生して養分にするキノコも存在するらしい。
そこに来てキノコ名人が居てくれるとそれらの危険が回避でき、逆に薬効のあるキノコを入手することだって出来る。
実にありがたい話だ。
朝食を食べ終えた俺達は準備をして早速キノコ狩りに出発だ。
意気揚々と屋敷を出たのは良いのだけど、タッキーさんの持ちものが凄い。
「えっと、タッキーさん。キノコ狩りに行くんだよな?」
「そうですよ?」
「俺の目には虫網と虫かごに見えるんだけど」
「はい。キノコ狩りには必須の道具です!」
そうなのか。え、この世界のキノコは昆虫のように走り回ったり飛び回ったりするのか?
よく分からないけど素人の俺が口を出すべきではない。
タッキーさんを信じるのみだ。
向かう先は南の湿原。
その道中でも目を凝らせば幾つものキノコが見つかる。
「これはヒラタケ。毒にも薬にもなりませんが焼いて食べると美味しいですよ」
「ふむふむ」
タッキーさんの説明を聞きながら採取していく。
「こっちはヒラケタケ。さっきのヒラタケによく似ていますが毒性があります」
「えっと、ヒラタケとの見分け方は?」
「ヒラタケよりちょっと傘の下に伸びてる毛が長いです」
並べて比べてみれば何とか分かるかなってくらいの違い。
俺だけだったら確実にどちらもヒラタケだと思って収穫してただろう。
「あ、丁度良くあっちにあるのはツキヒラタケです。
夜になると薄っすら光るのが特徴で少量食べると安眠効果があります」
うん、全然違いが分からん。
「何かもっと簡単に見分けが付く方法はないのか?
せめて毒かそうじゃないかが分かれば助かるんだけど」
「それなら分かりますよ。
こう手をかざして魔力を流すと毒を持ったキノコは反発してきます」
「どれどれ」
言われた通りヒラケタケに手をかざして魔力を送ってみる。
ちなみに魔力の扱い方も以前教えて貰ったので多少は出来るようになった。
で、その結果はえっと……と吟味してるとタッキーさんが慌て出した。
「あっ、すみません。この判別法は職業特性みたいなものです!」
「そうなのか?いやでも何となくチクチクした感じがするぞ」
「えぇっ!?」
驚くタッキーさんだけど、俺としてはこれまでも色んな人からあれこれ教えて貰ってどれも多少は出来るようになったから今回も何とかなるかなと思っていた。
「ちなみにこれ、キノコ以外にも使えるのかな?」
「はい、毒草の判別も同じようなものだと聞いたことがあります」
それは良い事を聞いた。
じゃあ早速こっちに生えてるニラのような毒草に試してみると、おっこれは何というかヒリヒリする。
ちょっと面白くなってきたので続いて初見のキノコに手をかざしてみた。
するとナイフで指を切ったような鋭い痛みが走った。
「これも毒キノコか?」
「そうですけど、そちらは摘んでいきましょう」
「??何かに使えるの?」
「はい。1本丸々食べると全身が麻痺して動けなくなりますが、少量であれば鎮痛や麻酔の効果が期待できます」
若干怖い話も聞こえたけど、毒も少量なら薬になるし薬も摂りすぎると毒になるってやつだな。
……念のため後で毒の耐性を付けるにはどうすれば良いのか調べておくか。
流石に一服盛られる心配は無いと思いたいけど。
その後も幾つかのキノコを発見、採取しつつ目的地の湿地に到着した。
この辺りは湿度が高いお陰でキノコの他、苔類も繁殖している。
確か向こうの岩に生えてる苔が火傷に効く薬になるんだったか。
「主様はカエルを探してください」
「魔獣の?」
「どちらもです」
先ほどまでとは打って変わって真剣な目をしたタッキーさんが虫網を構えて辺りを見渡している。
あの虫網はカエルを捕まえるためのものだったのか?
俺も彼女に倣って周囲に目を光らせる。
お、いた。
「タッキーさん、あそこ」
「捕獲もお願いします」
「了解」
指示されるままに見つけたカエルに駆け寄りその胴体をむんずと掴まえた。
これは、ウシガエルっぽい?
ウシガエルは食用になるはずだ。確か味は鶏のささ身に近いんだったか。
「はい、このカエルで良い?」
「十分です。このカエルの足に糸を結びつけてっと。
今度はこの糸の端を持っていてください」
「ふむふむ」
糸を結ばれたカエルは逃げるでもなく、しばらくして何かを見つけたのか飛び出していくので俺達もその後を追っていく。
「あっ、居ました。ていっ」
カエルの跳ねて行った先に居た虫を見つけてタッキーさんが虫網で捕獲していた。
流れるような手つきで虫を虫かごに入れる。
カエルは次の獲物を探して飛び跳ね、俺達もそれを追ってまた見つけた虫を捕獲して、というのを繰り返した。
そうして無事に虫かごがいっぱいになったので終了だ。
「キノコ狩りに来たはずなのに後半は虫取りばかりだったけど、この虫は何なんだ?」
「この虫はトチューカソというキノコに寄生された虫なんです。
あのカエルにはその虫を見つける魔法を掛けたのです。
これ見た目は虫ですけど中身はほぼキノコなんですよ」
「なるほどなるほど。ちなみにそのキノコの効能は?」
「精力増進です!」
「そ、そう」
屋敷に戻ったタッキーさんは早速捕まえてきた虫を加工して精力剤を作ってしまった。
そして夕食後にどうぞと差し出される。
元が虫だと思うと口に入れるのはちょっと憚られるけど、タッキーさんが折角作ってくれたんだからタッキーさんの為に飲まない訳には行かない。
結果としてタッキーさんが虫の息になってしまったけど、ある意味自業自得だと思う。




