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異世界は勇者よりも種馬を求めていた  作者: たてみん
2.勇者事始め

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13.(閑話)サチカの手記

 4の月3日。

 私の元に1通の辞令が届いた。

 1週間後に指定の場所に来るようにと。

 それ以外の詳細は一切書かれていないけれど差出人は王家。

 偽物を疑う余地は無い。

 念のため勤め先に確認を取るも『話は聞いている。お務め頑張ってこい』と送り出された。

 ちなみに10年近く前にも同じような辞令は届いたことがあるけど、その時はもうちょっと親切な内容だった。


『おめでとうございます。あなたは子作り候補生に選ばれました。

 この書類を持って指定の場所に行き、迎えが来るまで待機してください』


 まだ何も知らない子供だった私は、遂に自分の番が巡って来たんだと喜んだものだ。

 実際に子作りの儀を行ってみれば理想と現実のギャップに絶望したのだけど。

 あ、ということは私が産んだあの子はもうすぐ9歳か。

 出発前に一度顔を見に行こう。



 4の月10日。

 指定された場所に来てみれば私同様に辞令を受けた人達が数十人居た。

 しかも全員が私と同じかそれ以上の高レベルの戦闘系職業だ。

 このメンバーを集めてどこかに戦争でも仕掛けるのだろうかと思ってしまったが違った。

 後から入ってきた今回の件の責任者と名乗った人が集めた理由を教えてくれた。


【勇者召喚の特別警備隊】


 それが私達に与えられた任務だった。

 今から約1月後に行われる勇者召喚に際し、各種警備ならびに勇者の案内と警護、そして監視を行う。

 1月早く集まったのはその任務を遂行するための教育を施す必要があるからだそうだ。

 最初に教えられたのは『勇者とはどういう存在か』ということ。


(え、子作りの為に異世界から招待した人間じゃなかったの?)


 私の認識は全く間違っていた。

 まさか誘拐まがいの方法で強制的に召喚していたとは。

 そしてその償いに彼らの要望は極力叶え多少の乱暴には目を瞑るのだという。

 ただし幾つかの例外を除いて。

 例外とは、例えば召喚士に危害を加えようとした場合。

 召喚士という職業は世界中で5年に1人生まれるかどうかという、替えの利かないとても希少な職業だ。

 間違っても失う訳には行かない。

 だから召喚直後に錯乱して召喚士に襲い掛かる勇者が居た場合、生死を問わず取り押さえることになる。

 他には極稀にではあるが精神異常者や快楽殺人鬼のような勇者が召喚される場合もあるのだとか。

 ただそういう勇者に限って平時は従順な姿で居ることが多いので、個別に面談する際に警戒する必要があるらしい。


『手足の2、3本は折って良いが出来れば殺すな』


 生きてさえいれば何をしても問題ないとも取れる指示だ。

 ただやはり元気な方が子作りしやすいのも確かなので、多少の変態性は目を瞑るようにとも言われた。

 その匙加減はこちらに任された。

 私の考える基準は、やはり以前会った勇者だろう。

 10年前のあの人は、なるほど私達を乱雑に扱っていた印象が強いが故意に痛めつけようとはしていなかった、と思う。

 少なくとも私が屋敷に滞在していた数日の間に子作り候補の人が壊されたという話は聞かなかった。

 まぁ同じ人間とは考えたくない位あれだったが。



 5の月〇日。

 ついに勇者召喚の日がやって来た。

 召喚の日時、場所は極秘事項なので記録はぼかす必要がある。

 『召喚の間』と呼ばれる一室に集まった私達は部屋の中央で儀式の成功を待った。

 そして、一瞬の光と共に先ほどまでは居なかった人間が30人ほどが現れたのだった。


(彼らが勇者)


 一言に勇者と言っても体格も肌や髪の色もバラバラだ。

 前情報通り、突然この場に呼ばれた所為で慌てているが召喚士に襲い掛かる者は居ない。

 よし、まずは第一関門クリアだ。


(おや、あの人は)


 慌てたり興奮したりする勇者たちのなかで1人だけ恐ろしく落ち着いた人が居る。

 いや、平静を装っている人なら他にも何人か居るのだけど、あの人だけ次元が違うというか。

 気になった私は隊長に交渉して彼の警護担当になることに成功した。

 そして個室に2人きりになって話をしてみて違和感は大きくなっていく。


(彼は本当に勇者なのか?)


