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異世界は勇者よりも種馬を求めていた  作者: たてみん
3.多種多様な人間模様

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15/25

15.芸達者な主様

 今日はレッドフォックス族のキーネさんと1日過ごす日。

 と言っても朝から晩まで子作りし続ける訳ではなく、まずは仲良くなるところからだ。

 その為にはやはり相手の好きなことに付き合うのが手っ取り早い。


「私達獣人は人族と比べて身体能力が高く職業も狩猟や戦闘に特化したものが多いです。

 特にレッドフォックス族は御覧の通り森の中でも目立つので魔獣をおびき寄せるのに一役買っています」


 とのことだったので、サチカさんの代わりに護衛担当になったヤナタさんも入れた3人で屋敷周辺の森に魔獣狩りに来ていた。

 近隣の森は既に何度も足を運んでいる場所なので、もう迷う事もない。

 それに以前職業が森守だという人に森の歩き方について色々教えて貰ったお陰で、動物が草を踏んだ跡や魔獣が通った残り香なども多少分かるようになった。

 教えてくれたその人は『普通そんな簡単には分かりません』って苦笑いしていたのでもしかしたら勇者としての能力なのかもしれない。


(止まって)


 小声で呼びかけてキーネさんとヤナタさんに静かにするようにと合図する。


(何かありましたか?)

(あっち。多分魔獣がいる)

(え、視えませんけど)

(300mくらい先かな。大型の猿の魔獣だと思う)


 それなりに深い森の中だ。視界は100mも通らないので視えなくても仕方ない。

 俺だって視えてないし。

 でも気配というか、何となくわかる。

 そしてこの場に俺の言葉を鼻で笑って信じない人は居ない。


(では私は左から回り込みます)

(うん。相手に気付かれないようなら先制は俺が。キーネさんは驚いてこっちに振り向いた隙を狙う形で)

(承知しました)


 ササっと木の葉の擦れる音を残してキーネさんが飛び出していく。

 それを見送った俺は足音を立てないように慎重に前進を続け、魔獣の後ろ姿を捉えることに成功した。

 相手は予想通り猿の魔獣が3体。身長2mを超える大物だ。

 ちらりと横を見ればキーネさんの赤いしっぽが木々の隙間から見えた。

 見方によっては赤い花が咲いてるのかなとも思うけど、なるほど目立つなぁ。

 向こうも準備出来てるみたいだし始めるか。

 念のため周囲に他の魔獣が居ないのを確認してから。


(『なんちゃってピアッシングショット』)


 これまた以前に弓使いの職業の人に教えて貰った射撃を魔獣に放つ。

 ただ狙いこそ魔獣の後頭部に突き刺さったが貫通ピアッシングはしない。

 所詮、見様見真似なのだ。

 まぁ致命傷だから十分。

 後頭部に矢を受けた魔獣が力なく前のめりに倒れていく。

 それに驚いた残りの2体が矢の飛んできた俺の方へと向かってくるが、その脇を抉るように赤い風が吹き抜けた。


「こっちだ猿共!」

トストスッ

「って主様ぁ!?」


 振り返りながら勢いよく啖呵を切ったキーネさんが目にしたのは、驚きの目で振り向いた魔獣たちが側頭部に矢を受けて倒れる姿だった。

 弓を仕舞いながら合流すれば何故かキーネさんがぷんすこ怒っていた。


「けっこう綺麗に勝てたと思うんだけど、何を怒ってるんだ?」

「だってここからが私の魅せ場だったのに~」

「いやいや十分な引き付け役だったぞ」


 俺の射撃スキルはまだまだ初心者レベルだ。

 動き回る相手にはまず当たらない。

 当たるのは気付かれていない状態からの不意打ちか立ち止まっている時のみだ。

 キーネさんが居なかったら後の2発は当たらずに接近戦に持ち込まれていただろう。

 そうなると勝てない事は無いけど返り血で残念なことになっていた。

 だから正直凄く助かったんだけど、本人は納得行ってないようだ。


「私はもっとドバッと活躍したかったんです!」

「じゃあ次は任せるから」

「はいっ」


 次に行く前に倒した魔獣たちの後始末を行う。

 魔獣と言っても別に悪しき存在とか言う事は無い。

 立派な森の生態系の1つだ。

 ただ猿系の魔獣は森を荒らす傾向にあるので見つけたら積極的に討伐することにしている。

 そして倒した獲物は有効活用するのが最低限のマナーというものだろう。

 さくっと正中線を切り裂いて血と内蔵を摘出する。

 う~ん、グロい。

 内臓は食べられないのでここに放置して土の養分になるか通りがかった獣の餌になってもらおう。

 軽くなったところで『収納空間』にポイだ。


「えっ、主様は『収納』が使えるんですか!?」

「先日教えて貰った」


 これも子作りに来ていた女性から教えて貰ったものだ。

 教えた本人も出来るとは思ってなかったらしく『こいつ化け物か』って顔をされたけど。

 勇者のご都合主義バンザイだ。

 お、血の匂いに誘われたのか別の魔獣が近づいてきてるな。


「キーネさん。お待ちかねの追加の魔獣が近づいてきてるよ」

「よしっ、じゃあ今度こそ私がバシッと行くから見ててください!」


 気合十分なキーネさんの前に現れたのは全長3mの熊の魔獣だった。

 立ち上がるとキーネさんの倍くらいの身長がある。

 体格が大きいなら当然力も強い訳で、だけどキーネさんは臆することなく飛び込んでいった。


「どりゃっ」

『ガウッ』


 キーネさんの初撃は魔獣の腕に防がれた。

 お返しにと魔獣が横薙ぎに攻撃してくるがキーネさんはバックステップで回避。

 そのまま振り払われた方へと回り込むように移動する。

 それを追って魔獣も身体の向きを変える。

 お陰で俺からは側頭部が丸見えだ。

 ここで矢を射れば倒せるだろうけど、まだキーネさんのターンかな。

 逸る気持ちを押さえつつキーネさんの戦いを見ていると魔獣の手がギリギリ届かない位置でスルリスルリと軽快に避け続けている。

 そして業を煮やした魔獣が両手を広げて飛び掛かってきた所を真上に跳んで回避。

 ついでに顔の前を尻尾で覆って視界を遮るおまけ付き。


「主様、今です!」


 その言葉を合図に俺は弓を射た。

 狙いは正確に魔獣の耳の穴を貫通して絶命させた。

 というかこれだけ落ち着いて時間を確保してくれたのだから外したら笑われる。

 距離だって10mも離れてないし。

 戻ってきたキーネさんとハイタッチを交わす。


「見事な身のこなしだったな」

「えへへ。ありがとうございます」

「後でコツを教えてくれ」

「はいっ」


 キーネさんは実に満足げな顔になっていた。

 よし、獲物も十分取れたしぼちぼち帰ろう。

 俺達の目的は仲良くなることであって肉の確保ではないのだから。



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