 以前会った勇者とも、前情報で聞いていた勇者像ともまるで違う彼は何者なのか。

 まさか本性を表に出さないように特殊訓練を受けているのかもしれない。

 ならここは私が一肌脱いで確かめてみるか。

 私は努めて優しい笑顔を浮かべながら彼に話しかけた。


 数時間後。

 彼が眠りに就いたのを確認した私は同僚の集まる部屋へと向かった。

 そこで待ち構えていたのはため息の嵐。

 勇者から聞き取り集めた子作り相手の要望は随分とその、あれだった。

 やはり彼が例外だったというだけで、他の勇者は前情報通りの○○(クズ)ばかりだったらしい。

 いったい彼は何者なのか。考えても答えは出ない。

 これは今後も注意深く観察しなければならなさそうだ。



 それから数日。

 彼と共に拠点となる屋敷に移り住み、本格的に子作り活動が開始された。

 容姿や年齢などには一切拘らないという彼を試すように全く違う個性の4人が最初の子作り相手としてやって来たが、彼は動じることなく平等に接しているように見える。

 子作りの儀を終えた人に「大丈夫でしたか」と訊ねたところ「噂で聞いていたのと全然違いました。あれなら子供が出来るまで何度でも出来そうです」と答えられた。

 彼女の言葉は私も同意できてしまう。

 それと同時にこれが10年前に行った子作りと同じ行為だったのかと疑問が湧いてきた。

 あの時はただ苦痛に耐える時間だったから。

 しかしその疑問も妊娠が発覚した人が現れたことで解消された。

 さらにその後は立て続けに妊娠していった為、その人だけ特別だった訳ではない事も分かった。

 そして屋敷を去っていく人達の元気な、それでいて名残惜しそうな姿に、私は彼こそが本物の勇者なのだと確信した。



 翌年の5の月3日。

 私は任務から離れ地元へと帰って来ていた。

 腕の中では春の日差しを浴びながら気持ちよさそうに寝ている2人目の我が子の姿があった。

 その目元はどことなくあの人に似ている気がする。

 あの人は今も子作りの儀を続けているのだろうか。

 妊娠が発覚したことで別の任務、つまり出産と子育てに従事することになった時に教えて貰ったのだが、多くの勇者の寿命は半年も無いらしい。長生きするのはごく僅かだと。

 多分それは『だからあまり気に病むな』という慰めの言葉だったのだろう。

 前回なら確かに気休めになっただろうけど、今回は逆効果だ。

 だけど私には確信があった。

 あの人ならまだ生きて元気に暮らしているだろうと。

 だからダメ元で手紙を送ってみた。


『無事に子供が産まれました。名前はコーリンです。サチカより』


 国の検閲が入るので要点だけの短文で。

 届けて貰えるかも賭けだし、まだ生きてるかも不明だから返事は期待しない。

 だというのにほんの2週間ほどで返信が来た。


『最初があなたで良かった。

 どうぞ母子ともに健やかにお過ごしください。幸助コースケ


 拙い字体で書かれたそれは、最後の2文字だけ達筆な記号で締めくくられていた。

 多分というかちゃんとルビが振ってあるので意味は分かる。

 これがあの人の世界の文字なのだろう。

 つまり本物だ。

 この子が大きくなったらこの手紙と一緒に彼の事を話してあげよう。

 あなたは本物の勇者の子なのよと。



この世界が王政なのか共和制なのかは悩ましい所ではありますが、本編には関係ないのでサラッと読み飛ばしてください。


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